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第一章
聖剣伝説
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ここは、どこだ?
声にならない声が、管孝作の頭の中に響いた。
新型のウイルスの影響によって、高校生の頃から働いていた町工場は倒産した。四十年近く職人一筋で働いてきた彼は、心の支えを一夜にして失った。
彼は行きつけのコンビニでお酒をしこたま買い込むと、一人寂しく家で浴びるように自棄酒を飲んだ。
彼の死因は急性アルコール中毒であった。死亡が確認されたのは死後三日経ってからのことだった。
「どうなっている? 俺は部屋で酒を飲んでいたはずだが……この真っ白い何もない空間はどこなんだ?」
右を見ても左を見ても、どこを見ても真っ白だった。そしてそのうちに、自分が本当に目を開けているのかどうかさえも分からなくなった。と、そのとき。彼の目の前に白い服を身にまとい、背中に羽を生やした人間がやってきた。管孝作はすぐにそれが神様か天使であることと、自分が死んだことを理解した。
「さまよえる魂よ、あなたにお願いがあってきました」
「お願い? 一体なんでしょうか?」
普段は敬語など使ったことがない彼だったが、さすがにこの場ではまずいと思い、すっぽりと借りてきた猫を被った。
「あなたに聖剣を作っていただきたいのです」
「聖剣?」
「そうです。来るべき戦いに備えて、どうしても必要な物なのです」
聖剣が何たるかを知らないことはなかったが、同じ武器で言うのならば刀の方が興味があった。
「どうして私にそれを頼むのですか?」
「これからあなたが行くことになる世界には、誰も聖剣の作り方を知らないのです。そのため、その作り方を教えることができるのは、これからその世界に転生することになるあなただけなのです」
どうやら転生するのは決定事項のようだ、と確信した管孝作はしばし考え込んだ。
来るべき戦いに備えると言うことは、今はまだ切羽詰まった段階ではないのだろう。それならば制作期間にはまだ猶予があるはずだ。それに、これまでの人生で鍛冶屋まがいのことを経験したことはなかった。これはこれで新しい物作りを楽しめるのかも知れない。
管孝作はその依頼を引き受けることに決めた。
「分かりました。私で良ければお引き受けいたしましょう」
「そう言っていただけると信じておりましたわ! それではこれをどうぞ」
嬉しそうに女神様がそう言うと、何やら光の玉のような物が飛んできて、自分と同化するような感触を得た。
「今のは?」
「聖剣の作り方が書いてあるマニュアルですわ。あなたと同化させたので、あなたしか見ることができません。頭で思い浮かべると、その作り方が思い浮かぶはずです」
なるほど、では早速試してみようかとしたところで、白一色の世界に黒が混じり始めていることに気がついた。
「もう間もなくあなたが目覚めます。どうか、よろしくお願いします」
そう言うと、ペコリと頭を下げた。いやいや、私に頭を下げるだなんて、頭を上げて下さいと言おうとしたところで、白と黒が入り交じった世界がグニャリと飴細工のように歪んだ。
「ここは……? 今のは夢……じゃあないようだな。少なくともこんな場所が近所にあった覚えはないからな」
辺りを見渡すと、ただただ何もないゴツゴツとした岩山が続いていた。どうやら太陽はこれから昇るようであり、岩山の陰から小さな日の光が見えた。
まあ、死んでしまったものは仕方がない。新しい人生を謳歌するか、と自分の体を確認した。
丸太のように太い手足にビア樽体型。服は着ているものの、服の隙間からは濃い体毛がモッサリとコンニチハしていた。顎に手を当ててみると、どうやら立派な髭がついているようである。そしてどことなく視線も低くい。
「何じゃこりゃあ!」
一度は言ってみたかったセリフを心ゆくまで叫んでみると、百年の恋が冷めるかのように頭がすっかりと冷えてきた。
こりゃあ一体どうなっているんだ。見慣れぬ自分の姿に困惑を隠せなかったが、そう言えばここが自分の知っている世界とは別の世界であることを思い出した。
「そうだ! そう言えばマニュアルをもらったんだった。確か頭に思い浮かべると良かったはずだ」
言われた通りに思い浮かべると、頭の中に『ワールドマニュアル(門外不出)』が思い浮かんだ。
門外不出のマニュアルを俺が持ってて良いのか、と疑問に思いながらもそのページをめくろうとしたが、すぐにやめた。
ページ数がやたらと多いことに気がついたからだ。
このまま一から探していたら、欲しい情報にたどり着くまでにどれだけ時間がかかるか分からない。そこで欲しい情報だけ得られるように、検索するイメージを思い浮かべた。
この作戦は上手く行ったようであり、すぐに欲しい情報が得られた。
「えっと、今の俺に合う種族は、っと……何々、ドワーフ!? た、確かに写真が今の俺の体型にそっくりだ!」
愕然としたものの、今更どうしようもなかった。四つん這いの状態でトホホと嘆いてみたが、姿が変わることはなかった。
「まあ仕方がないか。それよりも名前を何とかしないといけないな。この世界のドワーフとやらの名前はどんな感じなのかな? フムフム、なるほどね。さてどうするか。名前がないままだと困るからな。名前がない、名前がない……名前はまだない、そうだ、マ・ダナイにしよう」
