99 / 104
穴
しおりを挟む
無言でお茶を飲んだ。カビが生えない場所には思い当たるところがある。そう。世界樹の中である。そこは世界樹に魔力を吸い取られ、極端に魔力量が減少している場所であった。
つまり、この先のカビが生えていない場所も同じように魔力量が少ない場所なのだろう。一体、そこには何があるんだ? 世界樹が生えている可能性はまずないだろう。そんなものがあれば、その貴重な素材を求めて人が集まるはずだ。
「ダーリン、あそこに行くッスか?」
「そうなるな。ここまで来たからには最後まで調査しなければならない」
「絶対ヤバイ場所ッスよ」
「分かっている。生き物やモンスターの気配はない。だからそっちの心配は不要だ」
ミューが私の腕を抱いてもたれかかってきた。その顔にはこれ以上、進みたくないとハッキリと書かれていた。だが、原因を調査するためにはミューの力が必要だ。ここは頭を下げてでもついて来てもらわなければならない。
「頼む、ミュー。もう少しだけ力を貸してくれ」
「ダーリン……分かったッス。力を貸してあげるッス。この貸しは高くつくッスよ?」
「ありがとう」
どうしよう。これは私も覚悟を決めるしかないのかも知れない。なんとか別のことにすり替える方法があれば良いんだけど。
一息つくと先を急いだ。先ほどの休憩の効果があったのか、ミューの精神状態が随分と安定している。高速飛行はできないが、空を飛んでの移動は可能だった。
ミューの状態を慎重に見極めながら進むと、それはそこにあった。
「何だあれは……」
「どうしたッスか? 何か見えるんスか? ちょっと!」
ミューを無理やり捕まえて地上へと引き下ろした。何かを察したミューとカビルンバが眼鏡をかける。そしてそれを見て震えた。
「何あれ……」
「あれは……穴でしょうか?」
ミューから素の声が漏れた。あのスッススッス言っていたのは、どうやらわざとだったようである。一体、何の意味が……。
ジリジリとその穴の方へと近づいて行く。それはがれきの山と化した、元は王城であったであろう跡地の上にあった。
魔力の流れを見ないようにすると、そこには何もない空間が広がっているだけである。だが、魔力の流れを見ると、明らかにその穴に向かって魔力が流れ込んでいた。それも、かなりの勢いである。
その空間に向かって石を投げてみたが、そこには何もないかのように、石は素通りした。それでは魔法はどうかと思って試してみると、魔法も素通りした。ミューも色々と魔法を試しているが、結果は同じだった。
「発動した魔法には何の影響もないみたいッスね。でも、魔力を放出すると、すごい勢いで吸い取られるッス」
「そうなのか?」
試しに魔力を放出させると、ミューが言った通りにものすごい勢いで穴の中へと吸い込まれていった。
間違いない。この穴は魔力だけを吸い込む穴なのだ。だが吸い込まれた魔力はどこに行くのだろうか。
「調べるまでもないッスが、やっぱりこの辺りの魔力量はまったくないッスね」
「世界から魔力が消えているのはこの穴が原因か。そうなると、この穴さえ塞いでしまえばひとまずは大丈夫ということだな」
「そうなるッスね」
この穴、塞げるのかな? 物理的には一切触れることができなさそうなんだけど。干渉できるのは魔力のみ。だがその魔力もすぐに吸い込まれてしまう。そもそもこの穴はどうしてできたんだ?
