狂愛サイリューム

須藤慎弥

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31♡迫る足音

31♡10

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 エッチの日を空けると俺の体調は良くなる反面、数日禁欲させちゃってる聖南の性欲についていけなくなるという難点がある。

 キスだけしてたい……なんて可愛い事を言ってた本人とは思えないほど激しく抱かれて二時間半後。

 「はるー」と優しく起こされた俺は軽く意識を飛ばしていて、それは久しぶりに味わう気絶に近かった。


「……聖南……さん……」
「腰、大丈夫?」
「え……?」


 さらっと撫でてきた聖南の手のひらが、まだ熱い。

 心配そうな瞳とぶつかって、聖南に手を伸ばす。

 腰大丈夫かって? なんでそんなこと聞くんだろ……気を失ってたから……?

 伸ばした手を握り返してくれた聖南の温かさに笑みを溢しながら、何気なく身動ぎした。


「あぅ……っ」
「え、ちょっ……葉璃、マジで大丈夫か!?」
「だ……大丈夫、です」


 全裸で焦る恋人にはそう言ったものの……。

 いたたた……っ、そういうことか……。

 あんまり、大丈夫じゃなさそう。

 激痛ってわけじゃないけど、背中から腰にかけて身動ぎした時に走った鈍い痛みと億劫感。

 覚えてる限りじゃ、今日はなぜか正常位ばっかりだったもんな……。


「ごめんな? あとでほぐしてやるから」
「そ、そんな……っ、そこまでしなくて大丈夫ですよ。ちょっと鈍く感じるだけなので」
「いや大丈夫じゃねぇだろ。……あ、炭酸ガスの入浴剤あるから一緒に入ろ」
「えっ!?」
「葉璃は風呂好きじゃん? 色々探しまくってやっと手に入ったのがあるんだ。高濃度だって。バブルバス並みにブクブクパチパチするんだって」
「ブクブク、パチパチ……!」


 そ、それは気持ち良さそう!

 聖南の提案に、鈍痛なんかそっちのけになった。

 俺の分かりやすい表情でふわりと微笑んだ聖南に、バスルームまで運搬される。聖南から抱っこされてどこかへ移動する時は、〝運搬〟に違いない。

 隅々まで体を洗われて綺麗になった俺は、聖南がニ包投入したお風呂に釘付けになった。

 本当にブクブクパチパチだ……!

 水面が弾けてる白いにごり湯に足先を入れると、その瞬間肌に炭酸がまとわり付く。

 くすぐったい……っ、でも気持ちいい……っ!


「聖南さんっ、めちゃくちゃ気持ちいいですよ!」
「おっ、すごいな。マジで炭酸湯になってんじゃん」
「ねー!」


 ちゃぷんと浸かった聖南も、驚きの声を上げる。

 俺を膝に乗せて後ろから抱き締めてくれた聖南に、興奮してるからってつい気安く「ね!」なんて言うほど。


「はしゃいでんの、かわいーな」
「あっ……」


 うん、……はしゃいじゃったよ。

 俺は昔からお風呂大好きだし、聖南が俺を喜ばせようとしてくれた気持ちも嬉しいし、ブクブクのおかげでさっきまで愛されてた証の鈍痛まで心地よくなってくるし。


「あ、あの……聞いてもいいですか」
「……ん? 何?」
「なんで今日、その……正常位、って言うんですか、あの……ギュッてしながらするの……。あればっかりだったのかな、って……」
「ああ……葉璃の顔見てたかったから」
「えっ? か、顔ですか……? 俺あのときは絶対ひどい顔してますよ。聖南さん……よく萎えませんね?」
「あはは……っ! そういう事じゃねぇよ。ひどい顔なんてしてねぇし。むしろそそられる顔して俺のハートをグサグサ刺してくる」
「…………っっ」


 俺の顔なんてそんな……。

 鏡見るのも遠慮したいくらいなのに、聖南はいっつもそうやって大袈裟に言って俺を揶揄う。

 贅沢にもトップアイドルを背もたれに、俺はほっぺたを膨らませてパシャッとお湯を弾いた。

 すると聖南は、遊んでた俺の手のひらを取ってニギニギして「もう一つ理由あるよ」と言った。


「…………?」
「葉璃が俺に〝離れるな〟って言ってくれたの、嬉しかったんだ」
「あ……」
「アイドルやってるからには誰かに尻尾つかまれてネタにされるとか日常茶飯事だ。……っていうのを、俺はもう言い訳にしたくねぇなー」
「…………」
「恋人が居る時点でファンを裏切ってる事になるのかもしんねぇけど、人を好きになって〝一緒に居たい〟って気持ちは誰にも止めらんねぇだろ。それで俺やCROWNから離れてったファンも一定数居ると思う。廃れかけた芸能生活を支えてくれた人達を裏切ったのは俺だ。でもさ、アイドルだからって本気で恋愛しちゃいけねぇのかな?」
「………………」


 そっと聖南を振り返ると、俺の体をぎゅっと抱いて無表情で目の前の白い壁を見詰めていた。

 今回のゴシップで俺に愛想を尽かされてないか不安がってた聖南に、すぐに〝離れないで〟と言った俺は正しかったんだ。

 ほんとはずっと、考えてたのかもしれない。

 まだ解決してないこの件以降も、まだまだそうやって根も葉もない噂やこじつけで俺を不安にさせちゃうかもって。

 それは聖南が、〝CROWNのセナ〟だからだ。

 でも、生まれた時からそういう事がタブーな世界に居る聖南には、悩んだってどうしようもない事だよ。

 俺の存在を明かしてくれた聖南の気持ちを尊重したいけど、現に離れてしまったファンの人達が居ることも、きっと聖南だけじゃなくアキラさんやケイタさんも承知していて。

 許されるか許されないかで言ったら、……。


「……アイドルは、許されないかも……しれないですよね……」
「その風潮を、俺は変えたい」
「えっ……!?」
「俺がどう頑張ったって焼け石に水だろうけど」
「えぇっ……」
「だったら、俺だけでも貫きたいと思った。葉璃が離れるなって言ってくれたから、これからも俺は自信持って恋人居ますヅラする」
「聖南さん……」


 ……そんな自信満々に言っちゃっていいの?

 聖南の恋人が俺だって事、俺自身は隠し通すつもりでいるけど……世の中何が起こるか分からない。

 それにゴシップ記者の人達は、どんな卑怯な手を使っても真実を暴こうとするから気を付けろって、社長さんとルイさんが言ってた。

 ボロを出さないように、今まで以上に気を付けなきゃいけないって。

 聖南はそれに立ち向かおうとしてるの……?

 強すぎる向かい風だと思うんだけど……。


「あーあ……葉璃が不安になんねぇように恋人居ます宣言したのに。今じゃ意味が変わってきたなぁ」
「……変わって……?」
「俺がこの世界で生きてくための有意義な宣言になった」
「え? 聖南さんが、生きてくため……?」
「そう。葉璃が俺を追い掛けてくれんなら、俺はもう少しトップを走り続けねぇとじゃん?」
「…………っ」


 ほっぺたをすり寄せてきた聖南の言葉に、俺の胸は張り裂けそうだった。

 守りたいのに守れないと切なげに溢してた聖南は、もう居ない。

 悠然と微笑む聖南の頭の上に、金ピカな王冠が見えた気がした。

 時刻は午前三時。

 俺たちは二十四時間アイドルなわけじゃない。だから聖南は、俺だけに改めて宣言し直した。


〝日向聖南の恋人は、倉田葉璃。これからもよろしく〟





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