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最終話 鏡花水月
13-4
しおりを挟むすると、病室の外からドタドタドタという慌ただしい足音が聞こえてくる。
ガラ! と勢いよく病室の扉が開き、息を切らして汗をかいている和仁さんが現れる。
着ているスーツもシャツも赤く汚れていた。
「ジェシカ!!」
「和仁さん……っ」
「和仁! あなた九州じゃ」
「朝一の飛行機で帰ってきた」
まだ息が乱れたまま私の両手を握りしめ、心配そうに見つめる和仁さん。
「ジェシカ、大丈夫か?」
「……っ」
和仁さんの顔を見た瞬間、ぼろっと涙が溢れる。
「和仁さ……っ、あいたかった……っ」
「ジェシカ……」
子どもみたいに泣きじゃくる私を優しく抱きしめてくれる。
しばらく泣き続ける私に寄り添いながら、和仁さんはお義母様に尋ねた。
「お袋、ジェシカの容態は?」
「つわりが酷くて水も飲めてなかったみたいで、点滴打ってもらっていたところよ。ジェシカさんが目を覚まして落ち着いたら内診してもらうことになってるの」
「そうか……」
「あなたこそ大丈夫なの? 血だらけじゃない!」
「これは俺の血じゃない」
ええ!? それは誰の血なの!?
「……和仁は一度着替えてきなさい。こんな姿を病院の人に見られたらマズイでしょう」
「もう遅いと思いますよ、女将さん」
そこへ替えのスーツを持った峰さんが病室に入ってきた。
走って追いかけてきたのか、峰さんも肩で息をしていた。
「飛行機からこのままでしたから。一応替えのスーツは持ってきましたけどね」
「すまん、助かる」
「相当無茶をしたのね……」
お義母様はやれやれというように額に手を当てる。
私は涙が枯れるとともに段々と眠くなってきた。
「和仁さん……眠くなってきました」
「そうか、ゆっくり休むといい」
「寝てる間も傍にいてくれますか?」
「ああ、ずっといる」
和仁さんの言葉に安心して、私は久しぶりに爆睡した。
目が覚めると体がすごく楽になっていた。
医師の内診で赤ちゃんは元気に育っていることがわかり、改めてホッとする。
赤ちゃんは強い子なんだ。
私も頑張らないと……!
その後、和仁さんが作ってくれたレモンを浸した微炭酸水は喉を通ることがわかった。
「意外と飲めます。冷たくてシュワっとしてる感じがいけます」
「そうか、良かった。つわり中に飲めるものを色々調べていたんだ」
先生にも水分補給が大事だと言われたし、これなら飲めそうかも!
食べ物も少しでも口に入れられるものをなるべく食べることにした。
プチトマトやポテトフライが意外と食べられた。
ポテトフライが意外だったけど、つわりでも食べられるもの上位に入るらしい。
ジャンクなイメージだったけど、一度食べるとパクパク食べられてしまう。
「すまない、やっぱり一人にするんじゃなかった。これからは傍にいる。お袋が親父にガツンと言ってくれたからな」
「お義母様が?」
「ああ見えて親父はお袋に頭が上がらないんだよ」
なるほど、母は強しということね。
それから和仁さんは本当に早く帰って来てくれるようになったし、病院には必ず付き添ってくれるし家事も全部やってくれるしちょっと過保護すぎるんじゃないかというくらい。
でも、和仁さんの気持ちがすごく嬉しかった。
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