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第9話 初恋
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ハッチを開けると、そこに夏実人形はいなかった。部屋中見渡したが、その姿はない。
「まだ工房のどこかにはいるはずです!急ぎましょう。」
僕達は小走りで部屋を出た。紫のカプセルの廊下を抜け、つきあたりの手術室のような部屋に入った。
しーんとした部屋の中央のベッドに夏実人形が寝ていた。
寝息もたてず、死体のように横たわる夏実人形に篠原はゆっくり近づいた。僕は思わず目を閉じ、顔を背けた。
篠原は夏実人形の額に銃口を向け、深くため息をついた。
「…夏実は、僕の初恋だったんです。」
少し優しい篠原の声に、僕は顔を上げた。
「え…?」
動揺する僕を置いて篠原は続けた。
「夏実と出会ったのは、ちょうど半年前、真昼のぽかぽかした天気だというのに、彼女は橋の上から飛び降りようとしてたんです。僕が慌てて止めたのがきっかけでした。…彼女は誰にも言えない悩みを、他人の僕なんかに打ち明けてくれた。僕は必要とされていることが何より嬉しかった。
あなたが、彼女に愛されていることが羨ましくて、同時に憎かった。」
篠原は横目で僕を見た。虫を見るような目だ。
「だから私が夏実を殺します。やり場のないこの気持ちを断ち切るためにも…。」
そう言って篠原は引き金に指をかけた。
次の瞬間、夏実人形がものすごい速さで飛び起き、篠原の首を掴んだ。
「篠原さん!!」
その勢いで篠原は後ろに倒れ、頭を打った。
その拍子か、篠原の目つきが急に犯罪者のそれに変わった。
「ははは!そうですね、夏実!一緒に死にましょう!一発で楽に殺してあげます!」
いや、犯罪者と言うよりは薬物で精神を侵したに近い。
篠原は夏実人形の額に銃口を当て、首を締め続けられても抵抗ひとつしなかった。
僕は汗だくの右手に小さな拳銃を構え、銃口を夏実人形の腕に向けた。
震える腕を左手で抑え、引き金を引いた。
パン!
銃声が部屋中に響き、床に血が飛び散った。
「か…は?…っ。」
篠原は脇腹を押さえ、流れる血を不思議そうに見つめた。
外した!!!
僕は篠原を撃ってしまったショックで全身が一瞬固まった。
が、視界から夏実人形が消えたことに気づくと、背後にゾッと気配を感じ、咄嗟に振り向いた。
夏実人形が僕を見て不気味に笑っていた。僕はもうダメだと確信し、固く目をつぶった。
瞬間、銃声が再び響き、目の前の夏実人形がゆっくり崩れるように倒れた。
振り向くと、篠原が銃口をこちらに向けていた。
「…初恋は叶わないって、言うもんな…。」
篠原は掠れた声でそう言うと、拳銃を落としてそのまま動かなくなった。
静かな部屋に血の匂いが漂い、僕は気を失った。
「まだ工房のどこかにはいるはずです!急ぎましょう。」
僕達は小走りで部屋を出た。紫のカプセルの廊下を抜け、つきあたりの手術室のような部屋に入った。
しーんとした部屋の中央のベッドに夏実人形が寝ていた。
寝息もたてず、死体のように横たわる夏実人形に篠原はゆっくり近づいた。僕は思わず目を閉じ、顔を背けた。
篠原は夏実人形の額に銃口を向け、深くため息をついた。
「…夏実は、僕の初恋だったんです。」
少し優しい篠原の声に、僕は顔を上げた。
「え…?」
動揺する僕を置いて篠原は続けた。
「夏実と出会ったのは、ちょうど半年前、真昼のぽかぽかした天気だというのに、彼女は橋の上から飛び降りようとしてたんです。僕が慌てて止めたのがきっかけでした。…彼女は誰にも言えない悩みを、他人の僕なんかに打ち明けてくれた。僕は必要とされていることが何より嬉しかった。
あなたが、彼女に愛されていることが羨ましくて、同時に憎かった。」
篠原は横目で僕を見た。虫を見るような目だ。
「だから私が夏実を殺します。やり場のないこの気持ちを断ち切るためにも…。」
そう言って篠原は引き金に指をかけた。
次の瞬間、夏実人形がものすごい速さで飛び起き、篠原の首を掴んだ。
「篠原さん!!」
その勢いで篠原は後ろに倒れ、頭を打った。
その拍子か、篠原の目つきが急に犯罪者のそれに変わった。
「ははは!そうですね、夏実!一緒に死にましょう!一発で楽に殺してあげます!」
いや、犯罪者と言うよりは薬物で精神を侵したに近い。
篠原は夏実人形の額に銃口を当て、首を締め続けられても抵抗ひとつしなかった。
僕は汗だくの右手に小さな拳銃を構え、銃口を夏実人形の腕に向けた。
震える腕を左手で抑え、引き金を引いた。
パン!
銃声が部屋中に響き、床に血が飛び散った。
「か…は?…っ。」
篠原は脇腹を押さえ、流れる血を不思議そうに見つめた。
外した!!!
僕は篠原を撃ってしまったショックで全身が一瞬固まった。
が、視界から夏実人形が消えたことに気づくと、背後にゾッと気配を感じ、咄嗟に振り向いた。
夏実人形が僕を見て不気味に笑っていた。僕はもうダメだと確信し、固く目をつぶった。
瞬間、銃声が再び響き、目の前の夏実人形がゆっくり崩れるように倒れた。
振り向くと、篠原が銃口をこちらに向けていた。
「…初恋は叶わないって、言うもんな…。」
篠原は掠れた声でそう言うと、拳銃を落としてそのまま動かなくなった。
静かな部屋に血の匂いが漂い、僕は気を失った。
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