伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき

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土下座の応酬①

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 ギュウギュウとお母様の豊満な胸の谷間に挟まれながら、俺は医者の診断を受けた。これだけみんなが駆けつけてくれたところを見ると、どうやらかなり心配をかけてしまったらしい。
 しかし俺には、なぜそこまでみんなが心配しているのかが分からなかった。お医者様のおじいちゃん先生の言葉を聞くまでは。

「ふむ、解毒剤はしっかりと効果を発揮しておる。ご子息の体内の毒は完全に無効化されたと言って良いじゃろう」

 目の色を変えて俺を見ていたおじいちゃん先生がそう言った。比喩でも何でもなく、本当に目の色が変わっていた。何だろうあれ。邪気眼の一種かな?
 その言葉にお母様の顔に赤みが差した。眉が下がり、先ほどよりも表情が柔らかくなったのが分かった。

 なるほどな。俺、毒殺されそうになっていたのか。だから部屋に入ってきたときのお母様の顔があんなに青ざめていたのか。バンシーかと思ったよ。そういえば庭でティータイムをしていた辺りからの記憶がないな。

 どうやらその毒のせいで前世の記憶を取り戻したようである。すべてがつながってスッキリとした気持ちになっている。そんな俺の顔を見たお母様が、さらにむぎゅむぎゅと強く抱きしめてきた。あ、あかん、息が……必死にお母様をタップした。

「フェル! 大丈夫? 生きてる?」
「三途の川は見えましたが大丈夫です。心配をおかけして申し訳ありません」

 お母様の胸の谷間から顔を上げる。「三途の川?」と首をかしげていたが、どうやら解放はしてくれないようである。だがそろそろ下半身が封印から目を覚ましそうである。鎮まれ。

「フェルが謝る必要はない。フェルに毒を盛った犯人はすでに捜し出して首を刎ねている。もう心配はいらない。どうやら隣国の暗殺者がフェルの命を狙ったようだ。おそらくは私への警告だろう。すまない、フェル。私の責任だ」

 遅れてやってきたハリウッドスター顔負けの美男子がキレイな土下座を披露した。お父様だ。
 イケメンってずるい。土下座でも絵になるとか、ずるくない? っと、そうじゃない。俺は後ろ髪を引かれる思いで、急いでお母様の胸の谷間から飛び出した。

「お父様、顔を上げて下さい! ボクがうかつだったのです。使用人が毒味をしていなかったのを見抜けなかったボクの責任です」

 お父様にも負けないキレイな土下座をキメた。だてにあの世は見てないぜ。褒められたものではないが、土下座ならだれにも負けない自信がある。

「それは違うぞ、フェル。私があのような者を雇ったから……」
「ハイハイ、反省会は後からでもたっぷりできるわ」

 お母様がパンパンと手をたたいてこの話をお開きにした。お母様も思うところはあるだろうが、お互いに土下座の応酬をしていても何も始まらないのは確かだ。
 お母様は俺をヒョイと抱き上げると先ほどの位置に俺を戻した。……気に入ったのかな、そのポジション。

「そうだな。反省だけでは何の解決にもならない。同じことが二度と起きないように、対策が必要だ」

 そう言うと、お父様はおじいちゃん先生を見た。おじいちゃん先生が心得たとばかりに深くうなずいた。
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