33 / 99
大量!大人買い!
しおりを挟む
続きて我ら一行は王都一の規模を誇る本屋へとやって来た。
ハッキリ言うと、この世界の印刷技術は低水準だ。いや、印刷技術だけではない。王国が誕生してからもう何千年も経つと言うのに、技術水準が低いのだ。技術の進歩が極めて遅い、とも言えるのかも知れないが、その訳には思いあたる節があった。
それは魔法の存在である。
全ての種類の魔法を使うことはできないが、全員が何かしらの魔法を使うことができる。
生活に密着し、とても便利で、とても頼りになる魔法。その便利さゆえに、技術の進歩を犠牲にして、魔法の進歩を最優先とした結果、今の状況になっているのではないだろうか。
そういった事情もあり、現在の印刷技術では本の大量生産はできないでいた。そしてその媒体も紙のみである。一応は石碑から進化はしているようだが、更なる進化は当分先だろう。
本を複製する魔法を開発中らしいのだが、1ページ毎に違う内容が書かれたものをどうやって複製するのか、未だにその方法が解決しないらしい。さらには全ての本が手書きなため、毎回違った文字を判別する必要があり、そのために新な文字判別の魔法が必要になるという有り様。
共通規格の活版印刷を考え出した人は本当に偉大である。異世界に来て初めてその有り難さが身に染みた。
俺が提案すれば?という話ではあるのだが、それはそれ。これはこれである。もし万が一暇になったら考える。
そういった訳で、一冊一冊丁寧に複製される本は庶民にとっては高級品であった。
そのせいもあってか、王都には図書館がそこかしこにあり、連日多くの人で賑わっていた。
ちなみにこの後に行く予定である。
「う~ん、家よりも本の数が少ないね」
入った瞬間にフェオのこの一言。
率直な意見をどうもありがとう。店主の驚きと怪訝な表情の入り雑じった複雑な顔が見えた。
「本は貴重で一品物が多いから、購入すると次に入荷するまで本屋から無くなっちゃうんだよ。だから本の数が少ないのは、この本屋が皆が欲しくなるような本を揃えている証なんだよ」
俺の素晴らしいフォローによって店主はみるみる機嫌を取り戻した。
「シリウス様、ご無沙汰しております。長らくこちらにいらっしゃらなかったので、愛想を尽かされたのではないか、と危惧しておりました。その、あの、お連れの方はもしかして・・・」
「ああ、紹介するよ。俺の婚約者のクリスティアナ王女殿下と妖精のフェオと聖剣エクスガリバーだ」
スズイと三人を押し出した。
店主は・・・目玉を飛び出してひれ伏せた。
そうだよね、妖精の紹介がなされると思っていた所に、王女殿下と聖剣だもんね。
こうなることは分かっていたが、これからも連れてくる可能性が非常に高いので我慢して欲しい。
「頭を上げて下さいませ」
「苦しゅうないぞよ」
「・・・」
エクスはどうやら反応に困っている様子。こんな時にどんな顔をして、どんな受け答えをすれば良いのか分からないようだ。
エクスにはどちらの受け答え方を選んで貰ってもいいが、個人的にはフェオのような受け答えではなく、クリスティアナ様のような慈愛のある方を選んでもらいたい。
「まさか、これほどまでにいと貴き方がいらっしゃるとは思いもよらず、大変な失礼をいたしました」
きっと、さっきのちょっと無愛想な態度のことを言っているのだろう。
この本屋の店主はその品揃えに自信を持っており、フェオの本が少ない発言にムッとなったのだろう。その気持ち、分からないでもないが、お客様あっての商売だということもご理解いただきたい。
「気にしておりませんわ。それよりも、本を見せていただいても?」
優しいクリスティアナ様の言葉にホッと安心した様子の店主は、もちろんです、と店の中を案内してくれた。
おお、新しい魔法研究の本が出版されてるみたいだな。こっちは新作の杖一覧か。魔物図鑑は前と同じ、武器は幾つか新作が作られているみたいだ。
掘り出し物の骨董品の本は・・・古い字体で書かれた日記?のようなもの、何かしらの魔方陣のような物が沢山書かれた本。これは刺繍の図案のようだ。そして古に存在した生物について書いてある本。全部まとめてお買い上げだ。
大概の本を買っていくので、俺はこの店の上得意様になっている。
ちなみに魔方陣はこの世界に存在し、主に魔道具に組み込まれている。
ただし、魔方陣によって発動される魔法は、誰でも使えるという利便性を持つ反面、その魔法性能は低く、実用性に乏しい物が多いのが現状だ。
