元魔王、救世主になる

えながゆうき

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仮の身分証明

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 商業ギルドをあとにすると寄り道をせずに宿へと戻った。どうやら欲しい情報は冒険者ギルドか錬金術ギルドにあるようだ。それならば、カビルンバの情報網に頼るしかない。

「商業ギルドでは思っていたような情報は得られなかったな」
「そうですね。小口の取り引きは行っていないようですね。商人になるのならまだしも、レオ様はそんなつもりはないのでしょう?」
「無理だな。素晴らしい情報網があっても、とてもではないがそれを利用できるとは思えない」
「やけに素直ですね」

 いぶかしそうにこちらを見るカビルンバ。さすがに最近では自分にできることとできないことの区別くらいはつくようになってきたぞ。私に向いているのは戦いか、錬金術アイテムの作製くらいだろう。

「それで、その優秀な情報網を使って、この辺りで採取できる素材を教えてもらいたいのだが」
「もちろんですよ。これが一覧表になります。ですがこれはギルドから入手したものなので、未開の森にこれ以外の素材がある可能性は捨てきれませんね」
「つまり、未開の森には無限の可能性があるというわけだ。ひょっとすると、新しい素材が見つかるかも知れないな」

 一覧表を見ながら欲しい素材を頭の中に入れていく。一応、上級回復ポーションの素材も手に入りそうである。さすがに完全回復ポーションは無理そうだったが。
 その中には「ゴブリンキングの王冠」の文字もあった。買い取り価格が思ったよりも高い。これは購入するとしたら、それなりにまとまったお金が必要になりそうだ。

「しばらくはお金をためる必要があるな。当面の目標はヴォイドバッグの作製だ。これさえあれば、城を持ち運んでいるようなものだからな」
「それなら『ゴブリンキングの王冠』が必要ですね。ゴブリンキングを探しに行きますか?」
「うーん、そう簡単に遭えるモンスターじゃないんだよな~。発生条件が『大量にゴブリンがいること』だし、今探索している範囲にはそんな場所はないからな」

 残念ながら、この辺りでは遭うことができそうにない。あのゴブリンの集落を残しておけば可能性はあったのだろうが――あの感じだと、近いうちに冒険者が送り込まれて、結局、全滅させられていたか。

 ゴブリン単体は強くはないが、弱いが故に、人間と同じように数の暴力に任せて襲って来るのだ。領都ならまだしも、開拓村や小さな町ではひとたまりもないだろう。全滅するのは人間の方になる。そこに多少の別種族が混じっていても同じだ。

「今のところは購入することを目指した方が良さそうだ。もちろんチャンスがあれば倒しに行くけどね」
「それならもっとお金をためる必要がありますね。上級回復ポーション++を売ればものすごい金額になりそうですが……」
「その分、かなり目立つだろうな。やはり一般的に取り引きされている錬金術アイテムを地道に売るしかないか」
「そうなりますね」

 どうやら一獲千金とはいかないようである。毎日地道にコツコツと商品を売るしかなさそうだ。++の錬金術アイテムを作れるのでかなり有利ではあるが。

「それじゃ、素材を集めに向かうとしよう。貴重な素材を見つけても今は保留だな」
「二度とこの街に戻ってこないつもりなら売っても良いのでしょうけどね」
「今はまだその時じゃないな。まずは人間社会に慣れることが最優先だ。そうでなければこの先、生きていけないだろうからな」
「魔族の社会とは全然違いますからね。魔族社会は『力こそ全て』でしたからね」

 カビルンバの言う通り、魔族社会は何よりも強さが重要だった。そうでなければ、私が魔王になどなれなかっただろう。私が魔王になれたのは単純にだれよりも強かったからである。

 いつものように門から出ようとすると、門番に止められた。思わず体がこわばった。まさか、私の秘密に気がついたのか?

「あんた、最近よく出入りしているな。身分証明を持っていないのなら、役所で長期滞在手続きをするといい。いくらかお金を払う必要はあるが、月単位で仮の身分証明を作ってもらえるぞ」
「本当か? それは知らなかった。貴重な情報をありがとう。さっそく行ってみることにするよ。これはお礼だ」
「お、おう」

 どうやら門番は良いやつだったようである。お礼のチップを渡すと教えてもらった役所へと向かった。

「まさかそんな制度があるとはな。何もかもが魔族社会とは違う」
「その通りですね。まさか合法の抜け道が用意されているとは思いませんでした」
「人間はお金大好きだもんな。毎回、入場料を取ってお金もうけするものだと思い込んでいたよ」

 案内してもらった役所の待合室には多くの人がいた。ここでは住民手続きや、開業手続き、領都で起こった問題の対応にあたっているようである。
 待つことしばし。順番が回ってきた。

「仮の身分証明を発行してもらいたいのだが」
「領都への滞在目的を教えて下さい」
「えっと、観光かな?」
「分かりました。仮の身分証明の発行に銀貨五枚必要が必要になります」

 懐から銀貨五枚を取り出して渡した。確かに何度も出入りするよりかはずっと安く済みそうだ。入場料は小銀貨五枚。十回の出入りで元が取れるぞ。次から新しい街にたどり着いたら、まずは仮の身分証明を発行してもらうようにしよう。

 そう考えると、どこでも使える正式な身分証明は便利だな。特に世界をあちこち旅する人には喉から手が出るほど欲しいものだろう。もしかすると、そのためだけに冒険者になる人もいるのかも知れない。

 仮の身分証明を受け取り役所をあとにする。思ったよりも簡単にもらえたので、ちょっと拍子抜けである。錬金術ギルドでは門前払いに限りなく近かったのに。

「これで私も人間社会の一員になれたな」
「おめでとうございます」
「小さな一歩かも知れないが、私にとっては大きな一歩だぞ」

 首からぶら下げた仮の身分証明を掲げて、意気揚々と門から外へと出た。
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