狂愛サイリューム

須藤慎弥

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33♡悪意と嫉妬

33♡3

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… … …



 ──生放送特番二日前。

 朝一番に聖南へかかってきた電話は、恭也からだった。

 俺はその時シャワーを浴びてる最中で直接は聞けてないんだけど、聖南がその内容を教えてくれた。

 水瀬さんはあの後、すぐにアイさんと連絡を取り合って、明日のお昼前にドーム近くで落ち合うって話になったんだそうだ。

 つまり、水瀬さんとアイさんが合流した後に、二人で恭也に会いに来る……という事らしい。

 それはいいんだ。仲介人の水瀬さんが居なきゃ、恭也とアイさん二人での密会になって色々と危ないもん。


「……なんで明日の昼なんだろうな。偶然とは思えねぇ」


 明日のお昼っていうと、ETOILEとLilyのリハーサルがある。だからって〝ちょうどいい〟とは、俺も聖南もとても思えなかった。

 濡れっぱなしで放置する俺の髪を乾かしてくれた聖南が、近頃よく見る苦笑を鏡越しに浮かべている。

 俺の着替えが終わったのを見計らって、「入るぞー」と一声かけて洗面所の扉を開け、いそいそとドライヤーの準備をする聖南は常に過保護。

 放ったらかしてたら乾きますよ、と甘やかしを拒否して自然乾燥しようとする俺より、風邪引いちゃう事を心配してる聖南の方が全うだ。


「……怪しくねぇ?」
「まぁ、……。でも恭也は、聖南さんが早急にって言ってたんで「今日か明日で都合どうですか」って聞いてましたけど……」
「それにしても、だ。この件については何事も疑ってかかった方がいい」
「そうなんですけど……。でも明日のお昼って、聖南さんは仕事じゃ……?」
「抜けて行くよ。何が何でも本人と話してぇからな」


 ふわふわになった髪を撫でられて、ついでに自身のヘアセットを器用に始めた聖南の目が、ちょっとだけ怖かった。

 俺を心配してるのは分かる。

 レイチェルさんとのゴシップ写真で揺さぶろうとした、回りくどいやり方が気に食わないっていうのも分かる。

 でもなぁ……俺の知らないヤンチャ時代の聖南が目を覚したら、まさに去年のあの時みたいな血も涙も無い〝副総・聖南〟が顔を出すのもどうだろう。

 男性には関節技を決めて床に転がし、女性にも容赦なく首を掴んで持ち上げてた。あのままだと麗々さんは息の根が止まってたかもしれない。

 これは自惚れでも何でもなく、聖南はきっと俺の事となると一瞬で周りが見えなくなる。

 目付きが変わるんだもん。

 俺には絶対に見せる事のない、凶悪で無情な瞳。

 どんな聖南もかっこよくて綺麗なんだけど、あの無慈悲な目は二度とさせちゃいけない。


「聖南さん」
「ん?」
「相手は女性なんですから、聖南さんのヤバイ眼力は発揮しちゃダメですよ」
「まだそんな事言ってんの? どんだけお人好しなんだ、葉璃ちゃんは」
「お人好しって……!」


 そうじゃないのにっ。

 意味を履き違えて笑う聖南は、俺の着替えや支度まで手伝ってくれた。

 家を出る直前「忘れものはない?」と聞かれて頷くと、屈んだ聖南からチュッと唇を奪われて……。


「あるじゃん。これは忘れちゃいけません」
「……はい……」


 俺に甘すぎる恋人は、こういう事をサラリとしてしまう。

 フッと気障に微笑んだ聖南が、宇宙一かっこよく見えた。

 なんだろう。何だかすごく、心がくすぐったい。

 聖南がそばに居ると、いつもドキドキはしてるんだけど……相変わらず俺は不意打ちに弱いや。


「おはようございます~」


 朝の八時半。

 聖南に送ってもらって事務所の駐車場に到着すると、ルイさんが時間より早めに来てくれていた。


「ん、おはよ」
「おはようございます、……ルイさん」


 ヒナタの事がバレてしまってから、SHDへレッスンを受けに行ってる事を隠す必要がなくなったとはいえ……まだどこかぎこちないルイさんに送迎してもらうのは心苦しい。

 聖南の話では、まだルイさんは大パニック中だって。

 当たり前だよ。

 俺がヒナタで、ヒナタが俺で、性別も違えばまず存在すらしない架空のサポートメンバーだったんだ。

 ごめんね、の一言じゃ足りないよ。

 ルイさんが「要らない」と言っても、毎日謝り続けてる。それが救いになるとは全然思わないけど、ていうか、むしろ傷口に塩を塗りこんでるような気がする事も、俺は分かっててルイさんに謝罪を押し付けてる。

 以前とは違う意味でルイさんの目を見にくくなった俺は、聖南の後ろに隠れてチラッと顔だけ出して様子を窺った。


「ルイ、ちょっといいか」


 聖南はそう言うと、腕時計で時間を確認した。そして、持ち主の承諾も得ずに車の後部座席のドアを勝手に開けてしまう。


「えっ! 俺またシメられるんすか!?」
「一回シメたみたいに言うなよ。葉璃に誤解されるだろ」
「ああ……いや、すんません。セナさんの「ちょっといいか」が俺の心にちっさいトラウマを……」


 ルイさんが猫背になってる。

 ひぇぇ~と大袈裟に怯えながら、猫背のままのルイさんは運転席に。俺と聖南は、ルイさんの車の後部座席に並んで座った。

 聖南の「ちょっといいか」は、たぶん車外じゃ話せない内容だ。

 それにしたって、そのフレーズが出ただけでこんなに怯える?

 まさか聖南ってば、前回二人で話した時ルイさん相手にあの目付きしてたんじゃないよね?

 ヒナタの大ファンを公言してたルイさんが、まかり間違って俺の事を好きになるんじゃないか……というとんでもなく飛躍した不安を抱えてぐるぐるしていた聖南だ。

 あり得ない話じゃない。


「もう……聖南さん、無闇やたらと眼力使っちゃダメじゃないですか……」
「え、俺が怒られんのっ? なんでっ? 俺なんもしてねぇよっ? 無実だ! 冤罪だ!」
「なんもしてへん事は無いですやん……」
「おい!! 誤解を招くような発言禁止!!」
「いやいや……天下のセナさんに呼び出されるいう時点で、俺ら下っ端はおもらし案件なんで」
「そんなの俺にはどうしようもねぇじゃん! てか物騒な言い方やめろよっ」


 聖南……かわいい。俺に誤解されまいと、必死でルイさんに言い返してる。

 ルイさんはその性分で、どうしても重たい空気を避ける傾向にあるからなぁ……。

 俺も聖南も、ここはルイさんに一本取られちゃったね。




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