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ツンデレなお嬢様②
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屋敷に戻った俺たちはお母様の質問攻めにあっている。両親の見解はそろって「エウラリア嬢の一目惚れ」であった。俺もそうだと思う。しかもツンデレとは。あれは小説や漫画の中の話ではなかったのか。
お父様の話によると、この婚約はトバル公爵からの申し出だったそうである。ますますその可能性が高まった。
「フェルも隅に置けないわね。いつの間にエウラリアちゃんと仲良くなっていたのかしら?」
「お母様、それは誤解です。エウラリア嬢と話したのは今日が初めてですよ」
「ウフフ、エウラリアちゃんはそうは思ってないかもよ」
慌てて否定する俺を見て、クスクスとお母様が笑った。
確かにこれまでもお茶会の度に熱い視線を感じることはあった。お父様と同じルックスなのだ。モテない方がおかしいだろう。だが前世でそのような美味しい思いをしたことがない俺は、ただただ戸惑うだけだった。
イケメンも大変だな。こんなことを言ったら、顔が良い男が憎い連中から殴られそうだけど。
「さあそれじゃあ、素敵な手紙を用意しないといけないわね。そうだわ! 花束と一緒に送りましょう。きっと喜ぶはずよ」
「そうします」
お母様がそう言うのだ。きっとこの選択に間違いはないだろう。乙女心が分からない俺にはお母様の力が必要だ。頼りにしてます。それじゃまずは字の練習からだな。せめてミミズから「何とか読める」くらいにはしておかないとね。
****
エウラリアは自室で羽根ペンを走らせていた。夜の帳はすでに下り、ランプの光が手元を照らしている。インクをつけては書く、という作業を何度も繰り返す。ペン先が乱れてくると、別の羽根ペンに取り替えた。
近くに控えていた使用人がすぐに痛んだペン先をナイフで整える。
「ああ、もう、どうしてこんなに使いづらいのかしら」
「お嬢様、落ち着いて下さい」
思わず犬を撫でるように頭をぐしゃぐしゃにしそうになった主を使用人が慌てて止めた。
エウラリアは早速、フェルナンドへの手紙を書いていた。しかし、書きたいことはたくさんあるのに、羽根ペンの使いにくさがそれを邪魔する。思うように手紙が書けず、ストレスはたまる一方だった。
「はぁ。手紙だとすぐに言葉が浮かぶのに、どうして口だとうまく言葉に出せないのかしら?」
肩を落とし、力なくつぶやいたエウラリア。ノーコメントを貫く使用人。問われても、主人の悪口は言えないのだ。口に出せるものなら「あなたが素直じゃないからですよ!」と言いたかった。でもグッとそれをこらえた。
再びエウラリアのため息が聞こえてくる。
「フェルナンド様……思った通り、中身も素敵でしたわ……」
恍惚とした瞳をランプの光が静かに照らしていた。そのつぶやきを聞いた使用人の瞳から光が消えた。どうやら今夜は寝る時間がほとんどなくなりそうだと確信した。
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お父様の話によると、この婚約はトバル公爵からの申し出だったそうである。ますますその可能性が高まった。
「フェルも隅に置けないわね。いつの間にエウラリアちゃんと仲良くなっていたのかしら?」
「お母様、それは誤解です。エウラリア嬢と話したのは今日が初めてですよ」
「ウフフ、エウラリアちゃんはそうは思ってないかもよ」
慌てて否定する俺を見て、クスクスとお母様が笑った。
確かにこれまでもお茶会の度に熱い視線を感じることはあった。お父様と同じルックスなのだ。モテない方がおかしいだろう。だが前世でそのような美味しい思いをしたことがない俺は、ただただ戸惑うだけだった。
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「さあそれじゃあ、素敵な手紙を用意しないといけないわね。そうだわ! 花束と一緒に送りましょう。きっと喜ぶはずよ」
「そうします」
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エウラリアは自室で羽根ペンを走らせていた。夜の帳はすでに下り、ランプの光が手元を照らしている。インクをつけては書く、という作業を何度も繰り返す。ペン先が乱れてくると、別の羽根ペンに取り替えた。
近くに控えていた使用人がすぐに痛んだペン先をナイフで整える。
「ああ、もう、どうしてこんなに使いづらいのかしら」
「お嬢様、落ち着いて下さい」
思わず犬を撫でるように頭をぐしゃぐしゃにしそうになった主を使用人が慌てて止めた。
エウラリアは早速、フェルナンドへの手紙を書いていた。しかし、書きたいことはたくさんあるのに、羽根ペンの使いにくさがそれを邪魔する。思うように手紙が書けず、ストレスはたまる一方だった。
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