「ミュー、この穴はなぜできたと思う?」
「推測することしかできないッスけど、たぶん、勇者召喚を行ったときにあいた穴だと思うッス」
「そう言えば、あいつら別世界から来たって言ってたもんな。それじゃ、この穴は別世界と通じているかも知れないというわけか」
「そうかも知れませんね。ですが、今は一方通行みたいですよ」
今はそこから一方的に大量の魔力が吸い込まれているようだ。時間が経てばそのうち止まるのか、それとも向こう側から何か別の得体の知れないものが流れ込んでくるのか。いずれにせよ、この穴は早急に塞がなければならないな。
「さて、どうやって塞ぐかだな。さすがにすぐには思いつかない。ミューはどうだ?」
「魔力を使った何かが必要だと思うッスが……魔力の性質を変化させることができれば、粘土みたいに穴を塞ぐことができるかも知れないッス」
なるほど、魔力の性質変化か。それならいけるかも知れないな。街に戻ったらさっそくその線で調べることにしよう。だがその前に。
「ミュー、このまま海に沈んだ霊峰に向かおうと思う」
「分かったッス。向こうも同じ状況になってるかも知れないッスからね。気が気でないッス」
ミューの顔色が良くない。平静を装っているが、かなり精神的に厳しくなっているはずだ。粗方の調査が終わったところで急いで戻った。緑があふれる森までたどり着くと、張っていた緊張がほどけたのか、ミューの姿勢が崩れた。慌てて体を支えた。
「ミュー、良く頑張ったぞ。今日はここで休もう。ここなら大丈夫だろう?」
「大丈夫ッス」
折りたたみコテージを取り出し、ベッドにミューを寝かせる。熱も出て来たようなので、冷たいタオルで冷やしてあげる。ミューが気持ちよさそうにしていた。
「すまない、ミュー。無理をさせてしまった」
「気にしてないッス。自分もこの目で現状を見てみたいと思ってたッス」
ミューのおかげで原因が特定できたと言える。間違いなくあの周辺には魔力がなかった。国が滅びたのはあの穴が原因だろう。勇者召喚という謎の儀式を行ったせいで、国が滅んだと言うわけだ。そうなると、あの聖剣も怪しいな。もしかすると、聖剣を元の場所に戻したことで帳消しになったのかも知れないが。
もしそうならば、ちょっとした朗報でもある。あの穴を消すことができる可能性があるからだ。聖剣と同じ原理の物を作れば良いのだ。私はあの聖剣と対峙した。そのため、あの聖剣の性質を良く知っている。あとはそれをまねした物を作れば良いだけだ。
可能性はゼロではない。
「どうしたッスか? 何かうれしそうッスよ」
「ああ、海に沈んだ霊峰に行けば、あの穴を塞ぐヒントが得られるかも知れないと思ってな」
「それはとんだ朗報ッス」
ミューが弱々しい笑顔を向けた。
霊峰へ向かう前に、まずはミューの療養が先決だな。ミューが元気にならなければ先へは進めない。置いて行くわけにはいかないのだ。
つまり、この先のカビが生えていない場所も同じように魔力量が少ない場所なのだろう。一体、そこには何があるんだ? 世界樹が生えている可能性はまずないだろう。そんなものがあれば、その貴重な素材を求めて人が集まるはずだ。
「ダーリン、あそこに行くッスか?」
「そうなるな。ここまで来たからには最後まで調査しなければならない」
「絶対ヤバイ場所ッスよ」
「分かっている。生き物やモンスターの気配はない。だからそっちの心配は不要だ」
ミューが私の腕を抱いてもたれかかってきた。その顔にはこれ以上、進みたくないとハッキリと書かれていた。だが、原因を調査するためにはミューの力が必要だ。ここは頭を下げてでもついて来てもらわなければならない。
「頼む、ミュー。もう少しだけ力を貸してくれ」
「ダーリン……分かったッス。力を貸してあげるッス。この貸しは高くつくッスよ?」
「ありがとう」
どうしよう。これは私も覚悟を決めるしかないのかも知れない。なんとか別のことにすり替える方法があれば良いんだけど。
一息つくと先を急いだ。先ほどの休憩の効果があったのか、ミューの精神状態が随分と安定している。高速飛行はできないが、空を飛んでの移動は可能だった。
ミューの状態を慎重に見極めながら進むと、それはそこにあった。
「何だあれは……」
「どうしたッスか? 何か見えるんスか? ちょっと!」
ミューを無理やり捕まえて地上へと引き下ろした。何かを察したミューとカビルンバが眼鏡をかける。そしてそれを見て震えた。
「何あれ……」
「あれは……穴でしょうか?」
ミューから素の声が漏れた。あのスッススッス言っていたのは、どうやらわざとだったようである。一体、何の意味が……。
ジリジリとその穴の方へと近づいて行く。それはがれきの山と化した、元は王城であったであろう跡地の上にあった。
魔力の流れを見ないようにすると、そこには何もない空間が広がっているだけである。だが、魔力の流れを見ると、明らかにその穴に向かって魔力が流れ込んでいた。それも、かなりの勢いである。
その空間に向かって石を投げてみたが、そこには何もないかのように、石は素通りした。それでは魔法はどうかと思って試してみると、魔法も素通りした。ミューも色々と魔法を試しているが、結果は同じだった。
「発動した魔法には何の影響もないみたいッスね。でも、魔力を放出すると、すごい勢いで吸い取られるッス」
「そうなのか?」
試しに魔力を放出させると、ミューが言った通りにものすごい勢いで穴の中へと吸い込まれていった。
間違いない。この穴は魔力だけを吸い込む穴なのだ。だが吸い込まれた魔力はどこに行くのだろうか。
「調べるまでもないッスが、やっぱりこの辺りの魔力量はまったくないッスね」
「世界から魔力が消えているのはこの穴が原因か。そうなると、この穴さえ塞いでしまえばひとまずは大丈夫ということだな」
「そうなるッスね」
この穴、塞げるのかな? 物理的には一切触れることができなさそうなんだけど。干渉できるのは魔力のみ。だがその魔力もすぐに吸い込まれてしまう。そもそもこの穴はどうしてできたんだ?
