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第一話 極道に嫁入り
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私、葉桜ジェシカは父がよそで作った子どもだった。
アメリカ人の母は和食に魅せられて若い頃に来日し、父と出会って私を身ごもった。後に父が既婚者だったことを知り、父と別れて私を一人で育てながら母は必死に働いた。
無理が祟ったのか、過労で倒れた母は私が十四歳の時に亡くなった。残された私は、罪悪感からなのか父に引き取られることになった。
それから十年葉桜家にいるけど、未だに私の居場所はない。
本妻である義母は私を酷く嫌っているし、義妹の莉々果にも良く思われていない。
今回の結婚は義母と莉々果にとっては、願ってもないことだと思う。
厄介者の私を追い出せるのだから。
極道の家に身売りされたようなものだけれど、それでも私は自分を不幸だとは思っていなかった。
だって――、
「本物の極道なんて……ちょっと見てみたいわ!」
日本贔屓だった母の影響でサムライ、ニンジャといった日本文化が大好きだった。
特に最近は任侠もの映画にハマっていたので、正直興味を惹かれずにいられなかった。
どうせこの家にいても時間を浪費するだけだし、お金を貯めていずれは出て行こうと思っていた。
それが早まったのだと考えれば良い。
知らない人と結婚することになっても、今の生活を続けるよりかはよかった。
* * *
一応体裁を保つため、私は形だけのお見合いをすることになった。表向きはお見合い結婚にするため。
母の形見である着物をまとい、父とともに格式のある料亭に訪れた。
義母は同席することを拒んだ。まあ無理もない。
極道と相対なんてしたくないだろうし、ブロンドの髪にグレーの瞳を持つ見るからに外人の私の隣には並びたくもないだろう。
しかも父が不倫した末の娘だし、母親として出席するなど義母のプライドが許すはずがない。
「お待たせして申し訳ない」
先に来て待っていた私たちの前に現れたのは、和服を着た中年男性だった。
極道の組長さんというからどんな恐ろしい人が来るのだろうと思っていたけど、着物は立派だし白髪混じりの髪は綺麗に整えられているし、清潔感が感じられる。
気品があるとさえ思った。
「桜花組組長、吉野正仁と申す。こちらは妻の紗代子」
紹介された奥さんは恭しくお辞儀した。
やっぱり極道の怖さみたいなものはなく、和服の似合う慎ましやかな女性だった。
「そして、息子の和仁だ」
彼を見た瞬間、電撃が走ったかと思った。
怒ったような仏頂面に鋭い眼。
初対面から全く歓迎されていないのは察したけど、それでも私は彼から目が離せなかった。
だって、
――めちゃくちゃタイプだわ……!!
そう、はっきり言って和仁さんの顔は私の好みドストライクだった。
クールな雰囲気に整った容姿。しかも極道の次期組長。
今ハマっている任侠映画の若頭そのものじゃない……!
一度も私の方を見ようとしないことをいいことに、ガン見してしまった。
見れば見る程男前。母の影響を強く受けた私は、純和風な塩顔が好みすぎる。
「……シカ、ジェシカ!」
父に呼ばれてハッとした。
「何してる。お前も自己紹介しなさい」
「あっはい」
和仁さんに見惚れていたけど、慌てて頭を下げた。
「葉桜ジェシカと申しますっ」
「この通りアメリカ人とのハーフでして。前妻との子なんです」
父はそんな風に言ったけど、実際は不倫で母とは結婚してないし、義母が聞いていたらブチギレていただろう。
「ふむ、なんと綺麗なお嬢さんだ」
「ええ、本当にお人形さんみたい」
「よかったな、和仁。こんなに美しい嫁さんにきてもらえて」
「……」
和仁さんはずっと無言だった。
「無礼な倅ですまないね」
「い、いえ、とんでもない! 吉野組長には大変お世話になり、何とお礼をしてよいか……っ」
父はずっと組長さんの前でヘコヘコしていた。
「こちらこそ、こんなに良いお嬢さんに来ていただけるとは光栄だ。どうかよろしく頼むよ」
「は、はいっ! もちろんです……!」
吉野組長は穏やかな人だ。
でも、逆らってはいけないような妙な威圧感を持っている。
人が良さそうな笑みを浮かべているのに、瞳の奥の眼光は鋭い。
これが極道の組長ということなのかしら、と私は思った。
お見合いは終始穏やかに終わった。
吉野組長も奥さんも気さくに私に話しかけてくださった。
でも、和仁さんは一度も私と目を合わせることはなかった。
そんな調子だったのに結納、祝言とトントン拍子で進んでいった。
「君は本当にそれでいいのか?」
神前式での挙式当日、初めて和仁さんが私に話しかけてきた。
「政略結婚の道具にされて嫌ではないのか」
和仁さん、一応心配してくれているのかしら。
「いいんです。いずれ実家は出るつもりでしたから」
ニコッと微笑みながら答える。
「好きでもない男と結婚することになってもか」
「まあ、そうですね……」
和仁さんの顔はとても好きなので、全く好きじゃない人でもないのだけれど。
紋付き姿の和仁さん、やっぱり素敵だわ。
内心で惚れ惚れしている私とは裏腹に、和仁さんは冷たく言った。
「……父の命令で仕方なく籍を入れるが、君と夫婦をやるつもりはない」
和仁さんは、私の目を見てはっきりと言った。
「君が生活しやすいように環境の配慮はする。だが、俺はもう誰も愛さない。君とは書類上だけの夫婦だ」
私の目を見てそう言った彼のことを、場違いにもなんて誠実な人だろうと思った。
取り繕うことなくはっきりそう言ってくれるなら、こちらも余計な期待をしなくて良い。
偽りの愛の言葉を並べられるより、ずっと誠実だと思った。
「心得ました」
私はニコリと微笑んだ。
和仁さんは一瞬面食らったような表情をしたけど、すぐにいつもの仏頂面に戻った。
こうして私たちは書類上だけの夫婦になった。
愛のない政略結婚、それも極道に嫁ぐことになるなんて思ってもみなかった。
それでもこれは私自身が選んだ人生だから。
「ジェシカ、生きていれば嫌なことも辛いことも、思い通りにいかないこともたくさんある。でも、自分の進む道に誇りを持ちなさい。それがどんな道だろうと、私はジェシカの味方でいるから」
亡くなった母の言葉を思い出していた。
マムはきっと、私が決めた道を応援してくれるはず。
天国から見守っていてね。
私は私なりの幸せの在り方を見つけるわ。
極道の妻になったからって、不幸になるとは限らないもの。
自分の幸せは自分で決める。
マムの言葉を胸に、私は新たな生活を始めることになった。
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