大量の本を抱え、ホクホク顔で店内を移動し、更なる本を買い漁る俺を見て、まだ買うのか、とフェオが呆れた顔で見ていた。いや、フェオだけでなくクリスティアナ様も口をポカンと開けてこちらを見ていた。
「シリウス様は図書館でも作るおつもりなのですか?」
「え?ああ、それもいいですね。公爵領に世界最大のアレクサンドリア図書館を作るのを目標にしてもいいかも知れません」
「もう名前まで決まってますの!?」
モチのロンじゃよ。
フフフ、新な目標ができた。もっと本を買い漁らなければ。
「クリピー、シリウスを止めた方がいいんじゃない?何かヤバい顔してるよ?」
俺の顔を見て二人が囁いているが気にしない。
マイペースエクスが絵本を大量に持ってきたが、将来的に子供達にも来てもらえるようにするつもりなので問題ない。全部買った。
どうやらエクスさんは文字を覚える所から始める必要がありそうだ。こりゃうっかり。家に帰ったら早速勉強だな。
ハッキリ言うと、この世界の印刷技術は低水準だ。いや、印刷技術だけではない。王国が誕生してからもう何千年も経つと言うのに、技術水準が低いのだ。技術の進歩が極めて遅い、とも言えるのかも知れないが、その訳には思いあたる節があった。
それは魔法の存在である。
全ての種類の魔法を使うことはできないが、全員が何かしらの魔法を使うことができる。
生活に密着し、とても便利で、とても頼りになる魔法。その便利さゆえに、技術の進歩を犠牲にして、魔法の進歩を最優先とした結果、今の状況になっているのではないだろうか。
そういった事情もあり、現在の印刷技術では本の大量生産はできないでいた。そしてその媒体も紙のみである。一応は石碑から進化はしているようだが、更なる進化は当分先だろう。
本を複製する魔法を開発中らしいのだが、1ページ毎に違う内容が書かれたものをどうやって複製するのか、未だにその方法が解決しないらしい。さらには全ての本が手書きなため、毎回違った文字を判別する必要があり、そのために新な文字判別の魔法が必要になるという有り様。
共通規格の活版印刷を考え出した人は本当に偉大である。異世界に来て初めてその有り難さが身に染みた。
俺が提案すれば?という話ではあるのだが、それはそれ。これはこれである。もし万が一暇になったら考える。
そういった訳で、一冊一冊丁寧に複製される本は庶民にとっては高級品であった。
そのせいもあってか、王都には図書館がそこかしこにあり、連日多くの人で賑わっていた。
ちなみにこの後に行く予定である。
「う~ん、家よりも本の数が少ないね」
入った瞬間にフェオのこの一言。
率直な意見をどうもありがとう。店主の驚きと怪訝な表情の入り雑じった複雑な顔が見えた。
「本は貴重で一品物が多いから、購入すると次に入荷するまで本屋から無くなっちゃうんだよ。だから本の数が少ないのは、この本屋が皆が欲しくなるような本を揃えている証なんだよ」
俺の素晴らしいフォローによって店主はみるみる機嫌を取り戻した。
「シリウス様、ご無沙汰しております。長らくこちらにいらっしゃらなかったので、愛想を尽かされたのではないか、と危惧しておりました。その、あの、お連れの方はもしかして・・・」
「ああ、紹介するよ。俺の婚約者のクリスティアナ王女殿下と妖精のフェオと聖剣エクスガリバーだ」
スズイと三人を押し出した。
店主は・・・目玉を飛び出してひれ伏せた。
そうだよね、妖精の紹介がなされると思っていた所に、王女殿下と聖剣だもんね。
こうなることは分かっていたが、これからも連れてくる可能性が非常に高いので我慢して欲しい。
「頭を上げて下さいませ」
「苦しゅうないぞよ」
「・・・」
エクスはどうやら反応に困っている様子。こんな時にどんな顔をして、どんな受け答えをすれば良いのか分からないようだ。
エクスにはどちらの受け答え方を選んで貰ってもいいが、個人的にはフェオのような受け答えではなく、クリスティアナ様のような慈愛のある方を選んでもらいたい。
「まさか、これほどまでにいと貴き方がいらっしゃるとは思いもよらず、大変な失礼をいたしました」
きっと、さっきのちょっと無愛想な態度のことを言っているのだろう。
この本屋の店主はその品揃えに自信を持っており、フェオの本が少ない発言にムッとなったのだろう。その気持ち、分からないでもないが、お客様あっての商売だということもご理解いただきたい。
「気にしておりませんわ。それよりも、本を見せていただいても?」
