紳士オークの保護的な溺愛

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幸せだと認めて

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■ 満ちる月

――幸せだと、認めてしまった夜

月明かりが、窓辺に落ちていた。
雲に遮られることもなく、静かに、堂々と。

私は暖炉の前に立ち、あなたを見下ろしていた。
先ほどまで指先が触れていた余韻が、まだ残っている。

……抱きしめたい。

それは、衝動だった。
理屈ではない。
守る者の義務でも、習慣でもない。

ただ――
この温度を、逃したくない。

私は、自分の手を見た。
武器を握り、契約書に署名し、
多くの責任を引き受けてきた、この手。

その手で、
誰かを「求めたい」と思う日が来るとは。

あなたが、こちらを見上げる。

「……どうか、しましたか」

その声には、怯えはない。
あるのは、信頼だ。

私は、微笑んでいた。

自分でも、驚くほど、
穏やかで、柔らかな表情だった。

「ああ……少しだけ、考え事を」

そう言いながら、
私は、逃げなかった。

一歩、距離を詰める。

あなたは、動かない。
拒まない。
目を逸らさない。

私は、静かに問う。

「……もし、不快でしたら、すぐに離れます」

それは確認であり、
同時に――
自分への最後の歯止めだった。

あなたは、首を横に振る。

そして――
ほんの少しだけ、前に出た。

その動きが、すべてだった。

私は、ゆっくりと腕を伸ばす。
急がない。
囲い込まない。

背中に、そっと触れる。
引き寄せるのではなく、
包むように。

あなたの額が、私の胸元に触れる。
心臓の音が、伝わる距離。

……ああ。

私は、目を閉じた。

胸の奥が、満ちていく。
不安も、迷いも、
すべて、静かに溶けていく。

これが、
これが――
幸せという感情なのだ。

あなたの肩に顎を乗せることはしない。
抱き締めすぎない。

ただ、
離れない。

それだけで、十分だった。

しばらくして、あなたが小さく言う。

「……あたたかいです」

私は、思わず息を漏らす。

「……ええ。
 そうですね」

その声は、
もう、鎧の奥からではない。

あなたを抱いたまま、
私は月を見る。

この夜を、
この温度を、
この選択を――

失う未来を、
もう想像できなかった。

私は、静かに言う。

「……今夜は、
 とても、良い夜です」

あなたの腕が、
背中に、そっと触れた。

それは、
抱き返すというより、確かめる動き。

だが、私はそれで、十分だった。

胸の奥で、
亡き伴侶の声が、優しく笑う。

――よかったな。

私は、頷く。

ええ。
私は、幸せです。

月は、満ちていた。
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