狂愛サイリューム

須藤慎弥

文字の大きさ
310 / 632
30♣発覚 ─SIDE ルイ─

30♣10

しおりを挟む



 俺とセナさんは同時に、「そうか」と呟いた。

 セナさんはどうか分からんけど、その時その場で色んな事を知った俺には、それ以外の言葉が出るはずもなかった。

 しかし、──。


「えぇぇぇぇっっ!?」


 ターゲットにされた張本人、ハルポンは違った。

 ヒナタショックに見舞われた俺みたいに、勢いをつけてその場で立ち上がるや大絶叫した。

 相当驚いてんやろな。 腹からよう声が出とった。


「ア、アイさんが……っ? えぇっ?」


 頷いた社長を、大きな目が凝視した。

 まばたきも呼吸も忘れてそうなほど唖然としたハルポンに、セナさんと俺がこれまた同時に「葉璃」「ハルポン」と声かけると、ようやく我に返って腰掛けた。


「アイがこのまま連絡を絶つようであれば、こちらが握った証拠をSHD側に渡すつもりでいる。 ルイ、撮影した動画を私の携帯に送信してくれ」
「分かった」


 これが証拠の一つになるんなら、やっぱ撮っといて良かったわ。

 咄嗟の判断を内心で自画自賛しても、こんな状況下じゃなんもスッキリせえへんかったけど。





… … …



 ──夜も十時を過ぎた頃。

 なんや事件を解決したいと目論む刑事の気分で、さながら警察署の取り調べ室みたいやった社長室をあとにした。

 二時間強の内輪会議で、俺も大体事情は分かった。

 自分の抜けた穴を、まさか事務所の違う男性アイドルが埋めとるとは思いもせんかったアイによる、ハルポン潰しの全容。

 本人と直接コンタクトが取れんらしく多少なりとも憶測が混じってんのやろうが、社長が顧問弁護士を使て秘密裏に入手しとった証拠は確かなもんやと思う。

 俺が撮った動画の男と、SHDエンターテイメントの事務所をウロついてたという男が合致した。

 そいつはハルポンの極秘任務を反撃材料やと豪語してた事からも、アイと関わってんのは明白や。

 はじめはさっぱり訳が分からんかった話やったのに、徐々に形として見えてきて怖なった。

 ハルポンが襲われたらどないしょ、いう怖さやない。

 自らが撒いた種を棚に上げて、友人知人巻き込んで陰湿極まりない悪事を働いてんのが気色悪うて怖い。 そういう意味。


「ルイも地下だろ?」
「はい」


 OK、と頷いてエレベーターの下矢印を押すセナさんの後ろに、ハルポンが引っ付いとる。

 その後ろに俺が並んでるんやけど、二十センチ近く小さいハルポンのつむじを何気なく見つめてると、ヒナタちゃんはこないに小さかったっけ……と悪あがきを思た。

 俺は、これまで以上にハルポンから目離されんくなった。

 気配のないボディーガードは、いったいどこまで介入して守れるんか分かったもんやない。 ほんまに居るんかも定かでないし。

 今月、ETOILEはデカい仕事が立て続けにあんねん。

 事情を知ってしもたからには、俺も全力でハルポンの身を守ったらな。

 これは決して、決して、決して、ハルポンが俺の最推し〝ヒナタちゃん〟やったから……やないで。

 絶対、断じて違うと言い切れる。

 ハルポンの事が心配やからや。

 一番しんどい時に俺の心のオアシスやったヒナタちゃん。

 秘密を守り通しつつそばにおって励ましてくれたハルポン。

 その二人が同一人物なら、ダブルで恩返しせなあかんやん。 雷に打たれたような衝撃をいつまでも引きずってる場合やない。


「あ、あの、……ルイさん」


 エレベーターで地下駐車場に着くなり、ショボンと肩を落としたハルポンが俺の上着の袖を引っ張ってきた。


「ん、なんや?」
「……あの、……」


 聞き返さんでも、ハルポンの顔見たら何を言い渋ってんのか一発で分かった。

 別れ際、一回くらいは謝りたいと思てんやろ。 どこまで真面目やねん。

 ……可哀想なツラしよって。


「言わんでええよ」
「……え、……」
「ごめんなさい、言う気やろ? そんなん言わんでええ言うてんの。 そら天と地がひっくり返るくらいの衝撃受けたけど、事情があったんやろ? それはまた明日にでもゆっくり聞くわ。 そやからな、……そんな顔せんでよ」
「うっ……」


