元魔王、救世主になる

えながゆうき

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ただいま教育中

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 アレリード伯爵の顔が引きつっている。まさか自分の一言がこの部屋を絶対零度にまで下げることになるとは思っていなかったようである。私は分かっていたぞ。完全に凍りつく私たち。

「レオニート、もしやそなたエレナとか言う女に会いに行くつもりではあるまいな?」
「いや、えっと、ほら、そのエレナ嬢の父親から依頼を受けているんだよ。錬金術師として依頼を受けたからには、当然のことながらそれを終わらせないといけないからね。私の信用問題にかかわることになるし」

 チラチラとソフィアの表情を盗み見る。周囲の温度は相変わらずである。寒い。肩に乗っているカビルンバもじいやも震えているぞ。もっとも、寒さのせいだけではなさそうだけどな。

「そうか、そうか。仕事のためか。それならわらわも一緒に行っても構わぬよな?」
「え? まあ、それはそうかも知れないけど……」

 大丈夫かな? オババが何か言ってきそうな気がするけど、相手が古代竜だと分かればさすがに分が悪いと思うだろう。ソフィアと私は兄妹みたいなものだし、問題ないはず。それなら断る理由はないかな?

「分かった。ソフィアも一緒に行こう。それが終わったら四天王捜しだ」
「そうじゃな。わらわも四天王に聞きたいことがあるからな」

 ようやく冷気が収まってきた。だが今度は殺気が漂いつつある。どうやらソフィアは四天王が裏切ったと思っているようである。確かにその可能性は否定できないが、彼らにも彼らなりの何かの事情があったのだろう。

 こうして私も生きていることだし、今回のように平和を乱すようなことをもくろんでいなければ、特に何も言うつもりはない。
 ソフィアの怒りも和らいだころ、アレリード伯爵が再び今回の事件に対してのお礼を言ってきた。そしてたっぷりと報酬をもらった。
 これだけあれば、聖女のネックレスをそのままあげても良いな。



 翌日、宿屋の女将に別れを告げて、一路、バディア辺境伯領を目指した。商業都市ラザーニャでは聖女ソフィアのウワサが飛び交っていたが、街を出れば問題ないだろう。
 街道に出たところで、周りからの目隠しに使っていたマントを回収するとソフィアがまぶしそうに目を細めた。

「フッ、人気者も大変じゃな」
「そうだな」

 どうやらソフィアは完全に「聖女ソフィア」になりきっているようである。全ては聖女のネックレスのおかげなのだが、それは言わないでおいた。人間にあがめられることでソフィアが鎮まるのであれば、それに越したことはない。古代竜が人間の守護者になれば心強いことだろう。妙なことを考える人もいなくなるはずだ。

 行きは急ぎだったので空を飛んだが、帰りはそれほどではない。乗合馬車に乗って街道の途中にある町や村を経由しながら、それなりの進み具合で進んで行った。
 もちろんその間にソフィアにお金の使い方や、どのような対応をするべきかを教えていった。これで人間社会に混じってもソフィアがお尋ね者にならなくてすむだろう。

「お金とは便利なものじゃな。これさえあれば、何でも食べることができそうじゃ」
「それはその通りなのだが、お金がある限りだからな。だから人間社会ではお金を稼がなくてはいけないぞ」
「む、今持っているお金だけでは足らぬのか?」
「どうだろうな?」

 マジックバッグの中には大量の金貨が入っている。これだけあれば、当分の間は大丈夫だろう。だが、死ぬまでは難しいかも知れない。何せ、私たちは寿命が長いからね。自分の力でお金を稼ぐ力を身につけておいた方が良いだろう。

「お金を稼ぐ力か……レオニートは錬金術がある。わらわには何もない」
「そんな顔をするな。ソフィア一人分くらいなら私の稼ぎでも十分にまかなうことができる」
「それはつまり……!」
「つまりソフィアは私に養われると言うことだな。ペットみたいなものだ」
「ぬう!」

 すごく嫌そうな顔である。古代竜としてのプライドが許さないのだろう。だが事実である。ソフィアにできることは……冒険者になるという手があるか。そのことを話すとかなり乗り気になっていた。

「冒険者か。良いな。古代竜のわらわにピッタリじゃ」
「まあ、古代竜が出張るほどの依頼がそうそうあるとは思えないがな」

 ソフィアが冒険者ギルドに冒険者として登録すれば、間違いなくSランク冒険者として認定されるだろう。そしてSランク冒険者がするような仕事がたくさんあるとは思えない。
 その分、そんな依頼があったときはとんでもない依頼料になるんだろうけどな。

「お、見えて来たぞ」
「あれがバディア辺境伯領の領都か。なかなか立派な壁で囲まれておるのう」
「この辺りにはモンスターがいるからな。とは言っても、最近はモンスターの数も減っているみたいだけどな」
「良いことではないか」
「そうだと良いんだが……」

 領都に入ると、まっすぐにバディア辺境伯家へと向かった。街で宿屋を確保する必要はないだろう。たぶんバディア辺境伯が屋敷に泊めてくれるはず。
 屋敷に向かうと、以前に見かけた門番が立っていた。私の姿を見て大きく手を振っている。

「お帰りなさいませ、レオニート様!」
「ああ、ただいま」
「お帰り……?」

 ソフィアの声が冷たい。それを感じ取った門番の顔が青くなっている。俺、なんかやっちゃいましたかね? みたいな顔になっている。どうやら「お帰り」がまずかったようである。

「す、すぐにバディア辺境伯へレオニート様が戻ってきたことを知らせて来ます!」

 そう言うと、音でも鳴りそうな勢いで去って行った。大丈夫かな、あの門番。職務放棄になっていないよね? 一応、もう一人門番が残っているのだが、「逃げ遅れた」みたいな顔をしているぞ。

「さ、ささ、レオニート様、中へお入り下さい。あの、お連れの方もご一緒にどうぞ」
「うむ、すまぬな」

 ソフィアから触れてはならない何かを感じ取ったのだろう。顔を引きつらせて、何も聞かずにソフィアを中へ入れてくれた。この門番、確認もなく人を招き入れたとして後で怒られるんじゃないかな。
 あとでバディア辺境伯に良く言い聞かせておかないと。相手が古代竜なので仕方なかった。彼の行動には何の非もないということをね。
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