不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

翼 うみ

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第五話 通じ合う心

5-2

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「――ジェシカ!!」

 ドアを押し破ってきたのは、息を切らした和仁さんだった。かなり急いで来てくれたのか、かなり汗をかいていて息が乱れている。

「和仁さ……っ」
「動くな」

 男は私の首元に腕を回し、銃口を直接こめかみに押し当てる。
 一瞬希望が見えたかに思えたけれど、すぐに打ち砕かれた。

「和仁さん……」
「……妻を離せ」

 和仁さんは見たこともないドス黒いオーラを放ち、目は血走っていた。激しい怒りが全身から滲み出ている。
 まるで獲物を捕らえようとする狼のようなオーラに、私も男も気圧される。

 和仁さんは一歩一歩近づいていく。

「お、おい来るな! この女がどうなってもいいのかっ!」

 男は完全に和仁さんのオーラに圧倒され、銃を持つ手が震えている。それでも私のこめかみにピッタリと銃口を押し付けてくる。

 和仁さんはそんな脅しに怯みもせず、大股歩きでどんどん近づいてゆく。

「く、来るなって言ってるだろ!」

 私はもうダメだと思ってしまった。思わず目を瞑る。

 その直後、ドン!という鈍い音が響き渡る。
 ハッとしてすぐに目を開けた。ほんの数秒の出来事のはずだった。

 だけど男はその場に倒れ込み、地面には銃が転がり落ちている。
 銃は和仁さんが素早く拾い上げ、銃口を犯人に向けた。

 目を瞑った数秒の間に形勢逆転していて、私は何が起きているのか全く理解できなかった。
 銃口を向けたまま、冷徹な瞳で男を見下ろす和仁さん。

「う、撃てよ!」

 尻餅をつきながら、男は喚いた。その姿はあまりにも情けなく滑稽だった。

「殺せよ!! この人殺しがっ!!」

 和仁さんは無言で銃口を突き付けている。和仁さんの指が引き金にかかるのが見えた。

 ダメ、やめて和仁さん……っ!!

 私は叫びたかったけど、声が出ない。

 パァン! という銃声が響く。
 銃弾は男の頬から数ミリを掠めた。男の頬からツー、と血が滴る。

「……失せろ」
「ヒィ……っ!!」

 ドスの効いた低い声で吐き捨てる。完全に圧倒された男は戦意喪失し、その場に崩れ落ちた。
 和仁さんは銃を下ろし、駆け寄って私を縛っていた縄を解いてくれた。

「大丈夫か?」
「……っ!」

 反射的にビクッと体を震わせてしまった。

「俺が怖いか?」

 あ、違う。そういうわけじゃないのに……。

「あの、」
「巻き込んで悪かった」

 先程までの獣のような激しいオーラは形をひそめ、和仁さんは私に向かって頭を下げた。

「もう君には近づかない」
「……!」

 違うのに。助けに来てくれて嬉しかった。和仁さんが来てくれなければ、死ぬかと思った。

 だから、そんなに寂しいこと言わないで――……。

「若!」

 和仁さんが破ったドアから峰さんが現れて駆け寄る。
 直接話したことは少ないけれど、和仁さんの右腕でいつも一緒にいるので知っている。

 峰さんは金髪のロングヘアをポニーテールにしており、線の細い美人だ。
 犬に例えるとゴールデンレトリバーだと思っている。

「大丈夫か?」
「ああ」

 和仁さんと峰さんは幼馴染らしくて、敬語ではなくタメ口で喋っている。
 峰さんは私にも声をかけてくれた。

「姐さんも無事でしたか」
「はい……」
「あの男の身柄を引き渡す準備はできている」

 峰さんの背後からスーツを着たかなり長身の男性が現れる。身長は百八十センチくらい。
 黒髪をオールバックにしており、一重で目つきが鋭い。和仁さんとはまたタイプが違うけれど、かなりスタイルが良くてイケメンだと思った。

 だけど、一睨みするだけで萎縮してしまうような圧倒的な存在感を放っている。
 実際その人を見た途端、私を拉致した男は顔面蒼白になって怯え出した。

「わ、若頭……っ!!」
「テメェ、随分勝手な真似してくれたみてぇだな」

 瞳孔が開いていてかなり激怒している。
 男は完全に震えて縮み上がっていた。
 
 若頭ということは、この人も極道なのかしら?

 その人は今度は和仁さんの方を振り向いた。
 二人が対峙した瞬間、見えるはずのない火花が見えたような気がした。

「吉野、久しぶりだな」
「……鬼頭きとう。いや、今は染井そめいだったか」
「テメェに呼ばれる名なんかどうでもいい」
「……」

 何だかわからないけれど、この二人が対峙しているだけで強いプレッシャーを感じる。
 間に入ろうものなら、火花で焼き切られてしまいそうだ。

「今回の件はウチの者の不始末だ。ここは俺に任せてもらおうか」
「後処理は任せる」

 和仁さんはそう言うと、峰さんのほうを振り向く。

「峰、ジェシカのことを頼む」
「わかった。行きましょう、姐さん」
「はい……」

 峰さんに付き添われ、その場から立ち去ることに。
 不安そうに和仁さんの方を振り返いたが、和仁さんがこちらを向くことはなかった。

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