紳士オークの保護的な溺愛

こむぎこ7g

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これは独占欲です

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■ 問題になる美しさ

――それは、あなたの「一言」から始まった


その日、私たちは薬草市へ来ていました。

露店が並び、
香りが混じり合い、
人の声が重なる。

私は、あなたのすぐ隣。
肩が触れるほどの距離。

「愛しい人、
 欲しいものはありますか」

「うーん……
 あ、あれ」

あなたが指さしたのは、
簡素な露店。
年配のオークが、一人で切り盛りしている。

近づくと、
彼はあなたを見て、目を瞬かせました。

「……おや」

あなたは、
柔らかく微笑んで言います。

「この香草、
 煮込みに使うと、
 甘くて優しい味になりますよね」

――それだけ。

それだけ、なのに。

「……ほう、詳しいな。」

店主の声が、
わずかに弾む。


「少しだけ。
 ガスパールが、
 味にうるさいので」

……そこで、
私の名を出した。

それが、
問題でした。

「ガスパール?」

周囲の視線が、
一斉にこちらへ向く。

「……あの、
 この街の流通を取り仕切っている…貴族の…?」

誰かが、
小声で言う。

あなたは、
気づかない。

「ええ。
 でも、優しくて家庭的なんですよ」

――優しい。家庭的。

その言葉が、
火に油を注ぎました。

「へえ……」

「そんな人が、
 こんな綺麗な……」

周囲の囁きが、広がる。

私は、
ゆっくり息を吸いました。

声は、低く。

「少し、
 こちらへ」



「どうかしました?」

あなたは、
素直にこちらを見る。 



……まったく。

私は、
あなたの肩に手を置き、
自分の方へ引き寄せました。

「少し、
 通行人が多いようですね…」

それは、
嘘ではありません。

あなたは、
私を見上げます。

「……近いです」



「ええ」

私は、
あえて離れません。

店主が、
気まずそうに咳払いをしました。

「……お二人は」



私は、
はっきりと言いました。

「伴侶です」

空気が、
ぴたりと止まる。

あなたが、
小さく声を上げる。

「ガスパール、
 そんなに強く言わなくても――」

私は、
あなたを見下ろしました。

「強く言う必要がある場面です」

「……え?」



露店を離れたあと、
あなたは、少し不安そうでした。

「……何か、
 まずかったですか」

私は、歩みを止めます。
少しだけ緊張しながら、あなたに向き合う。

周囲の喧騒が、
少し遠のく。

「あなたは、
 自分の言葉や仕草が、
 どれほど人を惹きつけるか、
 分かっていません」

あなたは、
困ったように眉を寄せる。

「ただ、
 感想を言っただけです」

「ええ。
 だからこそ、です」

私は、
一瞬、視線を逸らし――
それから、
正直に言いました。

「……正直に言いましょう」

あなたが、
息を呑む。

「私は、
 ああしてあなたが、
 誰にでも微笑み、
 無自覚に距離を縮めるのを――
 快く思っていません」

あなたの目が、
大きくなる。

「ガスパール……?」

私は、
低く、しかし確かな声で続けます。

「独占欲です」

はっきりと。

「見苦しいほどに」



あなたは、
しばらく黙っていました。

それから、
静かに言います。

「……怒って、いますか」


私は、首を振ります。

「いいえ、怖いのです」

その言葉に、
あなたが息を止める。

「あなたが、
 誰かに奪われることではない」

一歩、近づいて腕の中に抱き込んで、深く息を吐く。

「あなた自身が、
 自分の価値を知らずに、
 誰かに差し出してしまうことが」

あなたは、
小さな声で言いました。

「……じゃあ、
 どうしたらいいですか」


私は、
少し考えてから答えます。

「私のそばに、
 いてください、
それだけで、十分です」

あなたは、
しばらく私を見つめ――
それから、
小さく笑いました。

「……ずるいですね」

あなたは、
一歩、
自分から近づいてきました。

「ガスパールが、
 そんな顔をするなら……
 ずっと、そばにいます」

……あなたが、胸元に身を寄せ、私の顔を見上げる。

その仕草一つで、
どれほどの視線を集めるか。

私は、
そっとあなたの背に手を回します。

囲う。
隠す。
守る。
愛している。

もう、
遠慮はしません。




「……独占、
 してますね」

あなたは、
少し照れながらも、
安心したように言いました。

「……それに、これなら、
 迷子にならなくて済みそうです」



私は、
低く笑いました。

「ええ。
 今、はっきりと、遠慮なく、迷う前に、
 抱えて帰りますから」



その日から、
街では囁かれるようになります。

「貴族のオークが、
 とんでもなく溺愛している」

ええ。
否定しません。

伴侶ですから。
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