紳士オークの保護的な溺愛

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今日のあなたはパン屋

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■ 初めてのわがまま

――それは「役に立ちたい」という願い

その日は、街が少し浮き足立っていました。

年に一度の、
収穫と鍛冶の恵みに感謝する小さな行事。
屋敷の窓からも、
布飾りや簡素な旗が見える。

私は、外套を整えながら言いました。

「今日は、人が多い。
 必要なものは、私が――」


「ガスパール」

あなたの声が、
私を止めました。

振り返ると、
あなたは少し緊張した顔で、
けれど逃げない目をしている。

「……わがまま、言ってもいいですか」

この言い回しを、
私はもう知っています。

「ええ」

あなたは、深呼吸をしてから言いました。

「露店で、
 少しだけ、手伝いをしたいです」

……一瞬、
言葉を失いました。

「売る側、です。
 買うだけじゃなくて」

あなたは、
自分の指先を見つめながら続けます。

「この街で、
 ちゃんと生活してるって、
 実感したくて」

それは――
自立の宣言ではない。
居場所を作りたい、という願い。

だからこそ、
私の過保護は、
大きく揺さぶられました。



私は、ゆっくりと、
あなたの前に屈みます。

「……どの露店ですか」

「パン屋さんです。
 朝だけ、ですって」

……よりにもよって。

人通りが多く、
視線も集まる。

私は、
すぐに反対できました。

けれど。

「条件があります」

あなたが、
少し身構える。

「私も、同じ行事に参加します。
 すぐ近くで」

「……お客さんとして?」

私は、穏やかに首を振りました。

「警備として」

あなたは、
思わず笑ってしまいました。

「それ、
 ほとんど一緒じゃないですか」

私は、
真面目な顔で答えます。

「違います。
 あなたは“働く人”。
 私は“見守る者”です」



露店に立つあなたは、
驚くほど、自然でした。

小さな体で、
籠を持ち、
焼き立てのパンを並べる。

声は控えめだが、
笑顔は柔らかい。

「……あの人、
 ずいぶん綺麗だな」

囁きが、
確かに聞こえる。

私は、
露店の柱にもたれ、
腕を組んで立っていました。

動かない。
だが、
視線だけは、逃さない。

若いオークが、
距離を詰めすぎれば、
一歩、前へ。

それだけで、
空気が変わる。

あなたは、
そのことに気づいていません。
――それでいい。

守られていると意識させないのも、
過保護の技術です。



昼前、
あなたが小声で言いました。

「ガスパール……
 足、疲れました」

私は、即座に露店の裏へ回り、
低い椅子を置きます。

「休憩です」

「まだ、交代まで――」

「私が決めます」

有無を言わせない声。
けれど、
視線は優しい。

あなたは、
椅子に座り、
私を見上げました。

「……とても楽しいです」

その一言で、
輝く瞳で、
すべてが報われました。



行事が終わり、
家へ戻る道。

あなたは、
少し誇らしげでした。

「ちゃんと、
 役に立てました」

私は、
あなたの荷物をすべて持ちながら言います。

「ええ。
 ですが、
 次は時間を短くします」

「……やっぱり」

私は、
低く笑いました。

「改めませんよ」

あなたは、
呆れたように、
それでも嬉しそうに言います。

「ガスパールは、
 本当に過保護ですね」

私は、
即答します。

「伴侶ですから」

囲う。
守る。
支える。

けれど――
あなたが外へ伸ばした手は、
決して引き戻さない。
ただ、その先に立つだけ。


今夜、あなたの足をマッサージする香油は何にしようかと考えながら歩く。

それが、
私なりの愛し方です。
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