 下唇出してるハルポンは、ヒナタちゃんの面影を見てるわけとちゃうのにえらい可愛く見えた。

 我慢できんとほっぺたを摘んだると、もっと下唇が出てきて笑てもうた。

 傍らに立つセナさんからビシバシ視線が飛んできとるけど、今はハルポンの罪悪感を消したるんが最優先。

 構わず俺は、存分にほっぺたをプニプニした。


「ハルポンは俺の秘密をセナさんにも言わんと黙っといてくれたほど、口が堅くて義理堅い男や。 言われへん事があって俺と接してるのツラかったやろ? 無理させてすまんかったな」
「そ、そんな……っ、なんでルイさんが謝るんですか! 悪いのは俺です、俺が……っ」
「それ言うたらハルポンも悪くないやん。 てか俺らはなんも悪くない。 な、セナさん」
「……そうだな」
「ほら、セナさんもこう言うてるし。 ハルポンがそんな顔してたら、俺も帰るに帰られへんから。 スマイルやで、ハルポン。 スマイル」
「…………っ」


 ついには両方のほっぺたをプニプニして、無理やり口角を上げたった。

 それにしてもやらかいな。

 触りたいと思た事なんかなかったんやけど、無性に離れがたくて困った。

 そやけどセナさんが見とる。 めちゃめちゃ見とる。

 物凄い威圧のオーラ放ってへんか、セナさん。

 ただほっぺたプニプニしてるだけやのに……ぶん殴られるんちゃうかと背筋が寒なってきた俺は、じわっと腕を下ろす。

 するとハルポンがまた、俺の心をムズムズさせる目して迫ってきた。


「ルイさん、……明日も普通に仕事に来てくれますか……? 加入の話、無かったことにしたり……しませんか……?」
「せえへんよ! 何を言うてるん」
「だって……っ、だって俺っ、ルイさんにいっぱい嘘吐いてた、から……!」
「時には必要なウソもあんねん。 そうですよね、セナさん」
「間違いねぇ。 俺も葉璃にはウソ吐かれてたし。 でもあれも必要悪だったんだろ、葉璃にとっては」
「えっ!? お、俺が聖南さんに……っ?」
「そらそうやろ。 俺のばあちゃんの事でセナさんにウソ吐かしてしもた。 俺との約束を守るためやとはいえ、あの時はすんませんでした」
「何とも思ってねぇから謝んなくていい。 葉璃もルイも、これでお互いの秘密は無くなったんだ。 まだ解決したわけじゃねぇんだから、あとはこれからどうしてくか、それを考える事に徹しような」
「そうっすね」
「はい、……っ」


 さすがセナさん……オトナやな。

 明らかに嫉妬バリバリの目しとったのに、言う事はマジの正論で男前で……痺れるわ。

 二人の関係を知らんかったら、去って行くのはただの先輩と後輩。

 けど要らんことに、俺は知っとる。

 家帰ったら間違いなく、テレビにかじりついて毎晩の楽しみを遂行するやろうが、きっともう今までと同じ気持ちで観る事は出来ん。

 ヒナタちゃんがハルポンやったいう事は……セナさんは俺の心のオアシス二人ともを独り占めしてんねんで。

 なんや、この凄まじい敗北感は。






しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

灰の底で君に出会う

鮭茶漬け
BL
両親を亡くした高校生、神崎透は叔母の家に引き取られて暮らしている。しかしその家は、家族と呼べる場所ではなかった。家事、雑用、そしてバイト。どれだけ働いても感謝されることはなく、透は「穀潰し」と呼ばれながら日々を過ごしていた。 それでも透は思っている。ここに置いてもらえるだけでありがたい、と。 これは――居場所を持たなかった少年が、初めて愛を知るまでの物語。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

処理中です...