伝説の鍛冶屋ダナイ~聖剣を作るように頼まれて転生したらガチムチドワーフでした~

えながゆうき

文字の大きさ
84 / 137
第四章

ミスリルゲットだぜ!

しおりを挟む
 どっぷりと日が暮れてしまった。それでも何とか、俺たちは族長であるベンジャミンの家に帰り着くことができた。
 その日の内に帰ってきた俺たちを見たベンジャミンはとても驚いていた。暖かく迎えてくれたものの、どこか戸惑いを隠せない様子だった。

「どうしたんだい? 何か忘れ物かい?」
「違うわよ。ミスリルゴーレムを退治したから戻って来たのよ。もうヘトヘト。ご飯とお風呂に入りたいわ」
「えええ!?」

 はたしてベンジャミンの驚きは、ミスリルゴーレムを倒したことなのか、それとも、リリアが食事と風呂を所望したからか。こんな時間に食事も風呂も用意されているわけないだろうに……。

 しかしそこはさすがのベンジャミン。すぐに手配してくれた。沸かしてくれた風呂に入って汗を流すと、食事が用意されていた。

「まさかその日の内に帰って来るとは思ってもみなかったから、十分なもてなしを準備できなかったよ。すまないね。それよりも……リリアとダナイは一緒にお風呂に入るんだね」

 準備されている食事は、急いで用意されたとは思えないほどの量があった。これで準備不足って言うんだから、大したものだ。
 そしてまさか、リリアと一緒に風呂に入ったことを追求されるとは思わなかった。アベルとマリアも一緒に風呂に入っていたと思うんだけど。

「当たり前じゃない。私たちは夫婦なんだから」

 さも当然だ、とリリアが言った。ベンジャミンの顔が引きつっているところを見ると、ひょっとしてエルフ族は、夫婦でも一緒にお風呂に入るようなことをしないのではないだろうか。俺としては、リリアが良いならそれで構わないのだがね。こちらは大歓迎だし。

 リリアの言葉にベンジャミンが微妙な顔をしたものの、俺たちはありがたく食事を食べながら今回の経緯を話した。ベンジャミンはこちらの味方になってもらわなければならないし、今後もミスリル関連でお世話になるだろう。
 下手な隠し事はしないことにみんなで決めていた。

「なるほどね。大体分かったよ。でもまさか、姿を消す魔法があるだなんてね。見せてもらってもいいかな?」
「それはちょっと遠慮してもいいですかね? さっきそれをやってひどい目に遭いましたんで……」

 俺のお茶を濁した物言いに、ベンジャミンはおおよそのことを察してくれたようである。さすがは族長。空気を読む力は半端ないな。

「そうか。それは残念だね。だが、そんな魔法があるのなら、隠しておくことに超したことはないね。私も君たちの意見に賛成だよ。それに、色々と用途がある。これから力を貸してもらうことになるかも知れない」

 含みのあるベンジャミンの言葉に思わず息を飲んだ。何かが起こり始めている。ベンジャミンはそう思っているのかも知れない。

「分かりました。これからも協力関係であるということでよろしいですかね?」
「ハッハッハ、もちろんだよ。君たちはこの里の救世主だ。未来永劫、君たちの活躍を語り継ぐことにするよ」
「いや、それはちょっと……」

 ベンジャミンは「いまさら何を。すでに協力関係だろ?」といった雰囲気で笑ってくれた。きっとリリアが俺たちをここに連れてきた時点で、信頼の置ける人物だと判断していたのだろう。そう考えると、リリアの影響力は底知れないものがあるな。

「ベンジャミン、あの大量のミスリルはどうするの?」
「おお、そうだった。明日にでもすぐに確認に行かせるよ。報酬はその後になるが、構わないかね?」
「ええ、もちろんよ」

 リリアはベンジャミンの言質が取れたので満足そうである。アベルは報酬の言葉に目を輝かせた。そして俺の目も輝いていることだろう。もしかしたら、ミスリルを手に入れることができるかも知れないのだ。これは期待が高まる。

