不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

翼 うみ

文字の大きさ
39 / 68
第八話 忍び寄る闇

8-4

しおりを挟む




 今日は掃除がてら書斎の整理をすることにした。
 お義父様の趣味でもあるらしく、書斎にはたくさんの書物がある。
 こうやってお部屋に入ることを許されると、私も家族の一員に入れてもらえてるんだなぁと思って嬉しくなる。

 積み上がった本を一冊ずつ丁寧に整理していたら、何かの本の間から写真が一枚滑り落ちた。

「あら……?」

 写真に写っていたのは、今よりも若い和仁さんだった。
 十代か二十歳くらいかしら? この時からとても整った顔立ちをしていてイケメンすぎる。

 その隣に映っているのは、セーラー服を着た黒髪セミロングの女の子。
 和仁さんは堅い表情をしているけれど、彼女は和仁さんの腕を組んで笑顔でピースしている。

「これは……誰?」

 その時、廊下からドタドタという騒がしい足音が聞こえる。

「姐さん!! 大変ですっ!!」
「えっ?」
「今すぐ来てください!!」

 千原さんの血相を変えた表情に驚きながら、私は慌てて千原さんについていく。
 写真は書斎のテーブルに置いた。
 正直写真が気になったけれど、無理矢理頭から押しのけた。

 居間に行くと、組員たちが集まっている。
 その中央に峰さんに支えられ、腕を負傷した和仁さんの姿があった。

 腕からは痛々しく血が流れており、片手で押さえている。
 一瞬にして血の気が引き、私は大声をあげて和仁さんに駆け寄った。

「和仁さんっ!!」
「ジェシカ……」
「どうして!? 何があったの!?」
「撃たれたんです。別の組の者に」

 取り乱す私に峰さんが冷静に答えた。

 そんな、撃たれただなんて……!!

「そんな……っ!!」
「これから馴染みの医者のところに行ってきます」
「私も行きます!」
「ダメだ」
「どうしてですか!?」
「ジェシカはここにいろ。絶対外には出るな」
「でも……っ」
「絶対出るな」

 和仁さんから有無を言わさない圧力を感じた。
 思わずビクッと身を震わせてしまう。

「……千原、笹部」

 和仁さんが呼びかけると、二人はピンと背筋を伸ばす。

「「はい!」」
「ジェシカを頼む」
「「はっ!」」

 深々と頭を下げる千原さんと笹部さん。
 峰さんに支えられながら立ち上がり、和仁さんは病院へと向かう。

 追いかけようとしたけど、千原さんたちに止められてしまった。

「っ、和仁さん……っ」

 ボロボロと泣きじゃくりながら、病院へ向かう車を見送ることしかできなかった――。

 私は部屋にこもり、一人泣き続ける。

「うっ、うっ……」

 コンコンというドアのノック音がして、千原さんが訪ねてきてくれた。

「姐さん、飯食べないんすか?」
「いらない……」
「姐さん……」

 食欲なんてあるわけない。
 和仁さんのことが心配でたまらない。

 しばらくして再びコンコンというノック音が聞こえた。

「すんません、姐さん。姐さんに謝りたいって奴がいるっす」
「姐さんすみません! 兄貴が撃たれたのは俺のせいで……っ」

 ドア越しにとても申し訳なさそうに叫ぶ声が聞こえた。

「兄貴は俺のこと庇ったんです……っ。でなきゃ兄貴が怪我なんてするわけねぇ! 俺のせいですみません!!」
「……」

 ガチャリとドアを開けると、ドアの前には笹部さんとスキンヘッドの組員さんが立っていた。
 二人とも大柄で体格が良いのに、何故かとても小さく見える。

「姐さん……」
「謝らないで……きっと和仁さんは次期組長として当然のことをしたんだと思うから」

 そう、きっと仲間を守るのも和仁さんの使命なのだと思う。

「姐さん! 兄貴は姐さんを怒ったんじゃねぇ! 姐さんのことが心配で!」
「それもわかってるわ……」

  和仁さんは常に私の身の安全を考えてくれている。
 それはわかるけど、私が思っていた以上に極道という世界のことをわかってなかった……。
 命の危機とこんなにも隣り合わせだったなんて。

 夜が更けても食欲が出ず、ずっと自室に引きこもっていた。
 散々泣いて泣き腫らし、きっと酷い顔をしていると思う。

 だけど顔を洗う気力もない……。

「姐さん!! 兄貴帰ってきました!!」
「!!」

 その声を聞いてハッとして飛び起き、急いで玄関まで駆け寄る。

「和仁さんっ!!」
「ジェシカ……」

 腕に包帯を巻いている和仁さんの姿を見て、枯れたはずの涙が再び溢れ出る。

 私は勢いよく駆け寄って和仁さんに抱きついた。

「和仁さん!! 無事でよかった……っ」
「心配かけてすまなかった」

 和仁さんは片腕で私のことを抱きしめてくれた。

 しばらく玄関でそうしていたけど、二人で寝室に戻る。
 和仁さんの着替えを手伝いながら、包帯が巻かれた腕を見た。

「腕、痛みますか?」
「大したことない、擦り傷だ。医者が大袈裟なだけだよ」
「でも撃たれたんでしょう?」
「心配するな。急所は外してるから本当に大したことないんだ」

 和仁さんは私の頭をポンと優しく撫でる。

「……ジェシカ、すまないがしばらく帰れなくなる」
「え……」
「君もなるべく外出は控えてくれ。外出するなら必ず千原か笹部を連れて行くんだ」
「和仁さんは大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。心配するな」
「~~っ」
「そんな顔しなくていい。必ず無事に帰るから」

 そう言って抱きしめてくれたけど、私の心は不安でいっぱいだ。

「……絶対無事で帰ってきて」

 もう私はあなたがいない生活なんて考えられない。
 離れたくない、ずっと一緒にいたい。

 だから神様、いるのならどうか和仁さんを守ってください――。

 祈ることしかできない自分が歯痒くて、怖くて不安で胸が押し潰されそうな夜だった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

虚弱姫はコワモテ将軍の筋肉に触りたい

隙間ちほ
恋愛
◼︎無骨な英雄×病弱な筋肉フェチ姫 ◼︎辺境伯の末娘エルナは、領軍の英雄マテウスとの結婚が決まった。政略結婚――のはずが、実は姫は将軍の熱烈なファン。姫がノリノリで嫁ぐ一方、当のマテウスは「か弱い姫君に嫌われている」と思い込み、距離を取ってしまう……。 ◼︎筋肉と鼻血とすれ違いラブコメ。 ◼︎超高速展開、サクッと読めます。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました【完結】

日下奈緒
恋愛
10年付き合った恋人と別れ、恋に臆病になっていた30歳の千尋。そんな彼女に、取引先で出会った御曹司・神楽木律が突然のプロポーズ。「交際0日で結婚しよう」なんて冗談でしょ?──戸惑いながら始まった新婚生活。冷めた仮面夫婦のはずが、律の一途な想いに千尋の心は少しずつほどけていく。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

処理中です...