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13❥生放送本番・七月二十二日
13❥
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─聖南─
緊急任務を無事終えた直後、ヒナタに変身した葉璃が会話もそこそこにLilyの方へ行ってしまった事で、残ったCROWNの三人と成田、恭也の全員は沈黙していた。
差し迫る本番ゆえに、ロクに労いも激励も出来なかったため、我が事のように緊張を滲ませる五人の空気は重たかった。
「───失礼します」
コンコン、と静かなノック音と整然とした声が、聖南達が待機する楽屋内に響いた。
非常に張り詰めた空気が、扉から入って来た人物によって少々和らぐ。
「お、樹じゃん! どうしたんだよ」
「佐々木マネージャーだ、お疲れ様~」
「お疲れっす」
「お疲れ様です。 セナさん、ちょっとよろしいですか」
「ん?」
突然現れた佐々木は、今日も相変わらずカッチリとしたサマースーツを着こなし、エリートよろしくノンフレームの眼鏡を中指で押し上げながら聖南の元へ歩んだ。
いつぞやの事件以来、親しみを込めて「樹」と呼んでいる聖南は佐々木と会うのが相当に久しぶりである。
ぐるりとアキラ達を見回し、佐々木は少しばかり屈んで聖南の耳元で問うた。
「CROWNのバックダンサーであるルイさんは、 "ヒナタ" の正体をご存知なんですか?」
一応は声を顰めた佐々木だったが、ここに居る者らが知らないはずはないだろうとあまり気を使わなかった。
CROWNがここに陣取っている事を知った佐々木が挨拶に来ただけ、そう何気なく思っていた聖南は思わず身を乗り出す。
「えっ? ルイは知らねぇはずだけど……てかなんで樹が知ってんだよ」
「そんなの見たらすぐに分かりますよ。 葉璃に恋して四年目なんですよ? 他者の目は誤魔化せても、私の目は誤魔化せません」
「おい、葉璃への恋が継続してんのはおかしいだろ」
聖南は瞳を細め、佐々木をジロと睨んだ。
何を隠そう、聖南が葉璃と出会う前から佐々木は葉璃に恋心を抱いていた。 しかし色々とあってその想いは消してゆくと聖南の前でハッキリと断言していたが、未だ完全には鎮火に至っていないようだ。
間近でヒナタに変身した葉璃を見て、まるで別人ではないかとここに居る全員が絶句したというのに、一切の事情を知らない佐々木が見抜いていたとは空恐ろしい。
「すみません、失言でした。 そうですか……ルイさんはご存知ない……。 ではなぜヒナタと接触していたんでしょうか?」
「はっ? いつ?」
「たった今です。 ルイさんが物凄い剣幕でLilyの楽屋に入って行かれましたけど」
「何だと!?」
佐々木の言葉に、聖南は勢いよく立ち上がった。
この時、聖南は「葉璃とルイが接触していた」という台詞のみに囚われて動いていた。
ルイはストーカー紛いに事務所前で出待ちしていたほど、ヒナタに夢中なのである。 CROWNの出番以前に、ヒナタに会いにこちらへ来るかもしれないという想定をすべきだった。
この絶好のチャンスを、ルイが見逃すはずはない。
物凄い剣幕で……というのが気になるが、聖南はすぐさま楽屋を飛び出し、Lilyと書かれた貼り紙を探す。
「待って待って!」
「俺らも行く」
「……俺も」
飛び出した聖南を、アキラとケイタ、恭也も当然のように追い掛けた。
事情が飲み込めなかった成田も、佐々木と一礼を交わした後にとりあえずついて行く。
何せ事務所同士の極秘事項である「ヒナタ」が絡んでいると聞けば、動かずにいられない。
ぞろぞろと男達が大移動する様を最後尾で見ていた佐々木が、瞳を据わらせてポツリと呟いた。
「……面白くなってきましたね」
葉璃とルイ、そしてミナミの会話を偶然目撃していた佐々木は、「ヒナタ」の件についてもおおよそ知っている。
未だ忘れられない葉璃のピンチを察し、けれど一度も声を発さなかった葉璃が気にかかり聖南に直接聞きに行ったのだ。