「あの、ベンジャミンさん。報酬は一体何をいただけるんですか?」

 アベルの問いに、マリアも目を輝かせてベンジャミンを見た。そう言えばリリアが、エルフ族は自然鉱物を利用した装飾品を作るのが得意だと言っていたな。しかも希少価値も高く、高価な値段になるらしい。きっとそれを期待しているのだろう。

「そうだな、何か希望はあるかね?」
「ミスリルを少し分けていただけるとありがたいのですが」

 間髪を入れずに言った俺を、マリアがにらんだ。そりゃそうか。マリアにはまったくうれしくない報酬だもんな。あんな金属に一体何の価値があるのか。あんな物をもらうくらいなら、お金の方がマシだと思うのが普通の冒険者だろう。

「ミスリルか。いいだろう。報酬の一部にミスリルを含めておくよ」
「一部ってことは、それなら他にも何かもらえるの!?」
「ちょっとマリア、落ち着きなさい」

 他にももらえることが分かったマリアは、テンションが上がった。それをリリアがなだめた。本当に手のかかる幼い妹である。見ろ。リリアのあきれ顔を。
 
 ミスリル以外の報酬は後日あらためて話し合うことになった。それもそうだ。もう夜もふけているのだから。
 こうして俺は念願のミスリルをゲットすることができたのだった。


 翌日、朝食の席でこれからのことを話すことにした。朝食はパンとハムエッグ。それにコーヒーもついていた。
 コーヒーを見たのは初めてだ。ハーブティーしかないものだと思っていたのだが、どうやらエルフの国では普通に飲まれているようである。

「こちらの問題は解決したから、あとは君たちの方面の問題だけだね」
「ええ。せめて何か情報を得ることができなければ、依頼達成にはならないでしょうね」

 ベンジャミンの言葉にそう答えた。今のところ分かっているのは、ベンジャミンの部族が黒幕ではないということだけだ。ここにはあんな細菌兵器を作る技術はない。
 しかしその昔、エルフ族の中のエンシェント・エルフはそれを作る技術を持っていたようである。これではエルフの国がますます疑われるだけである。俺としてはリリアの故郷が元凶だと思われたくはない。

「その点については、これからすぐに調べてくるよ。近くの部族なら数日で調べることができる。報酬が決まるまでにはまだ少しかかるので、ここでのんびりと待っていてもらいたい」

 ベンジャミンはそう言った。俺たちは連日仕事をしてばかり、というわけではなかったが、ありがたく休養を取らせてもらうことにした。久々にエルフの国に帰ってきたリリアも少しはゆっくりとしたいことだろう。

「分かりました。そうさせていただきます」

 俺のしばらく休養宣言にマリアが食いついた。口の中に入っている物を急いで飲み込むと、リリアの方を向いた。

「ねえねえ、この辺りに観光スポットとかあるの?」
「観光スポットねえ……青の森か鉱山くらいしかないと思うんだけど」
「えー、つまんない!」

 マリアはそう言うが、俺にとっては宝の山なんだけどな。設備を借りることができれば、新しい魔法薬を作ることができるかも知れない。鉱山にもミスリル以外にも何か希少な鉱石が採れるかも知れないのだ。

「ふふっ、マリアらしいね。それじゃ、俺と一緒に松風に乗って青の森の探索にでも出かけようか。松風なら二人乗っても大丈夫そうだしね」
「賛成ー! アベル大好き!」

 こいつら朝からイチャイチャしてやがる……。夜も散々イチャイチャしただろうに。隣に座るリリアは、ほほえましそうに二人を見ている。

「それじゃ、私たちはどうする?」
「俺は念のため、ミスリルゴーレムの確認について行こうと思う。復活している可能性がないとは言えないからな」
「あなたらしいわね。私もついて行くわ」

 それを聞いたベンジャミンは喜んだ。

「それはありがたい。ミスリルゴーレムを倒した冒険者がついてきてくれるとなれば作業員たちも心強いだろうからね」
「いえいえ、そんな。ついてでに鉱山の最深部がどうなっているのか見てみたかっただけですよ」

 こうして俺たちの今後の予定は決まった。ベンジャミンがある程度の情報を入手して戻ってくるまでは、のんびりと過ごすことになった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...