狂愛サイリューム

須藤慎弥

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19♣夢 ─SIDE ルイ─

19♣10

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 病院から出るときは、ハルポンの手を握ってなくても歩けた。

 結局、見舞い時間ギリギリまで居るつもりやったのに追い返されてしもたが……でもまぁ、ばあちゃんらしいよな。

 気弱に「まだここにおってほしい」なんて言われた日には、泊り込んででもおったるけどそんかわり泣きっぱなしやったで。


「うわ、なか暑いな。 冷房効くまで我慢な」
「あ、はい……。 大丈夫です」


 タクシーで事務所まで戻って来た俺とハルポンは、セナさんが迎えに来るまで俺の車で待つ事になった。

 セナさんは、ここで最終選考に残った候補者を発表してから、さらにまた違う仕事に出掛けてたらしい。

 なんべん言うてもハルポンの家まで送ることを許されん俺には、こうして一緒に待つくらいしか出来んのが切ないな。

 そろそろ教えてくれてもええやろに。

 っても、今日はハルポンの存在に救われまくったから、そんなちっさい事をグチグチ言ったりせえへんで。


「……ハルポン、今日……ありがとうな」
「え……いや、俺は何も……。 結局隠れてたのバレてしまって……すみません……」


 なんでハルポンが謝るねん。

 そういうとこがハルポンの長所でもあるけど、助手席でイジイジするんはやめてほしい。

 自分がどんだけスゴい事したか、分かってない。

 俺は今日、ハルポンが居らんかったらマジでばあちゃんと喋られへんかったよ。

 知り合って数カ月、初っ端は常に喧嘩越しやった俺に対してなんでそんなに心開けるん。

 卑屈やネガティブやって自分を下げることばっかり言うハルポンは、慈愛の心を持ち過ぎてる。


「……ばあちゃん妙に勘が鋭いからな。 ……彼女やとか誤解されてすまんかった。 よう見えてなかっただけなんよ、許したってな」
「いえ、それはいいんです。 おばあちゃんとお話できて……良かったです。 ……ルイさん……」
「俺一人やったら上まで上がれんかった。 ハルポンがついて来るって言うてくれたから、勇気出せたんやで。 ほんまにありがとう」
「ルイさん……」


 冷房が効いてきた。

 ハルポンは色白やから、暑さでほっぺたが赤くなるとこないだの熱中症になった時のことを思い出してハラハラしてたけど、大丈夫そうやわ。

 そやけど……目が潤んでるな。

 眉毛もハの字になってるし、唇もなぜかとんがってるし、いつものえげつない眼力で俺を見てくるし。

 俺がやっと落ち着いてきたって時に。

 ハルポンがそんな顔してると、俺まで泣いてしまいそうになるやん。

 もうヤバいと決め付けてた俺は、まさかばあちゃんが喋れるとは思わんかったから、マジで話せて良かったと思ってるよ。

 人工呼吸器のせいで苦しそうやったけど、ばあちゃんの口調は相変わらずやった。

 あれでええねん。

 俺がまだ話したかったの分かってたくせに、マイペースに「眠たいから寝る」言うのも、「用が無いなら帰れ」と追い返すのも、いつものばあちゃん。

 弱ってるとこ、化粧してないスッピンの顔、痩せた姿諸々を見せたくないってかつての夜の蝶が言うてるんやから、まだまだ元気な証拠やんな。

 そやのに俺はほんまに、最低の家族や。


「……俺、……覚悟してた気でおっただけやわ」
「………………」


 ハンドルに凭れて、殺風景な地下駐車場に並ぶいくつかの車を見つめた。

 隣のハルポンは切ない表情を崩さんまんま、ジッと俺を見つめてる。


「余命宣告されてんの、つい忘れてまうんよ。 しかも都合のええように頭ん中で先生の言葉を書き換えてる。 実は全然何ともない、ちょっと風邪こじらせて入院が長引いてるだけやって」
「………………」
「そんなことあらへんのにな。 ……そんなこと、……」
「………………」


 家族が余命宣告されたら、誰でもそうやと思う。

 今こんなに元気やのに、いきなり期限付きの命になったなんて本人も家族も思いたくないって。

 そんなはずない。 あかん事やけど、お医者さんの診断ミスであってくれって、願うんや。

 確かに治療はしてるはずやのに、目に見えてどんどん痩せていく姿で希望は絶たれてん。

 それでも願うんよ。

 まだ生きられるやろ。 人間ってそんな簡単に逝ってしまうもんちゃうやろ。

 現実から目を背けてまうねん。

 考えんようにしても、いっつも頭ん中は同じことだけ巡って、俺が代わりになられへんのやろかとか考えて泣くしか出来んねん。


「……ルイ、さん……」


 俺の視界がまた枯れん水滴で溢れそうになった。

 ハルポンがそっと慰めるように俺の腕を触ってくれて、ハッとする。


「……今日はとことん、お見苦しいとこ見せてしもて、スミマセンでした」
「ルイさん、……あの、……」


 鼻を啜ってハルポンに向かって笑顔を見せると、その向こうにプライベートとは思えんほどのオーラが見えた。

 二十一時から生放送のラジオがあるのに、わざわざハルポンを迎えに来た過保護な親戚の参上や。


「セナさんこっち来てるよ」
「……え? あっ……はい……」
「ええな、家族って。 いや二人は親戚やから家族にはならんのか? まぁ、……そんなことはどうでもええか」
「………………」
「……なぁ、ハルポン」
「…………はい、?」


 セナさんと俺を交互に見てるハルポンの腕を、咄嗟に掴んだ。

 もう行ってしまうんか。 ……と、言うてしまいそうになった。

 ──あかんやん。

 当然やが、ハルポンには帰る家がある。

 引き止めたところで、何を言う気や俺。


「……あ、……いや、ごめん。 なんでもない。 ……俺、ハルポンと踊るために頑張るからな。 最後まで贔屓して応援しといてな?」
「……はい、もちろんです」
「じゃ、おやすみ」
「…………おやすみ、なさい……」


 ガチャ、と車のドアを開けたハルポンが、最後まで俺に切ない表情を向けたまま小さく手を振ってくる。

 セナさんの隣に並ぶとさらに小さく見えるな。 ──こんなん言うたらまたプンスカ怒るんやろけど。

 二人の背中を見送ってると、なんやものすごい寂しいでたまらんくなった。

 引き止めた理由を、探してしもた。

 ほぼ毎日会ってる俺達やから、今まで一度もそんなこと思た事ないねん、けど……。


「今日は一緒におってほしかったー……なんて、言えへんよなぁ……」


 そんなん思てるのがバレたら、今日の俺のブッサイクなツラよりキモいと思われるかもしれん。

 言わんで正解やったよな、うん。







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