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第一幕
第10話:カルンの軍備と、不穏な気配
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「――腰を落とせ! 盾を隣の奴と重ねるんだ。一人の力じゃ防げない攻撃も、面で受ければ必ず弾き返せる!」
朝霧が漂う広場に、アドルの鋭い指示が飛ぶ。
目の前には、修復されたばかりの農具を一時置き、新たに量産された『木の盾』を構えたボルグを筆頭とする村の男たちが並んでいた。
アドルは村の防衛力を底上げするため、実戦を想定した集団戦の訓練を開始していた。
自らが複製し、村人全員に行き渡らせた同一規格の武装。
それは、個人の武勇に頼るのではなく、規律によって「壁」を作る戦術の要だった。
「次は投槍だ。狙うのは一点。十人が同時に放てば、それは回避不能の弾幕になる。放てッ!」
アドルの合図で、男たちが一斉に木製の槍を投じる。
ドォォン、と重苦しい音が広場の的に突き刺さった。
かつては逃げ惑うことしかできなかった者たちの瞳に、自らの手で守るという確かな意志が宿り始めていた。
◇
訓練の合間、ミーシャは一人、村の外周へと足を向けていた。
「アドルさん、私は村の周りを回って、使えそうな木材や鉄屑を集めてきます。ここに素材を置いていくので、作業に使ってください」
「ああ、助かる。……共有圏の十メートルを意識して、あまり深追いはするなよ」
彼女の【異空間保存】は、アドルから離れると共有が切れてしまう。
そのため、ミーシャは収集した「素材の山」をアドルの作業場にドサリと下ろすと、再び新しい資材を求めて村の外縁へと駆けていった。
彼女が物資を運び、アドルがそれを加工する。
その連携こそが、村の武装化を加速させる唯一の手段だった。
◇
アドルはボルグの家の軒先を借り、積み上げられた「素材の山」と向き合っていた。
村中の道具は概ね修繕し終えている。
今の目的は、修復ではなく『軍備の量産』だ。
「……まずは投槍を百本。それから盾も、可能な限り数を揃える」
アドルの【複製錬金】には、都合のいい自動生産機能などは存在しない。
あるのは、所有した物のレシピを、素材と質量を消費して再現する力だけだ。
彼は、自ら作り上げた「品質C」の投槍を手に取り、それを原型として認識した。
脳内に流れるレシピに従い、ミーシャが運んできた木材と僅かな鉄屑を消費していく。
カポッ、カポッ、と乾いた音と共に、寸分違わぬ形状の槍が横に積み上がっていく。
複製を繰り返す中で、稀に発生する「揺らぎ」による上振れ。
かつて壊れた道具を直した時のように、アドルは更なる高みを目指して神経を研ぎ澄ませた。
(……この『品質C』を超え、さらに上の『品質B』へ……!)
だが、現実は甘くなかった。
低品質なDからCへの向上は比較的起こりやすいが、CからBへの壁は、絶望的なまでに厚い。
百回、二百回と複製を繰り返しても、手元に完成するのは見慣れた「品質C」の槍ばかりだ。
「……くっ、やはりそう簡単にはいかないか」
アドルは一度、欲を捨てた。
今は唯一無二の名品を作る時ではない。
村人全員の手に行き渡る、信頼に足る「数」を揃えることが先決だ。
彼は淡々と、しかし確実に、品質Cの武具を積み上げていった。
単なる「修理屋」から、村全体の「工廠」へ。
アドルの権能が、村の性質そのものを変質させていた。
◇
訓練と錬成の合間、アドルは村を囲む柵を点検して歩いた。
ところどころ腐食が進んだ古い柵に対し、アドルは複製で作った頑丈な木の杭を用い、『筋交い(すじかい)』を打ち込んでいった。
構造的な弱点を補強し、力が一点に集中しないように工夫する。
錬金術で作った品質Cの部品を組み込み、古い防壁の強度を底上げする。
それは、地道だが着実な、生き残るための知略だった。
だが、それも時間との戦いだった。
村全体を一周するにはあまりに広すぎる。
アドルが補強を完了できたのは、村の北側にある、最も森に近い一角に過ぎなかった。
◇
滞在して四日目の夕暮れ時。
ミーシャが村の外から戻り、アドルが最後の一本の槍を仕上げた時だった。
「……アドルさん、見て。これ、森の入り口に落ちていたわ」
ミーシャが差し出したのは、一本の折れた矢だった。
アドルはそれを手に取り、鑑定を飛ばす。
【鑑定:折れた矢 状態:付着物(ゴブリンの毒)】
背筋に冷たいものが走る。
直後、村の北側――まだ補強が済んでいない古い柵のあたりで、凄まじい破壊音が響いた。
「ギィィィィィィッ!」
森の闇から這い出してきたのは、これまでの野良ゴブリンとは一線を画す「軍勢」だった。
革鎧を纏ったウォーリアに、大柄なエリート。
後方には弓を番えるアーチャーと、不気味な杖を掲げるシャーマン。
そしてその中央で、禍々しい王冠を戴いた巨躯が、玉座のような輿に乗って鎮座していた。
「……ゴブリンキング。パーティ編成かよ。洒落になってないな」
アドルは複製したばかりの槍を手に取り、ミーシャを背後に隠した。
「ミーシャ、素材を全部ここに下ろせ! 補給路は俺が守る。……ここを絶対防衛線にするぞ!」
