狂愛サイリューム

須藤慎弥

文字の大きさ
128 / 632
12♡緊急任務・生放送本番

12♡3

しおりを挟む



 ミナミさんの姿が見えなくなるまで、何だか重たい心持ちでその場に佇んでしまっていた。

 三階建てのSHDの事務所は都会の住宅街の中にあって、二十一時を過ぎると人なんてほとんど行き来してない。

 ここには完全防備な俺に気付く人は居ないだろうから、思いっきりぐるぐる出来た。


「嫉妬、かぁ……」


 そんな風に見られてるなんて、ちっとも気が付かなかった。

 どれだけ必死でその道の末端から頑張っても、デビューして、売れっ子アイドルになれるのは限られたほんの一握りの人達だけ。

 グループに選抜される事さえ奇跡で、デビューしたところではじめから爆発的に売れるというのは確率的に見てもゼロに近いと思う。

 素人同然だった俺、そして養成所でレッスンを受けてきた恭也は、大手事務所のバックアップがあったから仕事を貰えてる。

 数多くの男性トップアイドルグループの中で、抜きん出て人気を誇る『CROWN』の弟分である事も理由の一つだ。

 俺は運が良かった。 ほんとに、つくづく恵まれてる。

 デビューして二年くらい日の目を見なかったmemoryが間近に居たから、女性グループが売れっ子になるまでの険しい道のりは理解してるつもりだ。

 何かに突出してない限り、生き残れるか以前にファンが付いてくれるか、事務所が満足いくほど売れるかどうかが重要視される。

 Lilyは、確実にそうなれていた。

 彼女達がどういう経緯で集まったメンバーなのかは分からないけど、Lilyとしてデビューし少しずつ認知され、世間に受け入れられて夢を掴んだ矢先の事実上の活動制限。

 SHDの事務所とLilyの体面を保つために、別事務所から俺を借り出すほど状況は逼迫してる。

 アイさんの軽率な行動で、表には絶対に出せないスキャンダルを抱えてしまった彼女達は、行き場のないストレスと怒りを溜めまくっていて毎日が鬱屈としてるんだ。

 聖南に物申されて、ちょうどいい捌け口だった俺へも吐き出せなくなった。

 気持ちは分かる。 だからって、俺はどうしたらいいか分からない。

 夢が潰えてしまいそうな現状を前に、それを止める事が出来ない、リーダーであるミナミさんの背中が悲しそうだった。


「崩壊寸前……そんなのダメだよ……」


 明日の本番も、その後年末までのいくつかの仕事も、今まで通りこなせるのか不安になってきた。

 だって……俺の存在が、みんなの怒りを増長させてしまってるんじゃないかな。

 はじめと今の気持ちが変化してるのなら、もっともっと俺を煙たがって、顔も見たくないと思われてるんじゃないかな。

 ───すれ違ったまんまなんて俺は嫌なのに……そうならざるを得ないどうしようも出来ない状況が、自分の無力さが、とてもツラい。


「……ハルっぴ?」
「……え、?」


 聖南からのメッセージを開くのも忘れて歩き出した俺は、今ここに居るはずのない男から独特なあだ名で呼ばれた。

 振り返っても誰も居ない。

 声の主は、路肩に停められた黒い軽自動車内から顔を覗かせていた。


「ル、ルイさん。 どうしたんですか?」
「ハルっぴこそ何してんの」
「あっ、え、あっ……俺はその……散歩!」
「はぁ? 嘘やん」
「嘘じゃないです! 体力付けるために歩いてて……って、ルイさんはこんなとこで何してるんですか」


 まさか遭遇するとは思わない人と突然出くわしたから、頭の中が一瞬真っ白けになった。

 咄嗟に思い付いたのが「散歩」だなんて、嘘が吐けないのを露呈してるようなものだ。


「聞くまでもないやろ。 俺はヒナタちゃんの出待ちや」
「え!?」
「俺がヒナタちゃんに夢中なんは知ってるやろ?」
「あっ、まぁ、まぁ、……はい……」
「てか窓開けとると暑いわ。 ハルっぴ足無いなら送るから乗りぃや」
「あ、いえ、その……」


 ルイさんに手招きされてやっと、俺は聖南からのメッセージを見なきゃと慌てた。

 スマホを取り出しつつ、「早よう」と急かされてとりあえず助手席に落ち着く。

 もう七月だ。 夜も蒸し暑いのは当然で、ぐるぐるしてた俺もいつの間にか汗だくだった。

 ルイさんの香水の匂いが充満してる車内はキンキンに冷えていて、タオルで汗を拭ってる間にも体内の熱が冷めてくのが分かる。

 気付かなかったけど、考え過ぎて頭が沸騰しかけてたみたいだ。


「ヒナタちゃん表から出てしもたんかなぁ。 裏口張ってたのに会えんかったから、今日は諦めるわ」
「張ってたって……いつから居たんですか?」
「二時間くらい前やな」
「そんなに!? それってストーカー……」
「やめろや! 俺は純粋にヒナタちゃんを追っかけてるだけ!」
「その純粋さが危ないんですよ、たぶん」
「俺をストーカー扱いすんなやぁ……そう言われるとそうなんかなって思てしまうやん……」
「立派にストーカーの仲間入りです」
「うるっさいわ!」


 リハーサル終わりで事務所に立ち寄るという情報を仕入れていた事さえ怖いのに、二時間もヒナタを待ってたなんて恐ろし過ぎる。

 ルイさんもCROWNのバックダンサーをこなした後で、同じくリハーサル終わりなはずだ。

 その足でヒナタの出待ちにやって来たって事か……。

 この様子じゃ、俺がミナミさんと裏口から出て来たところは見られてないみたいだけど、ルイさんの「ヒナタちゃんに夢中」加減が前より白熱してるのはちょっと危険だ。

 今日会えなかったからって、明日の現場でどうしてもヒナタと接触したいと闘志でも燃やされてたら、めちゃくちゃマズイよ。

 俺は聖南からのメッセージを開きながら、「ヒナタちゃんに会いたかった」とうるさいルイさんを横目に見て、大きな溜め息を吐く。


 ───明日が思いやられるなぁ……。



しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

灰の底で君に出会う

鮭茶漬け
BL
両親を亡くした高校生、神崎透は叔母の家に引き取られて暮らしている。しかしその家は、家族と呼べる場所ではなかった。家事、雑用、そしてバイト。どれだけ働いても感謝されることはなく、透は「穀潰し」と呼ばれながら日々を過ごしていた。 それでも透は思っている。ここに置いてもらえるだけでありがたい、と。 これは――居場所を持たなかった少年が、初めて愛を知るまでの物語。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

処理中です...