伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき

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調査

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 本部に合流した俺たちは事のあらましを報告した。生徒たちが続々と無事な姿で本部に戻ってきているところを見ると、どうやら大蛇はあの一匹だけだったようである。

「六つ首の大蛇か……聞いたことがないな」

 あごに手を当てて考え込む殿下。護衛三銃士からも声は上がらなかった。護衛たちはこれでもエリートぞろいである。魔物についての知識も豊富だ。それでも分からないというのであれば、新種なのだろう。

 そうこうしているうちに、国から派遣された騎士団がやってきた。安全地帯と思われていた王都近郊の丘に突如魔物が現れたのだ。放ってはおけないだろう。それに殿下もいる。国が調査に乗り出すのは当然と言えた。

 騎士団が到着したことで一気に安心感が高まった。生徒たちの顔もようやく明るくなっている。まったく、散々なスケッチ大会だったな。生徒会の面目も丸つぶれだろう。

 生徒会としてはコスト削減のため、安全な場所を選んだつもりだったのだろう。だがそれゆえに、事前の調査をおろそかにしてしまった。それが今回の事件につながったのではないだろうか。

 本部のテントには次々と情報が集まってきた。まだ周囲にはどれほどの魔物が残っているのか分からない。そのため生徒たちを動かすこともできずにいる。

「周辺に現れた魔物は駆逐しつつあります。本日はこの一帯を王立学園が使うという立て看板を数日前から出していたため、一般市民がほとんどいなかったのがさいわいです。今のところ、被害が出たという話は聞いておりません」

 そんな看板を出していたのか。まったく知らなかったな。だが逆に言えば、事前にこの場所を王立学園が使うことを知っていた人物もいるということだ。

「魔物がどこからやってきたか、調べはついたのか?」
「ハッ! おおよそ見当がついております」

 殿下の質問に騎士団の部隊長が答える。口の周りに髭を生やしたダンディズムあふれる御仁である。
 先を促すように殿下が一つうなずいた。

「どうやら魔物を転送するための魔方陣が使われたようです」
「なるほど、その魔方陣を使って襲撃してきたのか。狙いは俺の首かな? そうなると、仕組んだのは隣国か」

 これは問題になると思ったのか、殿下の顔が色を失った。それを聞いた周りの人たちもザワザワとささやきあっている。

「その事についてですが、急いで魔方陣を準備したのか、かなり雑に準備されておりました。まるで見つかることが前提であるかのように……」

 部隊長が言葉を濁している。彼は自分が見たままのことを話しているのだろう。そしてそこから感じる違和感についても。

「フェルナンドはどう思う?」

 え、俺? 何で俺に話を振るのだろうか。俺じゃなくて、先生方に聞けばいいのに。俺の隣に座っているリアも、心配そうな表情でこちらを見ている。

「そうですね、隣国かも知れませんし、そうでないかも知れません」
「どういうことだ?」
「この襲撃は、成功しても、失敗してもどちらでも良かったのではないでしょうか? いずれにせよ、殿下が先ほど言われたように隣国の仕業だと我々は思うでしょう」

 なるほど、と部隊長の声が上がった。俺が言わんとすることに気がついたようである。

「我が国と隣国が再び戦争を始めれば、得をする国が他にあるということです。我々双方を争わせ、双方が弱ったところで両国を攻める。二虎競食の計を狙ったのかも知れません」
「二虎競食の計か、かっこいいな、それ」

 どうやら殿下の厨二心をくすぐってしまったらしい。周囲の人たちも互いにうなずきあっている。その可能性もあると思ってくれているようである。
 ここで一番の悪手は隣国一つだけをターゲットにしてしまうことである。同時に周りの国にも気を配らねば、足下をすくわれることになるだろう。

「殿下、隣国を調べるのはもちろんですが、同時に他国の動きも調べておいた方が良いかと思います。見たこともない魔物もいました。おそらく、この大陸の魔物ではないでしょう」
「フェルナンドが倒した大蛇のことだな? もうすぐ調べがつくはずだ。もしかしたら、魔大陸の魔物かも知れないな。とこでフェルナンド、いつまでエウラリア嬢の腰を抱いているつもりだ?」

 俺はテントに戻って来てからずっと、隣に座るリアの腰に手を回していた。何でと言われても、ラブラブアピールに他ならない。

「こうやってリア嬢から魔力を補充しているのですよ。少々使いすぎてしまったものですから」

 もちろんウソである。腰に手を回しても、魔力は補充されることはない。殿下もまねしてマリーナ様に手を出そうとしていたが、扇子でその手をはたき落とされていた。
 実に良いしつけだ、マリーナ様。

 今回のことは「スケッチ大会襲撃事件」として我が国の歴史に名を残すことになった。王立学園としては頭が痛いことだろう。学園の権威は落ちたと言っても過言ではなかった。

 なにせ、事前に調査していれば、少なくとも魔物の襲撃を防ぐことができたのだ。だが今回はそれをしなかった。予算がないからと言って、安全性の詰めが甘かったイベントに多くの批判が集まったのだった。


 数日後、調査結果がまとまったようである。俺たちは王城の会議室に呼び出された。何で俺まで呼び出されるんだ。俺は無実だ。
 会議には国王陛下や騎士団長などの重役の姿があった。もちろんお父様の姿もある。親バカであるがゆえに、熱のこもった目でこちらを見てきた。

 報告は口頭で行われた。機密文書が外に出るとまずいと思っているのだろう。それだけ重要な案件のようである。それによると、隣国は関与を否定していた。疑うのならば、調べに来てもいいとのことだった。

 もちろん、隣国に調査団を派遣するとのことだった。隣国としても、先の戦争のダメージはまだ残っている。そんなときに国民感情を逆なでするようなことはやらない、とのことである。
 それもそうか。戦争するには大義名分が必要だからね。国民の理解が得られなければ、とても戦い続けることはできない。

「そこで、他国の調査も行った。怪しいのは北の国だ。あの国から海を挟んだその北に魔大陸がある。そこから未知の魔物を呼び寄せることは十分に可能だろう。我が国と隣国の二虎競食を狙ったのであろう」

 国王陛下が俺の方をチラリと見てそう述べた。え、国王陛下も使うんですか、それ。
 もちろん国王陛下の意見に反論するものはいなかった。南、東の国とは同盟国だ。怪しいのは中立の態度を崩さない北の国だろう。

「騎士団長、未知の魔物については何か分かったのかな?」

 宰相であるお父様がそう尋ねた。騎士団長が言葉を濁した。

「それが、倒された魔物の損傷が激しくて、目撃した者の証言しか分かっていません。大きさは郊外の一軒家くらいで、首が六つあったそうです」

 騎士団長の証言に会議室がざわついた。そんな魔物が、との声が聞こえてくる。
 未知の魔物についてほとんど分かっていないのは俺のせいである。聞いた話によると、調査隊が現場に到着したときにはすでに氷が溶けており、血の海しか残っていなかったそうである。まさに血の池地獄。

 魔物については引き続き調査をすること、そして北の国を警戒するようにとの通達があって会議は終了した。
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