狂愛サイリューム

須藤慎弥

文字の大きさ
129 / 601
12♡緊急任務・生放送本番

12♡4

しおりを挟む



「ハルっぴの家ってこの辺なんか?」
「いえ、違いま……あ、えーっと……」
「どこに送ったらええ?」
「あっ、ちょっと待ってください」


 正真正銘ヒナタのストーカーとなったルイさんの車の助手席で、ようやくスマホを起動させる。

 聖南からは三つのメッセージと二件の着信が入っていた。


「あの……事務所で、お願いします」
「またかいな。 俺の事そんなに信用出来んか?」
「違いますよ! そうじゃなくて、迎えに来てくれるらしいので……」
「誰が?」
「…………聖南さん」
「え、はっ? セナさんって収録中やろ?」
「ついさっき終わったらしいです」
「連絡きたって事? ハルっぴ、そんないつもいつもセナさんに送ってもらうってどういう事なん?」
「……これには深い理由があるんです」
「…………めっちゃ濁すやん」
「と、とにかく、送ってもらえるなら事務所までお願いします! ありがとうございます!」
「…………礼言うて先手打つやん」
「ルイさん、前見て! 前!」


 濁した俺に不服そうな視線をくれるルイさんが、慌ててブレーキを踏んだ。

 二時間も出待ちしてヒナタに会えなかった喪失感を、俺にぶつけないでほしいよ。

 厳密に言えば会えてるんだけど、そんな事も言えないし……ましてや聖南との関係なんてもっと言えない。

 メッセージを見る限り、聖南はSHDの事務所に迎えに来るつもりだったみたいだ。 俺がルイさんと居る事を伝えると、ものの十秒で「なんでルイと居るんだよ」と不満タラタラな返信が届いてキュンとした。

 聖南、またヤキモチ焼いてる。


「ハルっぴ、お前やりよったなぁ」
「やりよった? 何をですか?」


 右肘を窓枠に置いて左手だけでハンドル操作をするルイさんは、完全にプライベートモードだった。

 見た目がチャラチャラしてる人は自家用車までチャラついてる。 ……気がする。

 俺が今座ってる助手席に狙ってる女の子を乗せて、ルイ節で巧みに口説く様子を想像してみた。

 「ハルっぴの家って事務所にあるんやないの」なんて、まだブツブツ言ってる今風の横顔を盗み見する。

 ぷぷ……っ、やっぱり似合い過ぎる……っ。

 変な話だけど、ほんとに "ヒナタちゃん" に会えてたらルイさんはどうする気だったんだろ。


「何をって。 あんな短時間で歌と手話覚えるやなんて、ハルっぴマジでやりよったー言うてんの」
「あぁ……その事ですか」
「……何笑ってん」
「笑ってないです、ちょっとだけしか……」


 ルイさんごめんなさい。 嘘吐いた。

 チャラ男の想像が行き過ぎて、ルイさんが南国の島で女の子をはべらせて豪遊してるとこまで想像してた。
 
 せっかく、甘えを許さない叱咤のルイさんが褒めてくれてるのに、失礼な事しちゃった。


「まぁええわ。 ヒナタちゃんには会えんかったけど、ハルっぴに会えたしな」
「…………?」
「よう頑張ってんな、って言わなと思てて」
「えっ!? ルイさんが……っ、ルイさんが叱咤しない……!」
「なんでそんな驚くんよ。 俺はハルっぴの大食いの方が驚いてるわ」
「俺は大食いじゃないですよっ。 人より気持ち多めに食べてるだけです」
「それが大食いやっちゅーの」


 ど、どうしたんだろ……ルイさんが叱咤激励の激励の方を、こんなに屈託なく笑ってくれながら見せてくれるなんて。

 そういえば、昨日も霧山さんの代役するって決めた時すごく心配してくれてたな。

 最近のルイさん、優しくて調子が狂う。

 臨時マネージャーとなって俺についてくれてから、日に日にツンケンした態度が無くなってたの……気のせいじゃなかったのかな。

 あ、もしかしてこうやって俺を油断させておいて、後からまた叱咤の嵐で凹ませようっていう作戦?

 そんな意地悪な人には見えないけど、最初の印象が根強いからどうしても悪い方に考えてしまう。

 なんたって俺は、卑屈ネガティブ野郎だし。


「お、もうセナさん来てるやん」
「ほんとだ……っ」


 ルイさんの車が事務所の駐車場に到着すると、聖南はこの暑いなか車外で俺を待っていた。

 近付いてくるアイドル様のその表情は、頑張って取り繕ってるのが見え見えだ。

 何もやましい事なんてないのに、聖南のヤキモチ顔を見ると胸がザワザワするから、急いでルイさんにお礼を言って車を降りた。


「聖南さんっ、お疲れさまです! ルイさんとはたまたま会ったんですよ! ねっ?」
「そうや。 ストーカーって言われてしまいましたけどね」


 続けて降りてきたルイさんを振り返って、よくない事の言い訳をしてるみたいに早口で捲し立てる。

 なんでこんなに焦るんだろ……聖南の考えてる事が手に取るように分かるから?

 「俺以外の男と二人きりになるな」っていう聖南の約束ごとは、ルイさんにも適用されるの?

 あわあわすると余計に聖南が怒っちゃうのが分かってるのに、俺は冷静さを欠いてしまう。

 首を傾げた聖南とルイさんの間に挟まれた俺は、ちょっとだけ気配を消して黙っておく事にした。


「……ストーカー? 誰の?」
「ヒナタちゃんっす!」
「あ? て事はルイ、SHDの事務所前に居たのか?」
「そうなんす! リハ終わりにハルっぴ送ろう思たらもう居らんし、足は必要ないってメッセージもきてたから俺は自由行動を」
「それで出待ちしてたのか」
「会えんかったっすけどね」
「そりゃ無理だろうな」
「なんでなんすかぁ! てっきり裏口から出て来る思たんに、今日に限って表から出て行きよったんですよ、ヒナタちゃん! 憎いわぁ!」


 うぅ……聞いてられない……。

 ヒナタに夢中なのは怖いけど、本気で出待ちしてたルイさんを結果的には騙してる罪悪感が、じわじわと襲ってくる。

 俺がルイさんと居た経緯を知った聖南は、心なしかホッとした柔らかな表情に変わった。


「ヒナタとは縁がないって事なんじゃねぇの?」
「嫌やぁ……こんなの神様のイタズラとしか思えんでしょ……」
「あんま熱入れ過ぎるなよ、ルイ。 アイドルと恋愛するのはすげぇリスク背負うことになんだから。 ヒナタの都合も考えて動け」
「……了解っす……」
「分かればよろしい。 葉璃送ってくれてありがとな。 じゃ行くか」
「はい」
「あ、セナさん待ってください」




しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

隊長さんとボク

ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。 エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。 そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。 王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。 きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。 えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。 ■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。 ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

あの夏の日を忘れない ~風紀委員長×過去あり総長~

猫村やなぎ
BL
椎名由は、似てるという言葉が嫌いだった。 髪を金にして、ピアスを付けて。精一杯の虚勢を張る。 そんな彼は双子の兄の通う桜楠学園に編入する。 「なぁ由、お前の怖いものはなんなんだ?」 全寮制の学園で頑張り屋の主人公が救われるまでの話。

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

処理中です...