元魔王、救世主になる

えながゆうき

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ざわつく冒険者ギルド

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「こうしてはいられない。急いであの子たちのところへ戻らねば」
「良いですか、落ち着いて聞いて下さい。先ほどの話はたとえ話ですからね。事実かどうかは分かりません。もしかすると、本当にあの二人だけのパーティーなのかも知れません」

 その可能性はあるのか? 少女二人のパーティー。仲の良い女の子同士がお互いに支え合いながら成長していく。そこに男は不要だな。間に挟まれれば消されることになるだろう。

「そうだと良いのだが……それでも気になるな。もしモンスターに襲われでもしたら寝覚めが悪い。よし、やっぱり戻ろう」
「その必要はありませんよ。さっきの殺気でこの一帯のモンスターは全部逃げ出してしまったでしょうからね」
「お、ダジャレか?」
「……」
「ゴメンナサイジョウダンデス」

 私の殺気なんかよりも、カビルンバの「無言の圧力」の方がもっと怖いと思うのだが。
 それでも納得がいかなかったので、フルパワーで索敵範囲を広げた。その結果、領都に逃げ帰っているような不届き者の反応はなかった。

 その一方で、この場所を中心にモンスターが離れるように全力で移動していた。カビルンバが言うことは本当だった。さっきの殺気でモンスターが逃げ出したんだ!
 だがそのおかげで、少女二人組も安全に領都へと帰ることができるだろう。念のためにバレないように見守っておくけどね。

「まるでストーカーのようですね」

 ニッコリと笑うカビルンバ。ぐぬぬ。

「人聞きが悪いことを言うんじゃありません。保護者と言いなさい、保護者と」
「過保護なんだよなぁ。索敵範囲内にモンスターはいないのでしょう? もう見守る必要はありませんよ」
「そうなんだが、ここまで来たからには最後まで見届けたい」
「まるで初めてお使いに行く子供を影ながら見守る母親ですね」
「私も母親の気持ちが分かったような気がする」

 そんな私たちが見守る中、少女たちは領都の中へと入って行った。任務完了。これより帰還する。マントとお面を脱ぎ捨てると、マジックバッグに収納した。空は夕暮れから紺色に変わりつつあった。

「予定では早めの夕食にするつもりだったんですよね?」
「そうだった。豪華な晩餐にするつもりだったんだ。まあ、しょうがないか。後悔はしていない」
「それは良かった。さあ、夕食を食べに行きましょう。冒険者ギルドに併設されている酒場はダメですよ。さっきの二人組がいる可能性が高いですからね」
「分かったよ。今日は裏通りを歩いてみるとするかね」

 ちょっと残念な気持ちで裏通りを歩く。豪華な晩餐は明日の楽しみにしておこう。裏通りではなかなか良い感じの店を見つけたのでそこにした。地元の食材を生かしたオーク肉のシチューがおいしかった。今度はオーク肉狙いで狩りに行ってみようかな。

 早めに宿屋に戻る。今日こそ念願のお風呂に入るぞ。銀貨を握りしめてお風呂場へと向かう。お風呂場で番台に料金を支払って、いざ湯船へと向かった。
 そこには借りている部屋と同じくらいの大きさの湯船があった。これだけ大きな湯船のお湯を保とうと思ったら、相当な燃料費がかかるだろうな。魔法で温度を維持するにしても大変そうだ。

「これだよ、これ。これを待ってた」

 湯船につかると、あまりの心地良さに思わず声が漏れた。この気持ちよさが分からないのか、カビルンバは首をかしげていた。

「そんなもんですかね?」
「そんなもんだよ。それにしても、カビルンバは無料で入れるのだな。何だかずるい気がする」
「別にボクの分の料金も支払ってもらっても良いんですよ?」
「……」

 今の話はなかったことにしよう。これで二人分の料金が取られるようなことになれば、宿代や入場料もそのうち取られることになりそうだ。そうならないためにも、私は何も聞かなかった。

「明日からはどうしようかな。やることは一段落ついたし、しばらくの間はダラダラと過ごそうかな」
「それが良いですよ。しばらくは大人しくしておきましょう。そうしましょう」
「……なーんか怪しいんだよなー。いつものカビルンバなら『ダラダラしてないで働け』って言いそうなんだけど」
「ソンナコトナイヨー」

 怪しい。カタコトになったところがなおのこと怪しい。カビルンバをなめてみるか? ウソをついている味がするかも知れない。
 疑いの目でジローっと見ていると、観念したのか、カビルンバが一つため息をついた。

「今、冒険者ギルドがざわついているのですよ」
「ざわつく? まさか、あの少女二人組のことか!?」
「近いようで、遠いです。正確にはあの二人を助けるためにレオ様が使ったドリルランスが問題になっているようです」

 ドリルランスが問題に? そういえばドリルランスを使ったときにカビルンバが「あ」ってつぶやいていたな。もしかしてカビルンバは、そのときからこうなることを予想していたのか? そして菌糸ネットワークを使って、冒険者ギルドを監視していたというわけだ。

「つまり、どういうことなんだ?」
「ゴブリンの動きを調査しに行った冒険者がドリルランスの痕跡を見つけていたことを覚えていますか?」
「もちろんだよ。だがそのあとで痕跡をキレイサッパリ消したから、その証言は怪しまれているはず」
「そう、その通りです。そんな魔法は聞いたことがないし、見たことがない。信憑性は薄いとなっていたわけです。ところが、実際にドリルランスの使い手がいた」

 あ、何となく嫌な予感がしてきたぞ。せっかくうやむやになりそうだったのに、その使い手がいた。ゴブリンの集落を襲撃したのはそいつに違いない、となったわけだ。

「どうしよう」
「どうしようもないですね。こうなってしまったからには身を隠すしかありません。幸いなことに変装していましたから、あの格好にならなければ、そう簡単には私たちだと分からないでしょう」

 首を左右に振りながら目を伏せるカビルンバ。あのとき別の魔法を使っていればこんなことにはならなかったのに。これからはドリルランスを使うのは控えないといけないな。
 森では火属性魔法は使えないし、使うなら水属性魔法にするか? いや、風属性魔法の方が良いかも知れない。

「口止めをしておくべきだったな。こうなったからには別の街に移ることも考えなくてはならないな。カビルンバ、プランBだ。プランBを提示してくれ」
「はあ? プランB? ありませんよ、そんなもの」

 特にプランBはなさそうだったので、しばらくの間はこの領都にとどまることにした。
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