伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき

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残念な王子様①

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 ある晴れた昼下がり、王城へと続く道。伯爵家の馬車がゴトゴトと俺を運んでゆく。俺の隣にはお父様の姿がある。キリリと引き締まったその顔はさすがのイケメンである。思わず惚れてまうやろーって言いたくなった。そりゃお母様みたいな美人が嫁に来るわ。

「あの、お父様。なぜボクが王城に行く必要があるのですか?」

 俺の疑問はもっともだと思う。何も告げられずに「王城に行くぞ」とお父様に言われて馬車に詰め込まれたのだ。まさか自分が荷馬車に乗せられて出荷される子牛の気持ちが分かる日が来るとは思わなかった。

「先日、国王陛下からの申し出があった。フェルと殿下を引き合わせたいと」
「なるほど」

 とは言ったものの、お父様の顔は引き締まったままだ。これはアレだ、良くない傾向だ。お父様は何か悪いことがあったときは、それを表に出さないために無表情になるのだ。
 ふと、「もしかしたらお父様は、殿下に不快感を持っているのではないか?」という疑問が沸き起こった。

 何だか殿下に会うのが嫌になってきたぞ。これはもしかしてフラグってやつなのかな? 俺は必死に「死海文書(仮)」に書き連ねたことを思い出した。だがしかし、さっぱり思い当たることはなかった。

 何のことはない。俺は例の乙女ゲームのことをほとんど何も知らなかったのだ。それもそのはず。実際にそのゲームをしたことが一度もないのだから。だから俺が覚えていたことは、紙一枚に対して半分にも満たなかった。全くの役立たずのでくの坊である。
 だが「この世界が乙女ゲームの世界なのではないか」と思っているがゆえに推測することもできる。知識こそパワー。

 おそらく俺がこれから引き合わされる殿下も乙女ゲームの攻略対象なのだろう。それならば、今後も顔を合わせることが多くなるはずだ。ヒロインとの親密度を知るためにも、仲良くしておいた方がいいだろう。

 それに相手は腐っても王家に連なる人物である。伯爵家という立場上、絶対に敵回すわけにはいかない……と俺は思っているのだが、どうもお父様がその辺りを考慮していなさそうなんだよね。今になって思えば、お父様から殿下の話が出たことはなかったな。この国の宰相をしているにもかかわらずだ。

 これは困ったぞ。俺がクーデターを起こそうと思ったのも、これから会う殿下に何らかの欠陥があったからである可能性も十分に考えられる。うわ、ますます会いたくなくなってきたぞ。ヤバイ、吐きそう。仮病を使おうかな……。


 そんな俺の思いとは裏腹に、無情にも馬車は王城へと到着したようである。馬車が停止すると、兵士が近づいてきた。

「宰相殿ですね? はい、確認が取れました。どうぞお通り下さい」

 どうやら顔パスのようである。さすが宰相。気がつけばいつも家にいるので大丈夫かと思っていたが、問題ないようである。それらば、お父様は一体いつ宰相としての仕事をしているというのだろうか? まずい、気になってきたぞ。夜眠れなくなりそう。

 兵士の声に見送られて王城の内部へと入って行った。再び馬車が動き出したのだが――突然馬車が急ブレーキをかけた。思わぬ出来事に体が前へと投げ出された。それを予想していたかのようにお父様が俺の体を支えてくれた。同時に「チッ」という舌打ちが聞こえた。え? お父様が舌打ちしただと!?

「おーい、宰相ー! 乗ってるんだろー? 俺の友達を連れてきたんだろー?」

 子供の声が聞こえる。どうやら馬車の前に飛び出したのはその子のようである。そして叫んだ内容的に、その子供はこれから会う予定の殿下なのだろう。お父様の眉間に深い深いシワが刻まれている。おお怖い。ちびりそうだ。

 お父様がいつも家にいるように見えるのは、頻繁に家に帰ってきているからなのかも知れない。家から王城まで馬車で十分くらいの距離だもんね。こんな馬車の前に飛び出すような野生児が近くをうろうろしていたら、そりゃあ心が安まらないだろう。お父様の苦労が忍ばれる。
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