狂愛サイリューム

須藤慎弥

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17❥困惑

17❥9

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「セナ! 佐々木さん! CM明けすぐLilyの出番だってよ!」


 ケイタの声にハッと我に返る。

 重要な情報を二つも聞き、燻ったままの依頼の一件もこの特番が終わってから動き始めなければならず、しかもあと一分足らずで葉璃がヒナタとしての本番を迎える現在の聖南の心中は、かつてないほど騒がしい。

 佐々木と目配せし、やはり全員が起立したままという異様な状態で、家庭用ほどの大きさしかないテレビの前に五人の長身男性が集まった。

 アキラとケイタは腕を組み、聖南と佐々木は似たような仏頂面を浮かべている。

 普段はほとんど会話に参加しない、左端に居る恭也が胸を押さえて「はぁ……」と濃い溜め息を吐いた。

 彼は恐らく、聖南と同等なほどに葉璃の緊張感を遠くから受け取っている。


「どうしよう、俺が、緊張する……」
「ちょっと恭也、大丈夫? 心臓痛い?」
「いえ……緊張し過ぎて、動悸が……」
「恭也、心配すんな。 俺も同じだ」
「俺も」
「私も」
「えっ、じゃあ俺も!」


 聖南が同調すると、続けてアキラと佐々木も神妙に頷き、最後にケイタも取ってつけたように慌てて手を上げた。

 CMが明け、静かな五人の目線の先にはホテルからも目視できるあのドーム内の光景が広がっている。

 数カ月前に告知された番組ホームページにて、観覧希望者の抽選が行われ見事チケットを勝ち取った約五万人もの各出演アーティストのファンの歓声と熱気が、ブラウン管越しにもひしひしと伝わってくる。

 それに対し、とある一室だけは見事に静寂に包まれていた。

 五人が固唾を呑んで見守る中、ステージ上にスタンバイしたLilyが数秒映し出される。

 ドキッと男達の心臓が鳴ったかと思いきや、アーティスト名と曲紹介のため司会者に画面は切り替わり、全員の肩の力が抜けた。

 その際、『昨年発売されました、CROWNのセナさんによるプロデュース曲となります!』と大々的に紹介を受けた聖南だが、トークが出来ない彼女らの都合上、あちらへ行くことは叶わなかった。


「わぁ、……今日もヒナタちゃんだー……」
「そりゃそうだろ」


 イントロが始まり、センターポジションのリカがカメラ目線を決めている。

 ケイタの感心したような台詞にアキラが突っ込みを入れたその隣り三名は、葉璃がヒナタとしてLilyに溶け込み、踊り舞う姿を見て少々……いや、かなり不機嫌さを顕にした。


「おい……あの衣装ちょっと露出高過ぎねぇか」
「ほんとだ……。 あれじゃ、お腹、壊しちゃう」
「えぇ、本当に。 ……ヘソと太ももなんて出すなよ。 肌真っ白じゃねぇか……なんだよあのくびれ……最高じゃん……クソ似合ってる衣装たまんねぇ……エロいな畜生ッ」


 聖南と恭也はいつもの事なので構わなかったが、エリート然とした佐々木がかつての総長を思わせる口調で眉間に皺を寄せており、アキラとケイタは思わず顔を見合わせた。


「佐々木さん……?」
「佐々木さん……?」
「樹、本性出てんぞ」
「…………失礼いたしました」


 それもそのはず、今日のLilyの衣装は妖艶でいて爽やかな真夏の装いだった。

 レース素材の黒色のフリルトップスでヘソは丸見え、同色のホットパンツからはすらりとした太ももが露わに、ぷりんとしたお尻や踵の低いショートブーツでキュッと細い足首まで露呈されている。

 おまけにヒナタは黒髪ストレートのポニーテールで、いつもより相当にアイラインが太く長く引かれていて、猫目メイクがとてもよく似合っていた。

 不満タラタラな胸中でありながら、真っ赤な口紅を施されたぽてっとした唇に釘付けになったのは聖南だけではない。


「わぁ~! 可愛かったねー!」
「いつ聴いてもセナが作った曲とは思えねぇよな」
「おへそ出てた……お腹、痛くならないかな、……? 葉璃、あんなに足、ツルツルだったんだ……」
「恭也ー? 何をブツブツ言ってんのー?」
「おい恭也。 水でも飲むか?」


 アウトロ後、拍手と歓声が上がる最中にも関わらず、テレビ画面から視線を外した恭也が床を見詰めてか細く独り言を呟く。

 葉璃は無事に、ヒナタとしての出番をやりきったのだ。

 ここは全員で喜びを分かち合うところなはずで、なぜここに居る過半数がいかにも無愛想な顔で床を睨んでいるのか。

 見かねたアキラが恭也にミネラルウォーターを差し出すと、彼は頭を下げつつも明らかに葉璃の残像を追いながら受け取った。

 そして、その隣にも似たような輩が居る。


「……あんなエロ衣装だなんて聞いてねぇ……そりゃめちゃくちゃかわいかったし似合ってたぞ? けど葉璃のくびれは俺のもんだろ? ってか何なら俺が造った造形美であって、他に見せるなんてナシもナシだろ……?」
「アキラ、なんかこっちもブツブツ言ってるんだけど」
「あぁ。 ったく、しょうがねぇな。 セナ、お前も水飲んで落ち着け。 恭也ももうすぐあっちに移動だろ、準備しとけよ?」
「あ、あ……! そうだった! 葉璃の衣装、用意しなきゃ……!」


 アキラの言葉に、腕時計を確認した恭也は急いで部屋を飛び出して行った。

 葉璃は、次はETOILEとしての出番だ。 Lilyから五組後、時間にして今から約四十分後である。

 Lilyの出番終わりからちょうどいいタイミングでETOILEの楽屋が用意される、これは林が番組とうまく掛け合った大きな成果だ。

 自らの楽曲に「本番が楽しみ!」と可愛い瞳を輝かせていた葉璃は、メイクを施されていても楽しげなのが伝わってくるほど、文句の付けようがないパフォーマンスを魅せてくれた。

 だが聖南はつい、葉璃が身に纏う衣装にばかり目がいってしまった。 メンバー全員が同じ衣装を着ているというのに、葉璃の衣装だけが過激に見えた。

 邪な思いに駆られ、葉璃の頑張りを真摯に見届けてやれなかった後悔に苛まれる。

 今すぐにでも労いに行ってやりたい。

 「よく頑張ったな」と抱き締めて、ついでに「ヘソとケツばっか見てた、ごめん」と謝る。

 スイッチのオンオフの切り替えが出来る葉璃を、もはや心配する必要は無かった。

 葉璃がこの影武者任務を遂行するにあたり、バレるバレない以前に聖南の気掛かりはただ一つ。

 Lilyのコンセプトはデビュー当時から、 "エロティックダンスグループ" であった事をすっかり忘れていた。



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