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13❥生放送本番・七月二十二日
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しおりを挟む聖南が葉璃へ送った言葉と違わぬ事を、ルイが彼女達へ送っていた。
しゃがんで中の様子を聞いていたケイタが、苦々しく片目を細めてポツリと呟く。
「……衣装返してあげてって……何かあったんだね……」
「……らしいな」
「葉璃、大丈夫かな……」
「こんな事だろうと思いましたよ。 完全に、マネージャーの監督不行届ですね」
アキラと恭也も同様に眉を顰め、葉璃を案じた。 佐々木に至っては同業の者に痛烈な感想を述べている。
聖南も同意見だった。 ただ、別の思いも渦巻く。
無茶な任務を与えられた葉璃だけに気を取られていたから、ここまで事が大きくなってしまったのだと。
憤って来たものの、一足遅かった聖南は複雑な面持ちで腕時計を確認した後、静かに扉を二度ノックして中へと入った。
「あっ、セナ!」
「おい!」
アキラとケイタの制止も聞かず、聖南は揃いの衣装に身を包んだLilyのメンバーをぐるりと見回した。
最後に、ルイの隣で先程と同じ格好のまま立ち竦む葉璃に目を留める。
よく耳にする、アイドルグループ内の足の引っ張り合いをこう何度も目の当たりにするとは思わなかった。
葉璃は、聖南と共にアキラ達までやって来た事に驚きを隠せないようだが、ルイが居るので声は出せない。
状況を見定めて、迫る本番のために今聖南がすべき事は一つしか無かった。
「………………!」
「……せ、セナ、さん……っ」
「アキラさんに、ケイタさん……!」
「恭也くんまで……っ」
「ま、待って、待ってください、私達は、……っ」
「樹、悪いけどルイ連れて出てくれる?」
過剰に反応を見せたのはLilyのメンバーだ。
それには一切応じず、聖南は佐々木を振り返ってそうお願いした。
声を荒らげる事なく、あくまでも冷静な聖南の意図を汲んだ佐々木はすぐにルイの元まで歩む。
「分かりました。 ……お疲れ様です、ルイさん」
「おぉ、佐々木氏やん! memoryの出番は何時頃なん?」
「それはCROWNの楽屋に戻ってからお話します。 激励Vのお礼も言いたかった事ですし、ひとまずここを出ましょう」
「なんでぇな。 セナさん達がまだ話すんなら俺おってもええやろ?」
「よくありません。 なぜなら、あなたがまだどこにも属さないフリーだからです」
「それ言われるとグゥの音も出らんわ」
見事にルイを連れ出してくれた佐々木に感謝しつつ、長机に置かれたヒナタの衣装と思しきそれに目をやった聖南は、小さく狼狽える葉璃に向かって手招きした。
「ん、とりあえず着替えな。 本番まであと十分も無えはずだ」
「…………………っ」
それだけ言うと、葉璃は力強く頷いて衣装を抱きかかえ、仕切りカーテンの向こうに消える。
聖南はもう一度腕時計を確認した。
ここでダラダラと説教をしている時間も、はなからそのつもりも、無い。
アキラ達四人は、聖南の怒号がいつ飛ぶのかとヒヤヒヤしている。 恐らく、激しく狼狽しているLilyの面々も相当に怯えていただろう。
しかし全視線を浴びた聖南はブチ切れるなどとんでもなく、ひどく苦しげに、彼女達に向かって静かに頭を下げた。
「大体の流れは聞かせてもらった。 ……申し訳無い」
「え…………?」
「えっ……?」
「あ、あの……」
「セナさん……っ?」
「とにかく本番は気持ち切り替えてくれ。 プロだろ、Lilyは。 ここで廃れるな」
顔を上げた聖南の目に、突然トップアイドルから頭を下げられて困惑している彼女達の姿が映った。
言い終わるやすぐさま楽屋をあとにする。
今は芸歴云々のプライドよりも、アイドルとしての体面よりも、一人の男としての責任感に苛まれていた。
葉璃とルイが接触した事など、今となってはどうでも良い。
昨年から関わりの多かったLilyの内情を深く察知してしまったからには、このままにしておけないという気持ちでいっぱいだったのだ。
「セナ、お前よく我慢したな」
廊下へと出たところでアキラから背中をトントンと叩かれたが、聖南は我慢などしていない。
当然の事をしたまでだと、驕る気持ちもさらさら無かった。
「…………俺らは俺らの都合しか考えてなかったって事だ。 なんでこんなハイリスクな任務を葉璃に託すんだって……そこばっか気にして」
「………………」
「………………」
「………………」
彼女達が葉璃を傷付け続けている事はもちろん許せない。
だがこの荒波を目指した彼女達が、理由も無く悪に染まるだろうかと聖南は真剣に考えていた。
何よりも優先すべきは葉璃だ。 それは変わらない。
事務所のトップ同士が勝手に決めた、リスクしか無いこの任務を渋々とであろうが引き受けた葉璃を誇りに思う。
ただ、人の気持ちというのはそう簡単に動かせるものではない。
葉璃に嫉妬の感情を抱き始めた、彼女達のフラストレーションが女性特有のそれだとしても、何ら言い訳にはならないのである。
「俺達は恵まれ過ぎてんだよ。 仕事にも、……仲間にも」
努力の賜物かもしれない。
芸歴のなせる業なのかもしれない。
聖南の周囲では、今まで一つとしてこのような事態が起きなかった。
それは互いを尊敬し、尊重し、実力を認め合える仲間に恵まれていたからだ。
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