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第八話 忍び寄る闇
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今日は掃除がてら書斎の整理をすることにした。
お義父様の趣味でもあるらしく、書斎にはたくさんの書物がある。
こうやってお部屋に入ることを許されると、私も家族の一員に入れてもらえてるんだなぁと思って嬉しくなる。
積み上がった本を一冊ずつ丁寧に整理していたら、何かの本の間から写真が一枚滑り落ちた。
「あら……?」
写真に写っていたのは、今よりも若い和仁さんだった。
十代か二十歳くらいかしら? この時からとても整った顔立ちをしていてイケメンすぎる。
その隣に映っているのは、セーラー服を着た黒髪セミロングの女の子。
和仁さんは堅い表情をしているけれど、彼女は和仁さんの腕を組んで笑顔でピースしている。
「これは……誰?」
その時、廊下からドタドタという騒がしい足音が聞こえる。
「姐さん!! 大変ですっ!!」
「えっ?」
「今すぐ来てください!!」
千原さんの血相を変えた表情に驚きながら、私は慌てて千原さんについていく。
写真は書斎のテーブルに置いた。
正直写真が気になったけれど、無理矢理頭から押しのけた。
居間に行くと、組員たちが集まっている。
その中央に峰さんに支えられ、腕を負傷した和仁さんの姿があった。
腕からは痛々しく血が流れており、片手で押さえている。
一瞬にして血の気が引き、私は大声をあげて和仁さんに駆け寄った。
「和仁さんっ!!」
「ジェシカ……」
「どうして!? 何があったの!?」
「撃たれたんです。別の組の者に」
取り乱す私に峰さんが冷静に答えた。
そんな、撃たれただなんて……!!
「そんな……っ!!」
「これから馴染みの医者のところに行ってきます」
「私も行きます!」
「ダメだ」
「どうしてですか!?」
「ジェシカはここにいろ。絶対外には出るな」
「でも……っ」
「絶対出るな」
和仁さんから有無を言わさない圧力を感じた。
思わずビクッと身を震わせてしまう。
「……千原、笹部」
和仁さんが呼びかけると、二人はピンと背筋を伸ばす。
「「はい!」」
「ジェシカを頼む」
「「はっ!」」
深々と頭を下げる千原さんと笹部さん。
峰さんに支えられながら立ち上がり、和仁さんは病院へと向かう。
追いかけようとしたけど、千原さんたちに止められてしまった。
「っ、和仁さん……っ」
ボロボロと泣きじゃくりながら、病院へ向かう車を見送ることしかできなかった――。
私は部屋にこもり、一人泣き続ける。
「うっ、うっ……」
コンコンというドアのノック音がして、千原さんが訪ねてきてくれた。
「姐さん、飯食べないんすか?」
「いらない……」
「姐さん……」
食欲なんてあるわけない。
和仁さんのことが心配でたまらない。
しばらくして再びコンコンというノック音が聞こえた。
「すんません、姐さん。姐さんに謝りたいって奴がいるっす」
「姐さんすみません! 兄貴が撃たれたのは俺のせいで……っ」
ドア越しにとても申し訳なさそうに叫ぶ声が聞こえた。
「兄貴は俺のこと庇ったんです……っ。でなきゃ兄貴が怪我なんてするわけねぇ! 俺のせいですみません!!」
「……」
ガチャリとドアを開けると、ドアの前には笹部さんとスキンヘッドの組員さんが立っていた。
二人とも大柄で体格が良いのに、何故かとても小さく見える。
「姐さん……」
「謝らないで……きっと和仁さんは次期組長として当然のことをしたんだと思うから」
そう、きっと仲間を守るのも和仁さんの使命なのだと思う。
「姐さん! 兄貴は姐さんを怒ったんじゃねぇ! 姐さんのことが心配で!」
「それもわかってるわ……」
和仁さんは常に私の身の安全を考えてくれている。
それはわかるけど、私が思っていた以上に極道という世界のことをわかってなかった……。
命の危機とこんなにも隣り合わせだったなんて。
夜が更けても食欲が出ず、ずっと自室に引きこもっていた。
散々泣いて泣き腫らし、きっと酷い顔をしていると思う。
だけど顔を洗う気力もない……。
「姐さん!! 兄貴帰ってきました!!」
「!!」
その声を聞いてハッとして飛び起き、急いで玄関まで駆け寄る。
「和仁さんっ!!」
「ジェシカ……」
腕に包帯を巻いている和仁さんの姿を見て、枯れたはずの涙が再び溢れ出る。
私は勢いよく駆け寄って和仁さんに抱きついた。
「和仁さん!! 無事でよかった……っ」
「心配かけてすまなかった」
和仁さんは片腕で私のことを抱きしめてくれた。
しばらく玄関でそうしていたけど、二人で寝室に戻る。
和仁さんの着替えを手伝いながら、包帯が巻かれた腕を見た。
「腕、痛みますか?」
「大したことない、擦り傷だ。医者が大袈裟なだけだよ」
「でも撃たれたんでしょう?」
「心配するな。急所は外してるから本当に大したことないんだ」
和仁さんは私の頭をポンと優しく撫でる。
「……ジェシカ、すまないがしばらく帰れなくなる」
「え……」
「君もなるべく外出は控えてくれ。外出するなら必ず千原か笹部を連れて行くんだ」
「和仁さんは大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。心配するな」
「~~っ」
「そんな顔しなくていい。必ず無事に帰るから」
そう言って抱きしめてくれたけど、私の心は不安でいっぱいだ。
「……絶対無事で帰ってきて」
もう私はあなたがいない生活なんて考えられない。
離れたくない、ずっと一緒にいたい。
だから神様、いるのならどうか和仁さんを守ってください――。
祈ることしかできない自分が歯痒くて、怖くて不安で胸が押し潰されそうな夜だった。
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