悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき

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妖精の試練②

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 七不思議の一つ「独りでに鳴る音楽室のピアノ」という、大変ベタな不思議を解決?し、次なる不思議の解明に乗り出した。
 「魔法を使えば、どんな不思議な現象も再現できそうですわね」
 ようやく七不思議の実態に気がつき始めたクリスティアナ様が、身も蓋もない事を言った。
 「そうですね。それも踏まえて楽しめば良いのではないでしょうか。知恵比べ、もしくは、謎解きと思えば、きっといい勉強になりますよ」
 それに対してこちらは、7歳児としては達観していた。どっちもどっちである。
 「次は、サロンのテーブルや椅子が独りでに動くことがあるそうですわ。窓から中庭が見えるサロンなのですが、その怪奇現象のせいでほとんど使われなくなっているようですわ」
 「それも念動の魔法を使えば簡単に再現出来そうですね」
 そこは中庭に面した窓から暖かな光が差し込む、とても心地の良いサロンだった。パステルカラーで見事なグラデーションを施された絨毯は、暖かな光に照らされてお花畑にいるかのような気分にさせた。それはまるで、ここだけ春が来たかのようにだった。
 冬なのに春の日差しを感じる場所でしばらくの間、二人でぼーっとしていると、急にカタカタとテーブルや椅子が鳴り出した。それはまるで、前世で言うところのポルターガイスト現象と同じだった。
 腕に張り付いているクリスティアナ様が一瞬だけギョッとした表情をしたが、既にネタが割れていたため、すぐに平静を取り戻した。
 すぐに、魔法の痕跡を探し出す探知の魔法を使い、魔法の出所を探ってみたのだが、方角は分かったものの、遠すぎて場所までは特定できなかった。
 動き出したテーブルや椅子を気にすることなく、この部屋と、窓からの広がる景色を確認していると、そのうち動かなくなった。
 「私達が驚かなかったから、諦めたのでしょうか?」
 クリスティアナ様がこっそりと耳打ちしてきた。
 「恐らくそうかと。相手が驚かなければ見ていても面白くはないでしょうからね。つまり、相手はこの部屋をどこからか見ているということですね」
 ハッとしたクリスティアナ様は部屋の中を見回した。しかし、自分達以外の気配は感じられなかったようだ。
 「外から見ているのでしょうか?」
 「中庭に面した部屋の何処からかだと思いますが、部屋数が多すぎますね。もう少し絞り込まないと駄目ですね」
 なるほど、と納得したクリスティアナ様は、どうやらこの妖精探しに興味を持ち始めたようで、目が爛々としていた。気分は名探偵、といったところだろうか。
 「中庭を中心として起こる不可解な現象を調査するのが良さそうですね。何か思い当たる物はないですか?」
 「そうですわね。晴れているのに急に中庭にだけ雨が降ってきたり、物凄く濃い霧が出たりする日があったりしますわ。中庭でパーティーをするとよくその様な天候になるので、今では中庭でパーティーをすることはなくなったと聞きましたわ。それに中庭でパーティーをすると、食べ物や持ち物が無くなることがよくあったそうです。これってもしかして、妖精がイタズラしていたのでしょうか?」
 「その可能性は高いと思いますね。ですが、妖精が人の食べ物や持ち物に興味があるということが分かりました。手懐けるのに役に立つかもしれません」
 「手懐けるおつもりなのですか?」
 「味方に出来ればとても頼もしいではありませんか」
 「確かにそうですわね。それにしても、天候を操ることができるなんて、妖精は本当に規格外ですわね」
 クリスティアナ様が感心していたのだが、天気を操ることはそう簡単にはできないことのようだ。これでまた一つ賢くなった。規格外認定されたくなかったら天気などの自然を操る魔法を使ってはならない。
 「そう言えば、中庭にある小川に奇妙な生き物を見たという話を聞いたことがありますわ。何でも緑色の体をしていて、背中に亀の甲羅を背負い、頭にお皿が乗っているという珍妙な生き物だそうですわ」
 カッパやんけ!誰だ、そんな空想の生き物を再現したやつは。
 「そ、そうなのですね。ぜひ会ってみたいですね」
 「シリウス様は本当に物好きですわね。ハッ!もしかしてその生き物が妖精なのでは!?」
 「その展開は何か嫌だなぁ」
 こうして二人揃ってカッパが出るという小川へと向かった。

 城の敷地内を流れる小川はその一部が中庭を横切っており、ちょうど中庭を川が通り抜けている場所にやって来た。噂のカッパを誘い出す作戦だ。間違いなくこの中庭に面した何処かに妖精が住む場所があるはずだ。
 「この小川ですわ。見たところ、見当たりませんわね」
 キョロキョロと辺りを見渡し、どこかホッとした様子だ。確かに周囲には何の気配も感じられない。探知の魔法でも特に反応はないようだ。
 そう思っていると、突然前方に魔力が集まる反応を感知した。
 それは徐々に形を形成していき、遂にはカッパの姿になった。
 クリスティアナ様の顔は既に真っ青だ。
 「よ、妖精様ですの?」
 後ろにしがみついた状態で尋ねたが、返事はなかった。
 「クリスティアナ様、これは恐らく幻ですね」
 「ま、幻?偽物ですの?」
 「そうです。恐らく幻を見せる魔法を使っているのでしょう。魔力が集まる反応がありました」
 「魔力が集まる反応?魔力を感じることができるのですか?それに、幻を見せる魔法なんてあるのですか?」
 疑問符を沢山生やしたクリスティアナ様がぽよぽよの眉毛を歪めて首を傾げた。
 「ええと、魔法が使われる時の魔力を知ることができる探知の魔法を使っていたので、魔力が集まる反応を感じることができました。幻を造り出す魔法なら妖精が使える可能性が十分にあると思います」
 納得したような、してないような、複雑な表情をして首を傾げていた。
 「使われた魔法を探知する魔法なんて聞いたことありませんわ。それに、いつの間にその様な魔法を使ったのですか?」
 非常に不味い展開になってきた。クリスティアナ様が俺の魔法に不信感を抱き始めた。杖無しで魔法を使ったのもまずかった。
 内心冷や汗をかきながらクリスティアナ様と見つめ合っていると、無視された形になっていたカッパが真っ赤になって暴れ出した。それはもう両手をグルングルンと回し、自己主張をしているかのようだった。いや、恋人同士の逢瀬を見て、腹が立ったのかもしれない。もしかして妖精はボッチなのでは?
 「ひっ!」
 「うわっ!」
 クリスティアナ様を後ろに庇いつつ、何とかその場を後にした。マジでビビった。
 「酷い目に会いましたね。まさか暴れだすとは思いませんでした」
 「ええ、あんなに狂暴な生き物が城の中庭にいるなんて、城の警備は一体どうなっているのかしら」
 さすがの温厚、のほほんクリスティアナ様もプリプリと怒っていた。
 だがそのお陰で、どうやら先程の探知魔法の件は有耶無耶になったようだ。カッパ、よくやった。今度褒美にキュウリを持っていってやろう。
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