他事務所の一マネージャーが出しゃばるよりも、聖南達が動いた方が話も早い。
如何せん、Lilyの出番が迫っているのだ。
いつ袖待機の声が掛かるか分からないので、扉前に集結した全員が一度腕時計を見るという異様な光景に、佐々木も表情を引き締める。
そんな中、突撃しようとした聖南はノブに手を掛けたまま動けなくなった。
中から確かに、ルイの声がする。
けれどその内容というのが、どうも葉璃に向けてではない。
唇に人差し指をあてた聖南が扉に耳をつける。 アキラと恭也はそれを真似、ケイタと成田はしゃがんだ。
佐々木は廊下を往復するスタッフ等に会釈しつつ、その怪しい四人の様子をただジッと見ている。
『───事務所には "言えん" のじゃなくて、 "言わん" かっただけやろ。 まずここまでのし上げてくれた恩があるやろし、お前らにとってLilyは夢やったんやないの? 本音ではLilyをどうでもいいと思てないって事や』
『………………』
『溜まってる事あるなら吐き出さんとな。 SHDの幹部はそこまで分からずやでないぞ』
『………………』
『……なんであんたにそんな事が分かるのよ』
『ちょっとした知り合いなんよ。 俺な、幹部連中みな知ってるわ』
『はっ!?』
『あんた何者……っ?』
『俺の事はどうでもええ。 お前らの口から言いにくいなら俺が仲取り持ったるから、さっさとヒナタちゃんの衣装返したって。 どうでもいいと思てたらLilyの看板守り続けてるわけないやん。 ストレス発散したいのは分かったから、下衆い真似で発散するのはやめろや』
難しい顔でジッと聞き耳を立てていた聖南は、想像以上に深刻な内容に言葉を失っていた。
大塚社長だけでなく、SHDの幹部連中とも親しいと言うルイは、一体何者なのだろうか。
そのルイが語った事を聞く限り、葉璃はまたも何らかの被害を被った。 その被害とやらもルイの言葉通りであれば大体の見当はつく。
色々と思うところはあったが、聖南はグッと堪えた。
『仲良しこよしはせんでええ。 ただしな、仲間は大事にせんと。 "ライバル" と "敵" は違うんやからな』
緊急任務を無事終えた直後、ヒナタに変身した葉璃が会話もそこそこにLilyの方へ行ってしまった事で、残ったCROWNの三人と成田、恭也の全員は沈黙していた。
差し迫る本番ゆえに、ロクに労いも激励も出来なかったため、我が事のように緊張を滲ませる五人の空気は重たかった。
「───失礼します」
コンコン、と静かなノック音と整然とした声が、聖南達が待機する楽屋内に響いた。
非常に張り詰めた空気が、扉から入って来た人物によって少々和らぐ。
「お、樹じゃん! どうしたんだよ」
「佐々木マネージャーだ、お疲れ様~」
「お疲れっす」
「お疲れ様です。 セナさん、ちょっとよろしいですか」
「ん?」
突然現れた佐々木は、今日も相変わらずカッチリとしたサマースーツを着こなし、エリートよろしくノンフレームの眼鏡を中指で押し上げながら聖南の元へ歩んだ。
いつぞやの事件以来、親しみを込めて「樹」と呼んでいる聖南は佐々木と会うのが相当に久しぶりである。
ぐるりとアキラ達を見回し、佐々木は少しばかり屈んで聖南の耳元で問うた。
「CROWNのバックダンサーであるルイさんは、 "ヒナタ" の正体をご存知なんですか?」
一応は声を顰めた佐々木だったが、ここに居る者らが知らないはずはないだろうとあまり気を使わなかった。
CROWNがここに陣取っている事を知った佐々木が挨拶に来ただけ、そう何気なく思っていた聖南は思わず身を乗り出す。
「えっ? ルイは知らねぇはずだけど……てかなんで樹が知ってんだよ」
「そんなの見たらすぐに分かりますよ。 葉璃に恋して四年目なんですよ? 他者の目は誤魔化せても、私の目は誤魔化せません」
「おい、葉璃への恋が継続してんのはおかしいだろ」
聖南は瞳を細め、佐々木をジロと睨んだ。