「ミュー、この穴はなぜできたと思う?」
「推測することしかできないッスけど、たぶん、勇者召喚を行ったときにあいた穴だと思うッス」
「そう言えば、あいつら別世界から来たって言ってたもんな。それじゃ、この穴は別世界と通じているかも知れないというわけか」
「そうかも知れませんね。ですが、今は一方通行みたいですよ」
今はそこから一方的に大量の魔力が吸い込まれているようだ。時間が経てばそのうち止まるのか、それとも向こう側から何か別の得体の知れないものが流れ込んでくるのか。いずれにせよ、この穴は早急に塞がなければならないな。
「さて、どうやって塞ぐかだな。さすがにすぐには思いつかない。ミューはどうだ?」
「魔力を使った何かが必要だと思うッスが……魔力の性質を変化させることができれば、粘土みたいに穴を塞ぐことができるかも知れないッス」
なるほど、魔力の性質変化か。それならいけるかも知れないな。街に戻ったらさっそくその線で調べることにしよう。だがその前に。
「ミュー、このまま海に沈んだ霊峰に向かおうと思う」
「分かったッス。向こうも同じ状況になってるかも知れないッスからね。気が気でないッス」
ミューの顔色が良くない。平静を装っているが、かなり精神的に厳しくなっているはずだ。粗方の調査が終わったところで急いで戻った。緑があふれる森までたどり着くと、張っていた緊張がほどけたのか、ミューの姿勢が崩れた。慌てて体を支えた。
「ミュー、良く頑張ったぞ。今日はここで休もう。ここなら大丈夫だろう?」
「大丈夫ッス」
折りたたみコテージを取り出し、ベッドにミューを寝かせる。熱も出て来たようなので、冷たいタオルで冷やしてあげる。ミューが気持ちよさそうにしていた。
「すまない、ミュー。無理をさせてしまった」
「気にしてないッス。自分もこの目で現状を見てみたいと思ってたッス」
ミューのおかげで原因が特定できたと言える。間違いなくあの周辺には魔力がなかった。国が滅びたのはあの穴が原因だろう。勇者召喚という謎の儀式を行ったせいで、国が滅んだと言うわけだ。そうなると、あの聖剣も怪しいな。もしかすると、聖剣を元の場所に戻したことで帳消しになったのかも知れないが。
もしそうならば、ちょっとした朗報でもある。あの穴を消すことができる可能性があるからだ。聖剣と同じ原理の物を作れば良いのだ。私はあの聖剣と対峙した。そのため、あの聖剣の性質を良く知っている。あとはそれをまねした物を作れば良いだけだ。
可能性はゼロではない。
「どうしたッスか? 何かうれしそうッスよ」
「ああ、海に沈んだ霊峰に行けば、あの穴を塞ぐヒントが得られるかも知れないと思ってな」
「それはとんだ朗報ッス」
ミューが弱々しい笑顔を向けた。
霊峰へ向かう前に、まずはミューの療養が先決だな。ミューが元気にならなければ先へは進めない。置いて行くわけにはいかないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく
竹桜
ファンタジー
神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。
巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。
千年間も。
それなのに主人公は鍛錬をする。
1つのことだけを。
やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。
これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。
そして、主人公は至った力を存分に振るう。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
キモおじさんの正体は…
クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。
彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。
その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。
だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる