狂愛サイリューム

須藤慎弥

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15❥接近

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… … …



 隔週土曜恒例の生放送のため、某ラジオ局のスタジオに一時間前から到着していた聖南は、今週すでに何度目か分からない溜め息を吐いていた。

 丸一日の休みを取ることが滅多にない聖南が、日曜日にオフを設けただけで週明けから怒涛のように詰め込まれていた仕事をこなした。

 それは葉璃にも言える事で、デビューから一周年を迎えたETOILEとして、恭也の初主演映画の番宣巡りであらゆる媒体に駆り出されている。

 葉璃の持ち前のキャラとパフォーマンス時の「ハル」があまりにも違うため、それが業界のみならず世間にもすっかり浸透し、恭也との危なげな関係性も相まって売れっ子街道を爆進中だ。

 それを心底嬉しく思う反面、世間には知られていない「ヒナタ」での活動もプラスされた葉璃は、見るからにクタクタなのである。

 聖南も同様に、毎日複数の撮影やら収録をこなしていて大忙しだ。

 正直言うと、もっと葉璃との時間が欲しい。

 朝晩だけでも葉璃とイチャイチャ出来て幸せなのだが、同棲していなければ今頃本当にすれ違い生活だった事を思うと怖くて仕方がない。

 そんな中、一つ大きな悩みの種が生まれてしまった聖南は、多忙にかまけてその事を考えないようにしていた。


「…………はぁ、……」


『でもなぁ、……どうすっかなぁ……』


 件の悩みの種には社長という巨大なバックがついており、尚且つ彼女のデビュープロジェクトは着々と進行中なのである。

 聖南がここでキッパリと想いを切り捨てると、関わった者達の労力や多額の金が水の泡だ。

 そもそもあの時、彼女の告白を聞かなかった事にした聖南の逃げにそこまでの深い意味は無かった。

 皮肉にも日を追うごとに結論を急がなかったあと付けが様々出来てしまったが、その "結論" は一つしかないだけに聖南は考えあぐねている。


「一週間ぶりに会ったのに挨拶が溜め息かよ」
「……おー、アキラか。 お疲れ」


 「よっ」と右手を上げて挨拶してきたアキラに、肩を落とした聖南は力無く台本を手渡した。

 この日の放送内容は、タイムリーにもリスナーからの恋愛相談を三人が真剣に受け答えする回だ。

 いつもなら爛々と目を輝かせる内容であるはずが、どこか元気のない聖南を見たアキラは腰掛けながら苦笑いを浮かべる。


「何だよ、またハルと喧嘩でもしてんの?」
「喧嘩なんてするわけねぇだろ。 毎晩イチャイチャしてますー」
「毎晩なんてやめてやれよ。 負担は全部ハルにいくんだからな」
「毎日はヤってねぇよ。 葉璃ちゃんめちゃめちゃ忙しくて目に見えて疲れてんだもん」


 聖南の言う「イチャイチャ」はイコールそれなので、アキラはさらに濃い苦笑を浮かべたが聖南もそうしたいのは山々だった。

 言葉やスキンシップだけでは到底伝えきれない愛を受け止めてほしくとも、葉璃の疲れた寝顔を見るとそう強要も出来なかった。

 明らかな疲労を滲ませている葉璃の寝込みを襲うほど、聖南は鬼畜ではない。


「そんなにか? スケジュールタイトなんだ?」
「そう。 霧山の代役なんてすっから、業界での葉璃の評価が凄まじい事になってる。 週明け修正入ったスケジュールがヤバくてさ、……ほらこれ」
「なんでセナがハルのスケジュール持ってんだよ。 って……あぁ、ほんとだ。 番組出演多いな」
「だろ? 収録って長え時は四時間くらい局に缶詰めなるじゃん。 それが立て続けに三本あった日なんて、真っ青な顔して帰ってきた」


 変更次第直ちに林から送られてくる葉璃のスケジュールは、聖南のタブレット端末にしっかりと保存されている。

 それをアキラに見せるとまたもや苦笑いされたが、ざっと内容を確認しただけでも葉璃の過密スケジュールっぷりは伝わるだろう。

 聖南達と遜色ないほどのこれは、大手事務所の新人アイドルだからと贔屓目で入る仕事量ではないのだ。

 机上に並べられた複数のドリンクのうち、アキラは緑茶を手に取って飲んでいる。

 一方の聖南は、先程からポットに入った手作りの薄いコーヒーを飲んでいたがそろそろ胸焼けしてきた。


「そういや、ハルはまだルイに送ってもらってんの? 家まで?」
「いや、事務所。 俺が迎えに来るっていうのが定着してきてるからな。 そういえばルイ、最近は何も言わなくなった」


 リスナーからのハガキとファックスをひとまとめにし、それらを一枚ずつ捲っていた聖南の心がザワつき始める。

 それもまた、不安要素だ。

 葉璃が多忙を極めると、自ずとルイとの時間が長くなる。

 ヒナタに入れ上げているルイは疑う余地もなくストレートだろうとは思うのだが、葉璃は誰の目にも可愛くて綺麗で可愛い。

 兎にも角にも "可愛いの塊" である葉璃と四六時中一緒に居るなど、いくらルイがストレートでも妙な感情を抱きやしないか……。 という不安はもちろん抱えているものの、これを考え始めると聖南は本当に何も手に付かなくなるので、物分りのいい恋人になるべく我慢を継続中だ。


「……ルイ、勘付いてたりして?」
「あー……俺らの関係?」
「あぁ。 ハルとルイはどんな感じなんだ? うまくやれてんの?」
「…………それがさ、……」
「お疲れー!」


 不安でたまらない事をアキラにぶちまけようとしていたところに、ケイタがアイス片手にやって来た。
 

「お疲れ、ケイタ」
「お疲れー」
「なになに? また俺の居ないとこで面白そうな話してた?」
「いや、今日はそんなに」
「セナハルの関係がルイにはバレてるんじゃね?って話してた」
「え、そうなの? ていうか、そうそう。 ルイと言えば……俺、偶然聞いちゃったんだけど……」


 ノートパソコンを起動させたケイタが、意味深に二人へ視線を寄越す。

 聖南と葉璃がひたすら愛を育んでいた日曜の昼間、事務所を訪れたケイタが偶然耳にした社長とルイの会話。

 本番までの時間が差し迫るなか、興味深い話題に三人の手が止まった。



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