何を隠そう、聖南が葉璃と出会う前から佐々木は葉璃に恋心を抱いていた。 しかし色々とあってその想いは消してゆくと聖南の前でハッキリと断言していたが、未だ完全には鎮火に至っていないようだ。
間近でヒナタに変身した葉璃を見て、まるで別人ではないかとここに居る全員が絶句したというのに、一切の事情を知らない佐々木が見抜いていたとは空恐ろしい。
「すみません、失言でした。 そうですか……ルイさんはご存知ない……。 ではなぜヒナタと接触していたんでしょうか?」
「はっ? いつ?」
「たった今です。 ルイさんが物凄い剣幕でLilyの楽屋に入って行かれましたけど」
「何だと!?」
佐々木の言葉に、聖南は勢いよく立ち上がった。
この時、聖南は「葉璃とルイが接触していた」という台詞のみに囚われて動いていた。
ルイはストーカー紛いに事務所前で出待ちしていたほど、ヒナタに夢中なのである。 CROWNの出番以前に、ヒナタに会いにこちらへ来るかもしれないという想定をすべきだった。
この絶好のチャンスを、ルイが見逃すはずはない。
物凄い剣幕で……というのが気になるが、聖南はすぐさま楽屋を飛び出し、Lilyと書かれた貼り紙を探す。
「待って待って!」
「俺らも行く」
「……俺も」
飛び出した聖南を、アキラとケイタ、恭也も当然のように追い掛けた。
事情が飲み込めなかった成田も、佐々木と一礼を交わした後にとりあえずついて行く。
何せ事務所同士の極秘事項である「ヒナタ」が絡んでいると聞けば、動かずにいられない。
ぞろぞろと男達が大移動する様を最後尾で見ていた佐々木が、瞳を据わらせてポツリと呟いた。
「……面白くなってきましたね」
葉璃とルイ、そしてミナミの会話を偶然目撃していた佐々木は、「ヒナタ」の件についてもおおよそ知っている。
未だ忘れられない葉璃のピンチを察し、けれど一度も声を発さなかった葉璃が気にかかり聖南に直接聞きに行ったのだ。
他事務所の一マネージャーが出しゃばるよりも、聖南達が動いた方が話も早い。
如何せん、Lilyの出番が迫っているのだ。
いつ袖待機の声が掛かるか分からないので、扉前に集結した全員が一度腕時計を見るという異様な光景に、佐々木も表情を引き締める。
そんな中、突撃しようとした聖南はノブに手を掛けたまま動けなくなった。
中から確かに、ルイの声がする。
けれどその内容というのが、どうも葉璃に向けてではない。
唇に人差し指をあてた聖南が扉に耳をつける。 アキラと恭也はそれを真似、ケイタと成田はしゃがんだ。
佐々木は廊下を往復するスタッフ等に会釈しつつ、その怪しい四人の様子をただジッと見ている。
『───事務所には "言えん" のじゃなくて、 "言わん" かっただけやろ。 まずここまでのし上げてくれた恩があるやろし、お前らにとってLilyは夢やったんやないの? 本音ではLilyをどうでもいいと思てないって事や』
『………………』
『溜まってる事あるなら吐き出さんとな。 SHDの幹部はそこまで分からずやでないぞ』
『………………』
『……なんであんたにそんな事が分かるのよ』
『ちょっとした知り合いなんよ。 俺な、幹部連中みな知ってるわ』
『はっ!?』
『あんた何者……っ?』
『俺の事はどうでもええ。 お前らの口から言いにくいなら俺が仲取り持ったるから、さっさとヒナタちゃんの衣装返したって。 どうでもいいと思てたらLilyの看板守り続けてるわけないやん。 ストレス発散したいのは分かったから、下衆い真似で発散するのはやめろや』
難しい顔でジッと聞き耳を立てていた聖南は、想像以上に深刻な内容に言葉を失っていた。
大塚社長だけでなく、SHDの幹部連中とも親しいと言うルイは、一体何者なのだろうか。
そのルイが語った事を聞く限り、葉璃はまたも何らかの被害を被った。 その被害とやらもルイの言葉通りであれば大体の見当はつく。
色々と思うところはあったが、聖南はグッと堪えた。
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