どこか壺好きな一族のように思われるかも知れないが、これ以上の名前は浮かばなかった。こうしてここに「伝説の鍛冶屋ダナイ」が誕生したのであった。
声にならない声が、管孝作の頭の中に響いた。
新型のウイルスの影響によって、高校生の頃から働いていた町工場は倒産した。四十年近く職人一筋で働いてきた彼は、心の支えを一夜にして失った。
彼は行きつけのコンビニでお酒をしこたま買い込むと、一人寂しく家で浴びるように自棄酒を飲んだ。
彼の死因は急性アルコール中毒であった。死亡が確認されたのは死後三日経ってからのことだった。
「どうなっている? 俺は部屋で酒を飲んでいたはずだが……この真っ白い何もない空間はどこなんだ?」
右を見ても左を見ても、どこを見ても真っ白だった。そしてそのうちに、自分が本当に目を開けているのかどうかさえも分からなくなった。と、そのとき。彼の目の前に白い服を身にまとい、背中に羽を生やした人間がやってきた。管孝作はすぐにそれが神様か天使であることと、自分が死んだことを理解した。
「さまよえる魂よ、あなたにお願いがあってきました」
「お願い? 一体なんでしょうか?」
普段は敬語など使ったことがない彼だったが、さすがにこの場ではまずいと思い、すっぽりと借りてきた猫を被った。
「あなたに聖剣を作っていただきたいのです」
「聖剣?」
「そうです。来るべき戦いに備えて、どうしても必要な物なのです」
聖剣が何たるかを知らないことはなかったが、同じ武器で言うのならば刀の方が興味があった。
「どうして私にそれを頼むのですか?」
「これからあなたが行くことになる世界には、誰も聖剣の作り方を知らないのです。そのため、その作り方を教えることができるのは、これからその世界に転生することになるあなただけなのです」
どうやら転生するのは決定事項のようだ、と確信した管孝作はしばし考え込んだ。
来るべき戦いに備えると言うことは、今はまだ切羽詰まった段階ではないのだろう。それならば制作期間にはまだ猶予があるはずだ。それに、これまでの人生で鍛冶屋まがいのことを経験したことはなかった。これはこれで新しい物作りを楽しめるのかも知れない。
管孝作はその依頼を引き受けることに決めた。
「分かりました。私で良ければお引き受けいたしましょう」
「そう言っていただけると信じておりましたわ! それではこれをどうぞ」
嬉しそうに女神様がそう言うと、何やら光の玉のような物が飛んできて、自分と同化するような感触を得た。
「今のは?」
「聖剣の作り方が書いてあるマニュアルですわ。あなたと同化させたので、あなたしか見ることができません。頭で思い浮かべると、その作り方が思い浮かぶはずです」
なるほど、では早速試してみようかとしたところで、白一色の世界に黒が混じり始めていることに気がついた。
「もう間もなくあなたが目覚めます。どうか、よろしくお願いします」
そう言うと、ペコリと頭を下げた。いやいや、私に頭を下げるだなんて、頭を上げて下さいと言おうとしたところで、白と黒が入り交じった世界がグニャリと飴細工のように歪んだ。
「ここは……? 今のは夢……じゃあないようだな。少なくともこんな場所が近所にあった覚えはないからな」
辺りを見渡すと、ただただ何もないゴツゴツとした岩山が続いていた。どうやら太陽はこれから昇るようであり、岩山の陰から小さな日の光が見えた。
まあ、死んでしまったものは仕方がない。新しい人生を謳歌するか、と自分の体を確認した。
丸太のように太い手足にビア樽体型。服は着ているものの、服の隙間からは濃い体毛がモッサリとコンニチハしていた。顎に手を当ててみると、どうやら立派な髭がついているようである。そしてどことなく視線も低くい。
「何じゃこりゃあ!」
一度は言ってみたかったセリフを心ゆくまで叫んでみると、百年の恋が冷めるかのように頭がすっかりと冷えてきた。
こりゃあ一体どうなっているんだ。見慣れぬ自分の姿に困惑を隠せなかったが、そう言えばここが自分の知っている世界とは別の世界であることを思い出した。
「そうだ! そう言えばマニュアルをもらったんだった。確か頭に思い浮かべると良かったはずだ」
言われた通りに思い浮かべると、頭の中に『ワールドマニュアル(門外不出)』が思い浮かんだ。
門外不出のマニュアルを俺が持ってて良いのか、と疑問に思いながらもそのページをめくろうとしたが、すぐにやめた。
ページ数がやたらと多いことに気がついたからだ。
このまま一から探していたら、欲しい情報にたどり着くまでにどれだけ時間がかかるか分からない。そこで欲しい情報だけ得られるように、検索するイメージを思い浮かべた。
この作戦は上手く行ったようであり、すぐに欲しい情報が得られた。
「えっと、今の俺に合う種族は、っと……何々、ドワーフ!? た、確かに写真が今の俺の体型にそっくりだ!」
愕然としたものの、今更どうしようもなかった。四つん這いの状態でトホホと嘆いてみたが、姿が変わることはなかった。
「まあ仕方がないか。それよりも名前を何とかしないといけないな。この世界のドワーフとやらの名前はどんな感じなのかな? フムフム、なるほどね。さてどうするか。名前がないままだと困るからな。名前がない、名前がない……名前はまだない、そうだ、マ・ダナイにしよう」
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