優しいクリスティアナ様の言葉にホッと安心した様子の店主は、もちろんです、と店の中を案内してくれた。
おお、新しい魔法研究の本が出版されてるみたいだな。こっちは新作の杖一覧か。魔物図鑑は前と同じ、武器は幾つか新作が作られているみたいだ。
掘り出し物の骨董品の本は・・・古い字体で書かれた日記?のようなもの、何かしらの魔方陣のような物が沢山書かれた本。これは刺繍の図案のようだ。そして古に存在した生物について書いてある本。全部まとめてお買い上げだ。
大概の本を買っていくので、俺はこの店の上得意様になっている。
ちなみに魔方陣はこの世界に存在し、主に魔道具に組み込まれている。
ただし、魔方陣によって発動される魔法は、誰でも使えるという利便性を持つ反面、その魔法性能は低く、実用性に乏しい物が多いのが現状だ。
大量の本を抱え、ホクホク顔で店内を移動し、更なる本を買い漁る俺を見て、まだ買うのか、とフェオが呆れた顔で見ていた。いや、フェオだけでなくクリスティアナ様も口をポカンと開けてこちらを見ていた。
「シリウス様は図書館でも作るおつもりなのですか?」
「え?ああ、それもいいですね。公爵領に世界最大のアレクサンドリア図書館を作るのを目標にしてもいいかも知れません」
「もう名前まで決まってますの!?」
モチのロンじゃよ。
フフフ、新な目標ができた。もっと本を買い漁らなければ。
「クリピー、シリウスを止めた方がいいんじゃない?何かヤバい顔してるよ?」
俺の顔を見て二人が囁いているが気にしない。
マイペースエクスが絵本を大量に持ってきたが、将来的に子供達にも来てもらえるようにするつもりなので問題ない。全部買った。
どうやらエクスさんは文字を覚える所から始める必要がありそうだ。こりゃうっかり。家に帰ったら早速勉強だな。
108
あなたにおすすめの小説
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。
二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。
帝国は武力を求めていたのだ。
フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。
帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。
「ここから逃げて、田舎に籠るか」
給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。
帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。
鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
止めるフェアに、強引なマトビア。
なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。
八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。
彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。
しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。
――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。
その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい
えながゆうき
ファンタジー
停戦中の隣国の暗殺者に殺されそうになったフェルナンド・ガジェゴス伯爵令息は、目を覚ますと同時に、前世の記憶の一部を取り戻した。
どうやらこの世界は前世で妹がやっていた恋愛ゲームの世界であり、自分がその中の攻略対象であることを思い出したフェルナンド。
だがしかし、同時にフェルナンドがヒロインとハッピーエンドを迎えると、クーデターエンドを迎えることも思い出した。
もしクーデターが起これば、停戦中の隣国が再び侵攻してくることは間違いない。そうなれば、祖国は簡単に蹂躙されてしまうだろう。
後味の悪いハッピーエンドを回避するため、フェルナンドの戦いが今始まる!
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる