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無自覚に放つ光
しおりを挟む■ 気づかぬ光
――美しい、ということ
その日は、特別な予定のない午後でした。
あなたは居間の窓辺で、
新しく仕立てた簡素な上衣の紐を直していました。
色は淡く、装飾も控えめ。
目立つための服ではありません。
それでも。
光が、
あなたを選ぶ。
窓から差す午後の陽が、
肩の線をなぞり、
指先を淡く照らす。
私は、書棚の前で足を止めました。
……いつ見ても、
不思議だ。
華やかに着飾らなくても、
声を張らなくても、
視線が、自然と集まる。
「ガスパール」
あなたが振り返る。
「この服、
変じゃないですか?」
私は、即座に首を振りました。
「いいえ。
とても、あなたらしい」
それは、
褒め言葉であり、
同時に――
少しの警告でもありました。
⸻
その後、
必要な布と糸を買うため、
仕立て屋へ向かいました。
あなたは、
ただ横に立っているだけ。
それなのに。
店の奥から、
視線が動く。
年配のオークの職人が、
あなたを見て、
一瞬、手を止める。
「……素晴らしい…」
それだけ。
若い見習いたちは、
目を逸らすのが遅れ、
私の咳払いで、
ようやく我に返りました。
あなたは、
そのことに気づかない。
布の手触りを確かめながら、
真剣な顔で言う。
「この布、
肌触りが良さそうですね」
……そういうところだ。
私は、
あなたの背後に立ち、
影を重ねる。
視線が、
私で遮られる位置。
「愛しい人…」
低く、穏やかに。
「もっと、
私の近くに」
あなたは、
理由も聞かず、
素直に一歩、寄る。
……ああ。
無防備にも、ほどがある。
⸻
仕立て屋の主人が、
言葉を選びながら話しかけてきました。
「その……
よろしければ、
仮縫いの参考に、
少し立っていただけますか」
あなたは、
一瞬戸惑い、
それから私を見る。
私は、
間を置かずに答えました。
「短時間なら」
あなたが驚く。
「いいんですか?」
私は、
視線を逸らしつつ言います。
「……適しているのは事実です」
嘘ではありません。
あなたは、
台の上に立つ。
背筋を伸ばし、
静かに立つだけ。
それだけで、
空気が変わる。
布が当てられ、
線が引かれる。
周囲が、
無言になる。
私は、
腕を組み、
一歩も動かず、
全方向を視界に収める。
……これが、
私の最愛の伴侶だ。
誇らしさと、
苛立ちと、
危うさが、
同時に胸に満ちる。
⸻
帰り道、
あなたが言いました。
「なんだか、
皆さん、優しかったですね」
私は、足を止めました。
「……あなたは、
少しだけ、無防備すぎます」
「はい?」
私は、
少し言葉を選びます。
「あなたは、
思っている以上に、
人目を引きます」
あなたは、
きょとんとしました。
「そう、ですか?」
……ええ。
あなたが美し過ぎるから。
という言葉を、
私は飲み込みます。
代わりに、
こう言いました。
「ですから――」
そっと、
あなたの肩に手を置く。
大きな掌。
逃がさない位置。
「私のそばにいてください」
あなたは、
少し照れて、
それでも笑いました。
「はい。
ガスパールが、
落ち着くなら」
……落ち着く、か。
私が、
どれほど理性を使っているか、
あなたは知らない。
知らなくていい。
囲うのは、
支配のためではない。
守るためだ。
あなたが、
無自覚に放つ光が、
誰かを狂わせる前に。
⸻
屋敷に戻り、
扉を閉める。
外の視線は、
ここで途切れる。
あなたは、
ほっとしたように息を吐きました。
「……家、
落ち着きますね」
私は、
静かに答えます。
「ええ。
あなたが、
何も気にせずいられる場所です」
あなたの美しさは、
世界のものではない。
……少なくとも、
私の腕の中では。
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