訓練の成果を試すには、あまりに早すぎる本番。
カルンの村の平和が、音を立てて崩れ始めていた。
朝霧が漂う広場に、アドルの鋭い指示が飛ぶ。
目の前には、修復されたばかりの農具を一時置き、新たに量産された『木の盾』を構えたボルグを筆頭とする村の男たちが並んでいた。
アドルは村の防衛力を底上げするため、実戦を想定した集団戦の訓練を開始していた。
自らが複製し、村人全員に行き渡らせた同一規格の武装。
それは、個人の武勇に頼るのではなく、規律によって「壁」を作る戦術の要だった。
「次は投槍だ。狙うのは一点。十人が同時に放てば、それは回避不能の弾幕になる。放てッ!」
アドルの合図で、男たちが一斉に木製の槍を投じる。
ドォォン、と重苦しい音が広場の的に突き刺さった。
かつては逃げ惑うことしかできなかった者たちの瞳に、自らの手で守るという確かな意志が宿り始めていた。
◇
訓練の合間、ミーシャは一人、村の外周へと足を向けていた。
「アドルさん、私は村の周りを回って、使えそうな木材や鉄屑を集めてきます。ここに素材を置いていくので、作業に使ってください」
「ああ、助かる。……共有圏の十メートルを意識して、あまり深追いはするなよ」
彼女の【異空間保存】は、アドルから離れると共有が切れてしまう。
そのため、ミーシャは収集した「素材の山」をアドルの作業場にドサリと下ろすと、再び新しい資材を求めて村の外縁へと駆けていった。
彼女が物資を運び、アドルがそれを加工する。
その連携こそが、村の武装化を加速させる唯一の手段だった。
◇
アドルはボルグの家の軒先を借り、積み上げられた「素材の山」と向き合っていた。
村中の道具は概ね修繕し終えている。
今の目的は、修復ではなく『軍備の量産』だ。
「……まずは投槍を百本。それから盾も、可能な限り数を揃える」
アドルの【複製錬金】には、都合のいい自動生産機能などは存在しない。
あるのは、所有した物のレシピを、素材と質量を消費して再現する力だけだ。
彼は、自ら作り上げた「品質C」の投槍を手に取り、それを原型として認識した。
脳内に流れるレシピに従い、ミーシャが運んできた木材と僅かな鉄屑を消費していく。
カポッ、カポッ、と乾いた音と共に、寸分違わぬ形状の槍が横に積み上がっていく。
複製を繰り返す中で、稀に発生する「揺らぎ」による上振れ。
かつて壊れた道具を直した時のように、アドルは更なる高みを目指して神経を研ぎ澄ませた。
(……この『品質C』を超え、さらに上の『品質B』へ……!)
だが、現実は甘くなかった。
低品質なDからCへの向上は比較的起こりやすいが、CからBへの壁は、絶望的なまでに厚い。
百回、二百回と複製を繰り返しても、手元に完成するのは見慣れた「品質C」の槍ばかりだ。
「……くっ、やはりそう簡単にはいかないか」
アドルは一度、欲を捨てた。
今は唯一無二の名品を作る時ではない。
村人全員の手に行き渡る、信頼に足る「数」を揃えることが先決だ。
彼は淡々と、しかし確実に、品質Cの武具を積み上げていった。
単なる「修理屋」から、村全体の「工廠」へ。
アドルの権能が、村の性質そのものを変質させていた。
◇
訓練と錬成の合間、アドルは村を囲む柵を点検して歩いた。
ところどころ腐食が進んだ古い柵に対し、アドルは複製で作った頑丈な木の杭を用い、『筋交い(すじかい)』を打ち込んでいった。
構造的な弱点を補強し、力が一点に集中しないように工夫する。
錬金術で作った品質Cの部品を組み込み、古い防壁の強度を底上げする。
それは、地道だが着実な、生き残るための知略だった。
だが、それも時間との戦いだった。
村全体を一周するにはあまりに広すぎる。
アドルが補強を完了できたのは、村の北側にある、最も森に近い一角に過ぎなかった。
◇
滞在して四日目の夕暮れ時。
ミーシャが村の外から戻り、アドルが最後の一本の槍を仕上げた時だった。
「……アドルさん、見て。これ、森の入り口に落ちていたわ」
ミーシャが差し出したのは、一本の折れた矢だった。
アドルはそれを手に取り、鑑定を飛ばす。
【鑑定:折れた矢 状態:付着物(ゴブリンの毒)】
背筋に冷たいものが走る。
直後、村の北側――まだ補強が済んでいない古い柵のあたりで、凄まじい破壊音が響いた。
「ギィィィィィィッ!」
森の闇から這い出してきたのは、これまでの野良ゴブリンとは一線を画す「軍勢」だった。
革鎧を纏ったウォーリアに、大柄なエリート。
後方には弓を番えるアーチャーと、不気味な杖を掲げるシャーマン。
そしてその中央で、禍々しい王冠を戴いた巨躯が、玉座のような輿に乗って鎮座していた。
「……ゴブリンキング。パーティ編成かよ。洒落になってないな」
アドルは複製したばかりの槍を手に取り、ミーシャを背後に隠した。
「ミーシャ、素材を全部ここに下ろせ! 補給路は俺が守る。……ここを絶対防衛線にするぞ!」
訓練の成果を試すには、あまりに早すぎる本番。
カルンの村の平和が、音を立てて崩れ始めていた。
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