109 / 601
10♡緊急任務
10♡4
しおりを挟む… … …
「おっはよーさん! って、なんやハル太郎。 疲れてんなぁ」
疲れてるなって? そりゃそうだよ。 クタクタだよ。
二時間も寝てなくて、おまけにまだお尻の感覚が変だし、声出し過ぎて喉も本調子じゃない。
マスクで風邪気味な雰囲気を出して誤魔化してはみたけど、元凶である聖南の獣を呼び起こしたのは紛れもなく俺だから文句も言えない。
約一週間も禁欲中だった恋人は、これでも加減したと恐ろしい事を言いつつ謝ってたもんなぁ……。
「……おはようございます。 ……今日はハル太郎なんですね。 二回目じゃないですか?」
「可愛いやろ、○ム太郎みたいよな。 見た目とピッタリ。 今のところな、しっくりくるかは置いといて俺のお気に入りなんよ」
頭が働かないから、とりあえず「ふーん」と気のない返事をして、スマホを見てみる。
現在、朝の九時前。
聖南に送ってもらい、事務所ロビーに設置されたソファに腰掛けていた俺は、ルイさんが来るまで大きな窓から降り注ぐ朝陽の暖かさにやられてウトウトしていた。
ほんの数分前まで座ったまま意識を飛ばしていた俺には、朝からこのやかましい声は精神衛生上よくない。
「ハル太郎が……?」
「そうや。 てかマジでどしたん? 寝不足か? 風邪か? プロ意識どこ行ったん?」
「もう~うるさいなぁ……。 仰る通り寝不足なので、移動中ちょっとだけ寝かせてください」
「分かった分かった。 着いたら起こしたるわ」
「お願いします」
今日も絶好調なルイ節を聞かされて、つい本音が出てしまう。
腕を引かれて社車の後部座席に誘導してくれたルイさんに「ハル太郎は眠いです……」とだけ告げ、膝を曲げて横になった。
走り始めてすぐに俺は寝てしまい、本当に現場に着くまでほっといてくれたルイさんから、今日の仕事内容を教えてもらう。
一つ目の仕事は、雑誌の取材。
これは午前中いっぱいで終わって、午後は別の雑誌の撮影プラス取材だった。
この二社の雑誌の仕事は毎月、ETOILEのハル単体にきているものだ。
ありがたいけど、未だに担当の人と目を合わせられない俺は不覚にもルイさんに随分と助けられた。
ここの現場だけじゃない。
林さんと恭也が居なくて縮こまる俺は、一人で赴いてもウジウジしててきっとみんなをイライラさせてたんじゃないかな。
そんなだから、普段ならいくらも時間のかかる撮影や取材が、ルイさんと行動を共にし始めてからはかなり時間短縮出来ている。
事あるごとにイラっとする台詞を吐かれはするものの、話し方や馴れ馴れしさはさておき初対面の人とも臆さず話せるところは見習わなきゃいけない。
皮肉にもルイさんの第一印象が最悪だったおかげで、二度とあんな事言われたくないって思いで仕事に取り組めている相乗効果も生まれた。
こんなに身近に叱咤激励の叱咤だけしてくる人が居たらボーッとも出来ないし、甘えるなんてもってのほかだよ。
「ハル太郎、今日も春香ちゃんのとこ行くんか? こっちはこっちで週末の特番に備えて練習あるやろ? しかも今日はCROWNも合流する言うてたし、俺スタジオから動けんのよな」
「あ……そういえば佐々木さんからメールきてました。 ……んーと、……」
あっという間に一日の仕事を終えた俺は、ルイさんと車に乗り込んですぐに佐々木さんから届いていたメールを開く。
昔みたいに春香達と一緒に踊っていると楽しくて楽しくて、どんなに遅くなって疲れていても出来るだけ相澤プロのスタジオに足を運ぶようにしていた。
動きを見てほしいと言われてたけど、行ってみて分かった。 春香達は、新しいジャンルの振付けにみんながみんな手探りだっただけだ。
しかも、送ってくれるルイさんが二回目以降から早くもmemoryのメンバー達と仲良くなって、ダンサーである事を理由に振付けを一緒に見てくれたりもした。
振りを覚えるのが早いと珍しく俺を褒めてくれたルイさんこそ、覚えが早かったんだ。
メンバー一人一人の動きを、相澤プロのレッスン講師と並んで真剣に見ていたルイさんに、「どんな立ち位置なんですか」って笑いながら言った事もあった。
……返ってきたルイ節はこうだ。
『どんな立ち位置もこんな立ち位置もあるかいな。 ダンサー皆兄弟なんよ。 ジャンルで判断して毛嫌いしたらいかんなって、俺も反省してる』
肩まで伸びたチャラついた赤髪をひと括りに結んで、ジャージ持参で付いてきて張り切ってるのは伝わったけど、ルイ節の意味は全然分からなかった。
とにかくmemoryのみんなも相澤プロのレッスン講師も、ルイさんを大絶賛してる。
元気いっぱいで嘘のない社交性の塊……これだけだと聖南とよく似てるんだけど、ルイさんの事は何かずっと苦手なんだよね。
何が違うんだろって考えてみても、よく分かんない。 ……聖南がいい。
「えーっと、……こっちに来るのは難しいだろうから、ルイさんと俺のダンス映像を撮って送ってほしい、……そうです。 memoryの二曲分」
「ん~? 俺もか? なんでや?」
「春香達の励みになるからって」
佐々木さんからのメールを読み上げると、事務所に向かうべくハンドルを握ったルイさんがルームミラー越しに俺を見てくる。
「ハル太郎のV送るのはええとして、なんで俺もなんよ」
「あれだけ春香達と馴染んでてよく言いますよ。 ルイさんの社交性、ちょっと分けてほしいです」
「そうやなぁ、俺とも最初は目合わせんかったもんな、ハル太郎。 やっと見てくれるようになったけど。 なっ? なっ?」
「え、っ……いや、そんな見ないでくださいよ……! 怖いです!」
「あははは……! おもろ」
「俺はちっとも面白くないです!」
信号待ちで振り返ってきたルイさんの視線から、逃れるように窓の外を見た。
聖南と出会う前にタイムスリップしたかのような、懐かしい感覚でみんなと踊れて楽しかった中にすんなりとルイさんが馴染んできた事は事実だ。
人好きされる明るさと、顔をくしゃくしゃにして屈託なく笑う飾り気のなさ……そして俺が一番認めたくないのは、振りを覚える早さとダンスの上手さ。
一緒に踊っていると、楽しいと思ってしまっていた。
10
あなたにおすすめの小説
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
元アイドルは現役アイドルに愛される
陽
BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。
罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。
ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。
メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。
『奏多、会いたかった』
『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』
やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。
隊長さんとボク
ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。
エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。
そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。
王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。
きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。
えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。
オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる