狂愛サイリューム

須藤慎弥

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10♡緊急任務

10♡5

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 事務所に到着すると、駐車場で映画の撮影終わりの恭也と林さんにバッタリ会った。

 十七時頃レッスン開始ってスケジュール表にあったから、それもそうだ。

 スタジオへと歩く道中で、二人にもこれから撮るダンスについての事情を説明した。 そういう事なら、他のダンサーさんや聖南達もやって来るという合同練習の前に撮ってしまおうと、何故か林さんが張り切っている。

 どこからか学校にあるような木製の机を引っ張り出してきて鏡の前に置き、動かないようタオルとガムテープで無理やり固定させたデジカメをセットする(三脚が無かったらしい)。

 デジカメの操作は大張り切りの林さんがしてくれるらしくて、早々と着替えを済ませた俺とルイさんは向かい合って振りの最終確認をした。

 示し合わせたようにルイさんと俺は同じメーカーの色違いのジャージを着てるけど、これは単なる偶然だ。


「うぅ……レンズが見てる……」
「葉璃、頑張って」
「恭也ぁ……」


 本番でも何でもない、memoryの激励のために踊るだけなんだからこんなに肩肘張ってちゃダメなのに、デジカメのレンズがこっちを向いてると緊張して手汗が滲んでくる。

 白のラフなシャツと、濃紺のラインが入った黒のジャージを着た恭也が、俺のカメラ嫌いを察して映りこまないようスタジオの端っこに腰掛けながら微笑みかけてくれた。

 撮影の意図を話し、十五分だけ時間ちょうだいって言った時の恭也のふんわり笑顔がすごい破壊力だったのを思い出す。 「うん?どうしたの?」っていう声までかっこよかった。

 俺達は似た者同士のままだよ、と言ってくれた恭也の言葉に嘘はない。 でも、近頃の恭也は演技の世界に足を踏み入れて揉まれ始めて、目付きが変わった気がする。

 本人に言っても信じてもらえないから言わないけど、ほんとにイケメンに磨きがかかった。

 こうなってくると、世間からチラホラ聞こえてくる俺達ETOILEの危なげな妄想が、ファンの人達の間でさらに広まりそうだ。

 ……まぁそれは、聖南と俺との仲の目くらましになるからいいって、知ってる人達はみんな言うんだけど。


「ハル太郎、髪の毛鬱陶しない?」


 恭也と会うとすぐに縋ってしまう俺は、完全にルイさんを蚊帳の外にして恭也と見詰め合っていた。

 そこにぬっと長身の影が現れて邪魔される。

 赤茶色の髪を結びながら俺を見下ろしてきたのは、甘えを許さないルイさんだ。


「あー……結ぼうにもゴムとかピンとか持ってないんです」
「そうなん? じゃ俺のあげるわ」
「えっ? いいですよ、そんな……っ」
「なんや、また汚い言うんか」
「そうじゃないですってば! ていうか汚いなんて一度も……」
「トイレしたあと手洗わないんですか、汚いって言うたやんか。 俺は根に持つタイプなんでな」
「あぁっ! よく覚えてますね! でも洗わないのはほんとに汚い……」
「黙っとれ」


 ルイさんの左の手首にあったもう一つのヘアゴムで、俺も人の事は言えないくらい伸びた髪を結んでもらう。

 ヘアメイクさんに顔や髪をイジられる時の癖で目を瞑っていると、どうも様子がおかしい。

 てっきりルイさんみたいに後ろで一つ結びにしてくれるのかと思ったら、鏡を見ると前髪だけ上がったちょんまげスタイルになっていた。

 髪が汗で首に張り付いちゃうから、どうせなら全部結んでほしかった……。 これ恥ずかしいよ。 顔面丸出しだよ。


「る、ルイさん……どうせ結ぶなら後ろで……」
「これでええ。 ハル太郎、ストレッチしよ」
「えっ、ちょ、っ……うわ……っ」
「細っ! 軽っ!」


 ひょいと抱え上げられた俺は、スタジオの床にうつ伏せに横たえられた。

 すかさず腰にルイさんが乗ってきて、「重い!」と文句を言おうした俺はすぐに口を閉じる。

 ルイさんはストレッチしよって言ったはず。 それなのに始まったのは、誰がどう見ても絶妙な強さで施されるマッサージだ。

 寝不足の原因となった聖南とのエッチで、確かな体の硬さを自覚していた俺は思わず……。


「きもちぃ……」


 と呟いていた。

 瞬間、恭也から怒ったような口調で名前を呼ばれたけど反応出来なくて、首から背骨、腰骨に沿っての筋肉を解してくれている手のひらに呟きが止まらない。


「やばい……あっ」
「ハル太郎ガチガチやんけ」
「ん……運動不足だからかなぁ……」


 親指でグイ、グイ、と背中を押される度に吐息が漏れる。

 そんなに硬い方じゃなかったんだけど、やっぱり毎日レッスンしてた二年前と比べると体は正直みたいだ。


「ダンスの時あんだけ動いてんのにちゃんとケアしてないからやろ。 レッスンの前後は入念にストレッチせんと」
「ぅあっ……そこ痛い……っ」
「凝ってるな。 あんまグリグリすると揉み返しくるかもしれんから、ここは軽めにしとくわ」
「あぁぁっ……痛いぃぃ……!」
「我慢せぇ。 その調子やと太ももとふくらはぎもヤバいんやないの?」
「やだ……っ、痛いのやだ……っ」
「暴れんなや、ハル太郎。 その痛み乗り越えたら楽になって、気持ちよくなるんよ」
「ほんと……っ? 気持ちよくなる……っ?」
「俺を信じろ」
「……分かった……!」


 揶揄いも嘲笑もないルイさんの手付きに従うなんて、心のどこかで納得いかなかった。

 どうしてこんな事してくれるの?って聞くのも嫌だった。

 ただ、ルイさんの言うケアをした事が無かった俺にとって、その手のひらは魔法みたいに巧みで爽快で……。


「あっ……ちょっ、そこ痛いよっ……あっ、!」
「おい、声やめぇや。 変な事してる気になるやんか」
「仕方ない、でしょ! 出したくて、出してるんじゃない! んぁぁっ」
「うるさいっちゅーの。 口押さえといて」


 分かってるもん……!

 でもみんな、背中とか腰とかを絶妙に揉まれたら気持ち良くて声出ちゃうよねっ?

 恭也と林さんがいる前で俺も恥ずかしいし、何なら耳塞いでてほしいって思ってた俺の手首を掴んだルイさんは、ほんとに口を塞ぐよう促してきた。

 聞くに堪えないのは承知してるけど、従いたくない。

 ───でも、恭也の溜め息混じりのこんな呟きを聞き逃さなかった俺は、素直に手のひらを口にあてがって声を殺す事にした。


「……こんなとこで、葉璃の喘ぎ声聞くとは、思わなかった……」
「────!!」


 ご、ごめん、恭也……。

 決して、決して、喘いでたわけじゃないんだけど……そう聞こえちゃったんならすごく申し訳ない……。

 そんなつもりないんだよって弁解も出来ないまま、俺は三分と言わず施されたマッサージを口を塞いで耐え抜いた。




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