30 / 48
火急の知らせ
しおりを挟む
ほどなくしてアーノルドが戻って来た。だが、その表情は険しい。これは間違いなく、何かトラブルがあったな。
「どうだった、アーノルド?」
「ハッ! 報告します。どうやら近くに魔物の群れが現れたそうです。王立学園の生徒が襲われているという情報が本部に入ってきているようです」
「なんだと!?」
俺たちは顔を見合わせた。本部からは馬に乗った兵士が飛び出し、いずこかへと駆けて行った。馬に乗った兵士は大会運営者が雇った兵士なのだろう。人数は二人。大丈夫かな?
魔物の群れということは、一匹や二匹ではないハズだ。
「殿下、安全のため本部と合流しましょう。魔物の群れの規模が分かりません。ここまで押し寄せてくる可能性も考慮しなければ。いざとなったら、殿下はマリーナ様とリア嬢を連れて、馬で逃げて下さい」
本部には護衛三銃士の馬がつないである。それで逃げれば問題なく逃げることができるだろう。
「フェル様はどうしますの!?」
ガクガクとリアが俺を前後に力強く揺すってきた。やめて、気持ち悪くなりそう。
「落ち着いて下さい。いざとなったら、の話です。まだそこまで差し迫っておりません。今は少しでも情報を集めなければなりません」
「フェルナンドの言う通りだな。急いで本部まで戻ろう」
殿下の言葉を皮切りに俺たちは本部へと急いだ。
本部が設置されているテントの中では、慌ただしく人が動き回っていた。その中には生徒会長の姿もあった。今さら仲良くする気はないが、事が事である。ここはいがみ合っていても仕方がない。
「何があった、報告しろ!」
殿下が叫び声を上げた。サッと静まり返り、注目が殿下に集まる。すぐに現状の報告が始まった。
報告によると、どこからともなく魔物が現れたと見回りをしている先生方から連絡があったらしい。先生方はそのまま対処にあたっているが、生徒を誘導する人員が欲しいということで、たった今、兵士を送り出したそうである。
生徒は王立学園の決まりで魔法を使うための杖や、剣などの武器を一切持っていない。今は先生方と数人の護衛の兵士だけが頼りである。テントの中にはまだ五人ほどの兵士が残っていた。
「何だって!? 分かった。すぐにそちらに向かわせる。どうやら別の場所でも魔物が現れたみたいです」
通信魔法での連絡を受け取った先生がそう言うと、慌てて兵士たちを向かわせていた。
これは偶然ではないな。何者かが意図的に仕組んでいるに違いない。一体だれが?
まさか冒険者ギルドが儲からなかった腹いせに? いや、それはないだろう。そんな危険なことはしないはずだ。それなら一体だれが……。
さいわいなことに、現れた魔物は王都近郊に出没する弱い魔物だそうである。先生たちでも十分に対処できるレベルだそうだ。
そうこうしているうちに、兵士たちに先導されて散り散りになっていた生徒たちが本部へと戻ってきていた。
時間が経過するごとに着々と人数が増えていく。しかしその中にショッキングピンクの髪を持つ人物の姿は見えなかった。あれだけ目立つのだ。見逃すはずがない。まだ戻って来ていないのだろう。ものすごく悪い予感がする。
そんな中、一人の兵士が本部のテントの中に飛び込んできた。そのあまりの差し迫った空気に、テントの中が水を打ったようにしんとなった。
「大変だ、見慣れないでかい魔物が現れた。至急救援を頼む。あの人数じゃ、太刀打ちできない」
周囲を見渡すがだれも何も言わなかった。それもそのはずだ。度重なる支援要請で、ほとんどの学園関係者は出払っており、兵士たちもまだ戻って来ていない。援軍として送れる人物がいないのだ。
どうする? 多分と言うか、間違いなく襲われているのはヒロインだろう。他にも道連れになっている生徒がいるかも知れない。
放っておくか? ヒロインが死んでも俺にはまったく影響はない。それどころか、むしろありがたいと思うだろう。
だがそれは人としてどうだ? 俺は心のない魔物ではない。一人の人間だ。得意なことも、苦手なことも持っている、一人の人間だ。
「襲われているのは何人ですか?」
「フェル様!?」
「襲われているのは少なくとも五人います。戦っているのは先生方が二人。私は馬に乗っていたので、救援を呼んできてくれと言われてここまで急いで戻って来ました」
五人か。全員が無事に逃げ出すのは難しそうだな。これは行くしかないか。この場で救援に行けるのは俺だけだろう。
俺が行こうとしたのをリアが腕をつかんでとめた。
「フェル様が行ってどうなさるおつもりですか? 武器などありませんよ! 危険な目に遭うだけですわ!」
必死な形相のリアに、俺は胸のブローチを指でトントンと指差した。
「ジョナサンたちにもらった入学祝いがあります。このブローチは緊急時に杖として使えるようになっているのですよ。短いですが素材はミスリルです。普通の杖として十分に使えると言ってましたよ」
笑顔で答えると、リアが恐ろしいものを見るような目でこちらを見た。体が小刻みに震えている。俺をとめる理由がなくなったと思って、動揺してるのかな?
