元魔王、救世主になる

えながゆうき

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 無言でお茶を飲んだ。カビが生えない場所には思い当たるところがある。そう。世界樹の中である。そこは世界樹に魔力を吸い取られ、極端に魔力量が減少している場所であった。

 つまり、この先のカビが生えていない場所も同じように魔力量が少ない場所なのだろう。一体、そこには何があるんだ? 世界樹が生えている可能性はまずないだろう。そんなものがあれば、その貴重な素材を求めて人が集まるはずだ。

「ダーリン、あそこに行くッスか?」
「そうなるな。ここまで来たからには最後まで調査しなければならない」
「絶対ヤバイ場所ッスよ」
「分かっている。生き物やモンスターの気配はない。だからそっちの心配は不要だ」

 ミューが私の腕を抱いてもたれかかってきた。その顔にはこれ以上、進みたくないとハッキリと書かれていた。だが、原因を調査するためにはミューの力が必要だ。ここは頭を下げてでもついて来てもらわなければならない。

「頼む、ミュー。もう少しだけ力を貸してくれ」
「ダーリン……分かったッス。力を貸してあげるッス。この貸しは高くつくッスよ?」
「ありがとう」

 どうしよう。これは私も覚悟を決めるしかないのかも知れない。なんとか別のことにすり替える方法があれば良いんだけど。
 一息つくと先を急いだ。先ほどの休憩の効果があったのか、ミューの精神状態が随分と安定している。高速飛行はできないが、空を飛んでの移動は可能だった。
 ミューの状態を慎重に見極めながら進むと、それはそこにあった。

「何だあれは……」
「どうしたッスか? 何か見えるんスか? ちょっと!」

 ミューを無理やり捕まえて地上へと引き下ろした。何かを察したミューとカビルンバが眼鏡をかける。そしてそれを見て震えた。

「何あれ……」
「あれは……穴でしょうか?」

 ミューから素の声が漏れた。あのスッススッス言っていたのは、どうやらわざとだったようである。一体、何の意味が……。
 ジリジリとその穴の方へと近づいて行く。それはがれきの山と化した、元は王城であったであろう跡地の上にあった。

 魔力の流れを見ないようにすると、そこには何もない空間が広がっているだけである。だが、魔力の流れを見ると、明らかにその穴に向かって魔力が流れ込んでいた。それも、かなりの勢いである。

 その空間に向かって石を投げてみたが、そこには何もないかのように、石は素通りした。それでは魔法はどうかと思って試してみると、魔法も素通りした。ミューも色々と魔法を試しているが、結果は同じだった。

「発動した魔法には何の影響もないみたいッスね。でも、魔力を放出すると、すごい勢いで吸い取られるッス」
「そうなのか?」

 試しに魔力を放出させると、ミューが言った通りにものすごい勢いで穴の中へと吸い込まれていった。
 間違いない。この穴は魔力だけを吸い込む穴なのだ。だが吸い込まれた魔力はどこに行くのだろうか。

「調べるまでもないッスが、やっぱりこの辺りの魔力量はまったくないッスね」
「世界から魔力が消えているのはこの穴が原因か。そうなると、この穴さえ塞いでしまえばひとまずは大丈夫ということだな」
「そうなるッスね」

 この穴、塞げるのかな? 物理的には一切触れることができなさそうなんだけど。干渉できるのは魔力のみ。だがその魔力もすぐに吸い込まれてしまう。そもそもこの穴はどうしてできたんだ?

「ミュー、この穴はなぜできたと思う?」
「推測することしかできないッスけど、たぶん、勇者召喚を行ったときにあいた穴だと思うッス」
「そう言えば、あいつら別世界から来たって言ってたもんな。それじゃ、この穴は別世界と通じているかも知れないというわけか」
「そうかも知れませんね。ですが、今は一方通行みたいですよ」

 今はそこから一方的に大量の魔力が吸い込まれているようだ。時間が経てばそのうち止まるのか、それとも向こう側から何か別の得体の知れないものが流れ込んでくるのか。いずれにせよ、この穴は早急に塞がなければならないな。

「さて、どうやって塞ぐかだな。さすがにすぐには思いつかない。ミューはどうだ?」
「魔力を使った何かが必要だと思うッスが……魔力の性質を変化させることができれば、粘土みたいに穴を塞ぐことができるかも知れないッス」

 なるほど、魔力の性質変化か。それならいけるかも知れないな。街に戻ったらさっそくその線で調べることにしよう。だがその前に。

「ミュー、このまま海に沈んだ霊峰に向かおうと思う」
「分かったッス。向こうも同じ状況になってるかも知れないッスからね。気が気でないッス」

 ミューの顔色が良くない。平静を装っているが、かなり精神的に厳しくなっているはずだ。粗方の調査が終わったところで急いで戻った。緑があふれる森までたどり着くと、張っていた緊張がほどけたのか、ミューの姿勢が崩れた。慌てて体を支えた。

「ミュー、良く頑張ったぞ。今日はここで休もう。ここなら大丈夫だろう?」
「大丈夫ッス」

 折りたたみコテージを取り出し、ベッドにミューを寝かせる。熱も出て来たようなので、冷たいタオルで冷やしてあげる。ミューが気持ちよさそうにしていた。

「すまない、ミュー。無理をさせてしまった」
「気にしてないッス。自分もこの目で現状を見てみたいと思ってたッス」

 ミューのおかげで原因が特定できたと言える。間違いなくあの周辺には魔力がなかった。国が滅びたのはあの穴が原因だろう。勇者召喚という謎の儀式を行ったせいで、国が滅んだと言うわけだ。そうなると、あの聖剣も怪しいな。もしかすると、聖剣を元の場所に戻したことで帳消しになったのかも知れないが。

 もしそうならば、ちょっとした朗報でもある。あの穴を消すことができる可能性があるからだ。聖剣と同じ原理の物を作れば良いのだ。私はあの聖剣と対峙した。そのため、あの聖剣の性質を良く知っている。あとはそれをまねした物を作れば良いだけだ。
 可能性はゼロではない。

「どうしたッスか? 何かうれしそうッスよ」
「ああ、海に沈んだ霊峰に行けば、あの穴を塞ぐヒントが得られるかも知れないと思ってな」
「それはとんだ朗報ッス」

 ミューが弱々しい笑顔を向けた。
 霊峰へ向かう前に、まずはミューの療養が先決だな。ミューが元気にならなければ先へは進めない。置いて行くわけにはいかないのだ。
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