元魔王、救世主になる

えながゆうき

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領主代行の屋敷へ

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 カビルンバに導かれて裏通りを進んで行く。今度はソフィアが泣きじゃくっているわけではないので、良い感じに妹か娘に思われているようだ。小脇に抱えられたソフィアが嫌がっていないところもポイントが高いのかも知れない。

「ここですね」

 目の前には三階建ての建物が建っていた。一階部分は土壁のようで、二階からは木造だ。これは部屋で騒ぐと隣に声が筒抜けだな。いくつか窓が開いている部屋があるので、それなりに人が入っているようだ。

「宿屋ウキウキか。……深く考えるのはやめておこう。入るぞ。ほら、ソフィアも自分の足で歩け」
「レオニートはいけずじゃな」
「何でだよ」

 のれんをくぐると、ふくよかな女性が出迎えてくれた。どうやら宿屋ウキウキの女将のようである。しばらくお世話になるので、最初の印象は大事だな。

「いらっしゃい」
「一部屋を一週間ほど借りたい。こっちは妹だ」

 特に聞かれたわけではないのだが、邪推されないように先手を打っておく。ソフィアが余計なことを言う可能性があるからね。ほら見ろ。ちょっとムッとしている。子供扱いするなと言いたいのだろう。

 見た目は子供、頭脳も子供、年齢だけは大人、いや、おばあちゃんである。……これを言ったらかみつかれるな。よく考えると、ほぼ子供じゃん……。

「ええと、部屋は空いてるよ。食事はどうする?」
「朝食だけお願いしたい」
「ありがとうよ。これが部屋の鍵だよ」

 料金を支払い鍵を受け取る。部屋は三階だ。最上階だが周囲には同じくらいの高さの建物が乱立しているので、景色には期待できないだろう。
 部屋の中はこれまでの宿とほぼ同じような造りをしていた。どうやらこのスタイルが一般的なようである。

「いつも通りだな。ベッドは二つか。ちょうど良いな」
「くっつければ一つになるぞ?」
「しないでね」

 目を輝かせたソフィアに先手を打っておく。やつなら本当にやりかねない。馬鹿力だからね。このくらいのベッドなら小指でチョイだろう。
 テーブルにお茶の準備をしていると、ベッドでボヨンボヨンしていたソフィアがやって来た。どうやらベッドの感触を確かめる作業が終わったようである。やめさせた方が良いかな。

「これからどうするのじゃ?」
「領主代行の屋敷に行く。まだ日が高いからな。これがあれば、すぐに会うことができるだろう」

 そう言ってアレリード伯爵から渡されたシークレットカードを見せた。あ、この宿を借りるときにも使えば良かった。そしたら宿代が無料になったかも知れない。

「この宿を借りたことを、錬金術ギルドのギルド長であるニコラスさんに伝えておきましたよ。それから領主代行が住んでいる屋敷も調べておきました」
「ありがとう、カビルンバ。それじゃ、一息ついたら向かうとしよう」
「ふむ、領主代行の屋敷に泊まるという手もありましたな」

 空気が一瞬固まった。それもそうだな。そうすれば三食昼寝つきも夢じゃなかった。だが、カビルンバが探してくれた宿なのだ。文句は言えないな。

「あまり借りを作りたくない。領主代行からむちゃな注文をされたらどうする? 宿を借りていたら、簡単には断りにくくなるぞ」
「それもそうですな。主は人が良いですから、頼まれたら断れませぬものな」

 じいやが苦笑いしている。じいやとの付き合いはまだ浅いが、随分と私のことを理解してくれているようだ。

「レオニートは甘い。そなたに命令して来るようなやつらなど、蹴散らしてしまえば良いのだ。それだけのことをできる力は持っているであろう?」
「ソフィア、力だけが全てじゃないさ」
「何を言っておる。力だけが全てじゃ」

 ソフィアは完全に魔族寄りの考え方のようである。それもそうか。これまでソフィアはその力によって支配して来たのだ。それがひっくり返ることなど望んではいないだろう。
 だが、今は時代が変わってしまったのだ。人間との共存を考えるなら、その考えは捨てなければならないだろう。

「ソフィアにもそのうち分かるさ」

 ソフィアの頭をなでると、キッと眼力を強めてこちらをにらんできた。

「ぬう、わらわをバカにしておるのか?」

 あれ、もしかして怒らせちゃった? これはまずい。ここでソフィアに暴れられたらシャレにならんっしょ。

「違う違う! かわいいと思っただけだよ」
「か、かわいい……じゃと……?」

 顔を赤くしてモジモジし始めたが暴れられるよりかはヨシ。
 そのスキに宿屋の女将にちょっと出かけることを告げてから外へと飛び出した。向かう先はもちろん領主代行の屋敷である。

 カビルンバの先導に従って通りを進んで行く。商業都市ラザーニャの領主の屋敷は予想に反して郊外にあった。
 なるほど、だからモンスターに変異した人の家族を受け入れることができたのか。街の中心部だとそうはいかないだろう。

「さすがは領主の屋敷と言ったところか」
「そうですね。街の中心部ならばこれほど広い敷地を確保することはできなかったでしょうね」

 そこには灰色のレンガ造りの屋敷が建っていた。大きな庭がついており、そこかしこにトピアリーがある。領主代行の趣味なのかな? それとも家族の?
 そんな庭を横目に門の前までやって来た。

「何かご用でしょうか?」
「アレリード伯爵に頼まれてここへやって来た。領主代行と話がしたいのだが」

 そう言いながらさりげなくカードを見せる。反応が薄いところを見ると、このカードが何なのか知らないようだが、すぐに上の人に取り次いでくれた。
 待つことしばし。中年男性が少し急ぎ足でやって来た。

「領主代行に会いたいとのことでしたが……」
「そうだ」
「こ、これは! すぐにご案内します!」
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