「フェルナンド、お前が行く必要はない。俺の護衛を差し向ける」
「いけません、殿下。そうなれば、だれが殿下とマリーナ様を守るのですか。この場にはもうほとんど戦力が残っておりません。殿下の身を守る者、殿下を安全な場所に避難させることができる者が必要です」
殿下の護衛は戦闘力だけで選ばれているわけではない。非常事態のときに生き残ることができるように、サバイバル経験や、絶対に殿下を守り切る力を持った人物が選ばれているのだ。
くっ、と唇を噛む殿下。そう、それで良いんだ。万が一のときは何としてでも生き残ってもわらねばならない。
ハッキリ言って、俺が行っても無駄かも知れない。だが、これがゲームのイベントならば、俺が行くことで解決する可能性は極めて高いだろう。死亡フラグも立っていないはずだ。なぜなら俺は攻略対象なのだから。
俺はまだ震えているリアの頭を優しくなでると、テントを後にした。すぐにシュワルツが馬を持ってきた。
「フェルナンド様、せめて私の馬を使って下さい!」
「せっかくだが、気持ちだけ受け取っておこう。それよりも、万が一のときは、できればリア嬢も助けてやってくれ」
「そんな……分かりました。必ずやエウラリア様も一緒に守り抜きます」
シュワルツが先ほど駆け込んできた兵士が乗っていた馬を見ている。ここまで全力で走ってきたのか、たてがみは力なくうなだれており、毛並みに艶もなかった。
「大変言い難いのですが、この馬に二人乗るのは難しいでしょう。馬を借りた方がよろしいのでは?」
水を飲んで一息いれていた兵士が言った。
「その必要はない。現場まで走って行くから」
「はい?」
「え?」
シュワルツと兵士が困惑の声を上げた。だって、馬で走るよりも自分で走った方が速いんだもん。
「どうだった、アーノルド?」
「ハッ! 報告します。どうやら近くに魔物の群れが現れたそうです。王立学園の生徒が襲われているという情報が本部に入ってきているようです」
「なんだと!?」
俺たちは顔を見合わせた。本部からは馬に乗った兵士が飛び出し、いずこかへと駆けて行った。馬に乗った兵士は大会運営者が雇った兵士なのだろう。人数は二人。大丈夫かな?
魔物の群れということは、一匹や二匹ではないハズだ。
「殿下、安全のため本部と合流しましょう。魔物の群れの規模が分かりません。ここまで押し寄せてくる可能性も考慮しなければ。いざとなったら、殿下はマリーナ様とリア嬢を連れて、馬で逃げて下さい」
本部には護衛三銃士の馬がつないである。それで逃げれば問題なく逃げることができるだろう。
「フェル様はどうしますの!?」
ガクガクとリアが俺を前後に力強く揺すってきた。やめて、気持ち悪くなりそう。
「落ち着いて下さい。いざとなったら、の話です。まだそこまで差し迫っておりません。今は少しでも情報を集めなければなりません」
「フェルナンドの言う通りだな。急いで本部まで戻ろう」
殿下の言葉を皮切りに俺たちは本部へと急いだ。
本部が設置されているテントの中では、慌ただしく人が動き回っていた。その中には生徒会長の姿もあった。今さら仲良くする気はないが、事が事である。ここはいがみ合っていても仕方がない。
「何があった、報告しろ!」
殿下が叫び声を上げた。サッと静まり返り、注目が殿下に集まる。すぐに現状の報告が始まった。
報告によると、どこからともなく魔物が現れたと見回りをしている先生方から連絡があったらしい。先生方はそのまま対処にあたっているが、生徒を誘導する人員が欲しいということで、たった今、兵士を送り出したそうである。
生徒は王立学園の決まりで魔法を使うための杖や、剣などの武器を一切持っていない。今は先生方と数人の護衛の兵士だけが頼りである。テントの中にはまだ五人ほどの兵士が残っていた。
「何だって!? 分かった。すぐにそちらに向かわせる。どうやら別の場所でも魔物が現れたみたいです」
通信魔法での連絡を受け取った先生がそう言うと、慌てて兵士たちを向かわせていた。
これは偶然ではないな。何者かが意図的に仕組んでいるに違いない。一体だれが?
