元魔王、救世主になる

えながゆうき

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依頼の品

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 屋敷の門に到着するころには周囲が騒がしくなっていた。どうやら先ほどの門番の連絡がこの騒動を引き起こしているようだった。

 しまったな。今日のところは領都の宿屋に泊まって、先触れを出しておくべきだった。訪問するのが突然だったな。バディア辺境伯家の受け入れ体制が十分に整っていないのは当然だろう。

「日を改めるのが良いかも知れないな」
「この騒ぎ、そうかも知れんのう。レオニートもまだまだじゃな」
「ぐぬぬ」

 まさかソフィアにそんなことを言われるなんて。短い間に成長したな、ソフィア。お父さん、うれしいよ。これでもう一人前だな。一人でもちゃんと生きていける。
 そんなことを思っていると玄関の扉がバタンと開いた。その音の大きさに思わず目を見張った。

「レオ様、お帰りなさいませ! ……って、え?」

 お嬢様らしからぬ速度で突っ込んで来たエレナ嬢がソフィアの姿を見てピタリとその動きを止めた。しばし見つめ合う二人。その間にバディア辺境伯夫妻がやって来た。

「エレナ、なんというはしたないことを。すまないな、レオニート殿……そのお嬢さんは?」
「えっと、妹のソフィアです」
「違うじゃろう、レオニート。わらわは、そう、妻じゃ。レオニートの妻じゃ!」
「何を言っているんだ。それこそ違うだろうが」

 ワーワーと言い合いをするが、ソフィアのその姿を見れば、妻などと言う言葉がウソであることくらいは分かるだろう。私の妹説の方がずっと信憑性がある。

「あの、カビルンバさん、どう言うことなのでしょうか?」
「辺境伯夫人、話せば長くなるのでひとまずは置いておいて、中に入りましょう」
「そ、そうですわね。じいやさんもお帰りなさいませ」
「う、うむ、こうしてみんな無事に戻って来ましたぞ。約束の品も主がすでに準備しております」
「お、おお! それはありがたい」

 バディア辺境伯がやや大げさに声をあげた。どうやらまずいことになっていることを察したようである。これはすぐにでもオババが招集されるかも知れない。このあとは修羅場にでもなるのかな? 聖女のネックレスだけそっと置いて、行方をくらませようかな……。

 そんなことを考えているうちにサロンと到着した。そこにはすでにお茶とお菓子の準備がしてあった。移動している間、ソフィアとエレナ嬢は私を挟んでにらみ合っていた。もちろん両方の腕をお互いが取り合っている。そして地味に痛い。指が食い込んでいるような気がする。私は無実だ。

 当然のことながら、二人は私を挟んで座った。これ以上時間をかけるのは良くないと思ったので、すぐに注文の品を差し出した。

「バディア辺境伯、頼まれていた聖女のネックレスです。お受け取り下さい」
「おお、これが聖女のネックレスか。これで我が一族は今後、呪いに悩まされることはないな」
「レオニートがコソコソと作っていたのはこれじゃったのか」
「コソコソとは失礼な。集中したかっただけだぞ」
「ほほう、まるでわらわがおると、邪魔のような言い方じゃのう?」

 実際その通りなんだけど、それをここで指摘するとまずいよね。今、ソフィアの逆鱗に触れるのはまずい。ここは黙っておこう。

「お二人は随分と仲が良さそうですわね」
「ソフィアとは幼なじみなんでな。それなりにお互いを知っているし、まあ、兄妹みたいなものだよ」
「あら、そうでしたのね」

 ニッコリと笑うエレナ嬢。怖い! 元魔王の私を恐怖させるとは。エレナ嬢、ただのお淑やかなお嬢様じゃないな。もしかして、人間の女性はみんなこうなのか? オババも本気を出せば怖そうだし。
 カチャカチャとカップを震わせながらお茶を飲む。たぶん高級なお茶なのだろうが、まったく味がしない。すまねぇ、バディア辺境伯。

「そうでした、アレリード伯爵から伝言を預かっているんでした。今回の騒動の件で深く感謝しているとのことです」
「おお、そのようなことを。手紙は受け取っております。随分と活躍したようですな。それにしても、恩人を伝言役として使うとは」
「気にしていませんよ。ここへ来るついででしたので」

 ハッハッハとお互いに笑う。ようやく空気が和んできたような気がする。このままうまい具合にうやむやにしたいところである。バディア辺境伯へ渡した聖女のネックレスをさっそく三人が身に付けていた。これで末代までこの一族が呪いで困ることはないだろう。

「聖女ソフィア様、先ほどは大変失礼いたしました。手紙には書いてあったのですが、まさかレオニート殿と聖女様が一緒にこちらへ来るとは思っておらず、驚きました」

 微妙な空気が漂った。えっと、この場合、どうすれば良いのかな? アレリード伯爵からの手紙にどの辺りまで書かれているのか分からないのが問題だな。ソフィアが古代竜であることは書かれているのかな? だが、書いてあっても、書かれてなくても、話しておいた方が良いだろう。

「えっと、ソフィアは古代竜なのですよ。タイラント山に古代竜がいると言う話を聞いたことがないですか?」
「そう言えば、タイラント山には巨大な竜が住んでいて、近づいてはならないと言うウワサがあったように記憶してます。もしやその伝説の竜がソフィア様なのですか?」
「実はそうなんですよ」

 軽く言ったつもりだったが、その場の空気は重くなった。ソフィアにいたっては、「なんでそのことを言うんじゃ」みたいな目でこちらをにらんでいる。もしかして、言ったらダメなやつだった?
 そんなに聖女ソフィアが気に入っていたのか。これは今後は気をつけた方が良いな。

「どうやら手紙にはそのことは書かれていなかったみたいですね」
「う、うむ。書かれていなかったな。アレリード伯爵はあえて伏せておいたのかも知れんな」
「なるほど」
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