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31♡迫る足音
31♡2
しおりを挟む──三時間前──
全然知らない人に話しかけたうえに、ルイさんには分からない極秘任務の事をチラつかせて、挙げ句の果てには逃げ出したという男を咄嗟に追いかけたルイさんの行動力に驚いた。
そんな状況下で機転をきかせて撮った動画が、ルイさんから社長さんのスマホに送信された。
俺と聖南も社長さんのデスクまで行って、一緒に観させてもらったんだけど……。
「これだけじゃアイの協力者だとは分かんなくね?」
小さいけど、確かに男の顔はバッチリ映ってる。でも顔が分かったところで証拠にはならないと、ソファへと戻った聖南は苦笑した。
俺がヒナタだったと知って魂が抜けてしまっていたルイさんも、今はなんとか平静を保ってくれていて、聖南の言葉に「うーん」と唸った。
「そう言われてみればそうやなぁ……」
「いいや、これは確かな証拠だ。SHDの事務所周辺をウロついていた男のうちの一人と、同一人物だとみていい。ほら、これが監視カメラの映像だ」
「そんなもん持ってたんか」
「こちらは弁護士を通していて、SHD側ともひとまずの連携は取れているからな。事件性があると判明した時点で警察へ行く準備も出来ている」
「じゃあなんで……なんでそこまで分かってたのに、俺らに隠してたんだ。向こうの事務所も知ってたんだろうが」
「……それは……」
鋭い聖南の視線と指摘に、社長さんは言葉を詰まらせてしまう。
聖南はまだ、社長さんを本当の意味で信じられないでいる。さらに何か隠そうとしてるんじゃないか……そんな風に疑ってかかって、社長さんをたじろがせてしまった。
こればかりは仕方ない。
あの時の聖南の落ち込みようは言葉では言い表せないほどで、見ている俺もツラかった。〝正直まだムリ〟とこぼしてた聖南の気持ち、とってもよく分かる。
人間誰でも間違いを起こすものだし、血のつながった親子も一度や二度は大喧嘩をする。でも聖南は初めて、信じてた人に疑われるという経験をしたからここまで拗れたんだ。
信じられないくらい、聖南の心は子どもみたいに純粋だから。
それについてをすごく後悔している様子の社長さんも、聖南の心が今までほど柔らかくないって気付いていそうだ。
口を開くも、気まずいのかあまり聖南と目を合わせようとしない。
「……犯人がアイだと判明した時、もちろんすぐにSHDにこの情報を伝えた。しかしその際こう言われたのだ。〝アイがLilyを脱退すると決まっているなら、すぐにでも警察なり何なり駆け込んでくれていいが、連絡もつかない状況でこちらも混乱している。彼女と話し合う機会を持ち、事態を精査させてくれ〟──と」
「それを社長は了承したってのか?」
「……仕方なかろう。私が同じ立場であってもおそらくそう言う。私がセナと連絡が取れていない間に、お前が何かやらかしたとする。それを他事務所から密告されても〝まずは本人と話をさせてくれ〟と最終手段にストップかけるだろう。やむを得んと判断した」
またしても社長さんを見る聖南の視線が鋭くなる。
俺たちと対面してるルイさんはどうだか分からないけど、俺は聖南ほどはイラつかなかった。情をかけたわけじゃないっていうのが明白だったからだ。
俺の存在がこの一件に大きく関わっているから、聖南は物凄く過敏になってるんだと思う。
あからさまにイライラしてる聖南だって、すべてを疑いたくはないはずだよ。
信じてもらえない悲しみを知った聖南は、これでもすごく我慢してる。聖南なりに言葉を選んで、余計な事は言わないように出来るだけ口を挟まずにいようと耐えている。
「SHDはサポメン入れてでもLilyを存続させようと必死やからな。離脱者がそのまま脱退いうたら、世間もマスコミもファンも黙ってへん。アイの脱退理由を探られたらハルポンの任務もバレてまうし。コトを急いだかて悪循環もええとこやっちゅー事か」
社長さんを見詰める聖南の視線は、絶えず厳しい。
明るく語り合える内容ではないし、狙われてる俺がこんなに冷静で居ちゃいけないんだろうけど……あまりにも場の空気が重たくて、どんどん体が縮んでいった。
要所要所で声を発するルイさんが居なかったら、俺はたちまち透明人間になってしまうところだ。
ふぅ、と溜め息を吐く聖南の横顔を見上げると、険しい表情を崩さないまま片方の口角だけを上げた。
「だからって俺らには話してくれても良かったじゃん……。強硬手段を取らなかった理由は分かったけど、それは犯人がアイだって事を俺らに黙ってた理由にはならねぇよ」
「セナ、落ち着いて聞いてくれ。私がお前を疑うような発言をしたために信じてもらえんのは当然だが、……」
「あぁ、悪いけどまだ信じらんねぇな」
「…………」
「…………」
うっ……どうしよう。
一触即発の雰囲気だ。
社長さんの話に納得がいかなかった聖南は、とうとう苛立ちを顕にしてしまう。
恐る恐る横顔を盗み見た俺は、そこで初めて、聖南の本気の無表情というやつを目にした。
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