まさか冒険者ギルドが儲からなかった腹いせに? いや、それはないだろう。そんな危険なことはしないはずだ。それなら一体だれが……。
さいわいなことに、現れた魔物は王都近郊に出没する弱い魔物だそうである。先生たちでも十分に対処できるレベルだそうだ。
そうこうしているうちに、兵士たちに先導されて散り散りになっていた生徒たちが本部へと戻ってきていた。
時間が経過するごとに着々と人数が増えていく。しかしその中にショッキングピンクの髪を持つ人物の姿は見えなかった。あれだけ目立つのだ。見逃すはずがない。まだ戻って来ていないのだろう。ものすごく悪い予感がする。
そんな中、一人の兵士が本部のテントの中に飛び込んできた。そのあまりの差し迫った空気に、テントの中が水を打ったようにしんとなった。
「大変だ、見慣れないでかい魔物が現れた。至急救援を頼む。あの人数じゃ、太刀打ちできない」
周囲を見渡すがだれも何も言わなかった。それもそのはずだ。度重なる支援要請で、ほとんどの学園関係者は出払っており、兵士たちもまだ戻って来ていない。援軍として送れる人物がいないのだ。
どうする? 多分と言うか、間違いなく襲われているのはヒロインだろう。他にも道連れになっている生徒がいるかも知れない。
放っておくか? ヒロインが死んでも俺にはまったく影響はない。それどころか、むしろありがたいと思うだろう。
だがそれは人としてどうだ? 俺は心のない魔物ではない。一人の人間だ。得意なことも、苦手なことも持っている、一人の人間だ。
「襲われているのは何人ですか?」
「フェル様!?」
「襲われているのは少なくとも五人います。戦っているのは先生方が二人。私は馬に乗っていたので、救援を呼んできてくれと言われてここまで急いで戻って来ました」
五人か。全員が無事に逃げ出すのは難しそうだな。これは行くしかないか。この場で救援に行けるのは俺だけだろう。
俺が行こうとしたのをリアが腕をつかんでとめた。
「フェル様が行ってどうなさるおつもりですか? 武器などありませんよ! 危険な目に遭うだけですわ!」
必死な形相のリアに、俺は胸のブローチを指でトントンと指差した。
「ジョナサンたちにもらった入学祝いがあります。このブローチは緊急時に杖として使えるようになっているのですよ。短いですが素材はミスリルです。普通の杖として十分に使えると言ってましたよ」
笑顔で答えると、リアが恐ろしいものを見るような目でこちらを見た。体が小刻みに震えている。俺をとめる理由がなくなったと思って、動揺してるのかな?
「フェルナンド、お前が行く必要はない。俺の護衛を差し向ける」
「いけません、殿下。そうなれば、だれが殿下とマリーナ様を守るのですか。この場にはもうほとんど戦力が残っておりません。殿下の身を守る者、殿下を安全な場所に避難させることができる者が必要です」
殿下の護衛は戦闘力だけで選ばれているわけではない。非常事態のときに生き残ることができるように、サバイバル経験や、絶対に殿下を守り切る力を持った人物が選ばれているのだ。
くっ、と唇を噛む殿下。そう、それで良いんだ。万が一のときは何としてでも生き残ってもわらねばならない。
ハッキリ言って、俺が行っても無駄かも知れない。だが、これがゲームのイベントならば、俺が行くことで解決する可能性は極めて高いだろう。死亡フラグも立っていないはずだ。なぜなら俺は攻略対象なのだから。
俺はまだ震えているリアの頭を優しくなでると、テントを後にした。すぐにシュワルツが馬を持ってきた。
「フェルナンド様、せめて私の馬を使って下さい!」
「せっかくだが、気持ちだけ受け取っておこう。それよりも、万が一のときは、できればリア嬢も助けてやってくれ」
「そんな……分かりました。必ずやエウラリア様も一緒に守り抜きます」
シュワルツが先ほど駆け込んできた兵士が乗っていた馬を見ている。ここまで全力で走ってきたのか、たてがみは力なくうなだれており、毛並みに艶もなかった。
「大変言い難いのですが、この馬に二人乗るのは難しいでしょう。馬を借りた方がよろしいのでは?」
水を飲んで一息いれていた兵士が言った。
「その必要はない。現場まで走って行くから」
「はい?」
「え?」
シュワルツと兵士が困惑の声を上げた。だって、馬で走るよりも自分で走った方が速いんだもん。
37
あなたにおすすめの小説
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~
雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。
左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。
この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。
しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。
彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。
その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。
遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。
様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい
megane-san
ファンタジー
私、クリスティーナは、前世で国税調査官として残業漬けの日々を送っていましたが、どうやら過労でぶっ倒れそのまま今の世界に転生してきたようです。
転生先のグリモード伯爵家は表向きは普通の商会を営んでおりますが裏では何やら諜報や暗部の仕事をしているらしく…。そんな表と裏の家業を手伝いながら、前世で汚部屋生活をしていた私は、今世で断捨離に挑戦することにしたのですが、なんと断捨離中に光魔法が使えることが発覚!
魔力があることを国にバレないようにしながら、魔術師の最高峰である特級魔術師を目指します!
竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。
同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。
16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。
そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。
カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。
死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。
エブリスタにも掲載しています。
【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。
まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」
ええよく言われますわ…。
でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。
この国では、13歳になると学校へ入学する。
そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。
☆この国での世界観です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる