悪役令嬢役を頼まれたので頑張ってはいるものの、何だか雲行きが怪しいですわ

えながゆうき

文字の大きさ
12 / 48

挽回の秘策

しおりを挟む
 これでゲーム内に登場するキャラクターの確認ができた。それでこれからの私の動きについてだが……答えはすでに出ている。
 悪役令嬢として彼らに嫌われれば良いのだ。

 正直言って、現段階ではヒロインがどのキャラクターを攻略するつもりなのかは分からない。それにすべての攻略対象から愛される逆ハーレムエンドもあるのだ。
 そのため、もれなく全員から嫌われておく必要があるのだ。

 ゲーム内やスピンオフでも、イザベラは節操なく若いツバメたちにツバを付けていた。そしてその度に好感度が下がっていた。
 そのことを考えると、ゲームの悪役令嬢である私には「話しかけるだけで相手の好感度が下がる」というチート能力を持っているはずである。

 兄のルークについては、おそらく「お母様生存」というイレギュラーが発生してしまったためバグってしまっているのだ。だが、他の攻略対象者たちは大丈夫だろう。多分。

 そんなわけで、私は攻略対象と出会う度に声をかけまくる必要があるのだ。そしてガンガン嫌われておく必要があるのだ。やってやろうじゃん。

 ランドール公爵家でやらかしてしまった分、ここで挽回しておかなければならないのだ。


 そんな決意を新たにしていると、待ちに待ったその日がやって来た。
 それは魔法の素養を見極めるという大変重要な儀式であった。この日を境に、八歳の年齢に達した子供は魔法を教えてもらえるようになるのだ。

 長かったぞ。家族が私の目から魔法の本を隠すようになってからのこの八年間。どれだけ私がこの日を待ち焦がれたことか。これで堂々と魔法を使うことができるようになるのだ。

 こうして私はウキウキしながらその日を迎えたのであった。何度部屋で両手を掲げてガッツポーズを取ったことか。そのたびに使用人に不審な目で見られたが、そんなことはお構いなしだ。
 
 私の魔法の儀式はお城で執り行われることになっていた。高位貴族たちはその権力をアピールするために、こぞって自分の子供をお城に送り込み、魔法の儀式を行わせるのだ。

 公爵家である我が家もその例に漏れることはない。そして私には魔法の儀式の他にも大事なイベントがあるのだ。
 この日私は、豆腐メンタル王子のフィリップと初めて会うことになるのだ。

 その魔法の儀式の中で、私は王子に「これでもか」とまとわりついて好感度をあっという間にマイナスにするつもりである。一度下げ切ってしまえば、学園に入るまで二度と会わなくても大丈夫だろう。

 王族に会うだなんて、考えただけでも肩が凝りそうだわ。それでなくても、王子を除いたあと二人の攻略対象と、お城の中で接点を作らなくてはいけないわけだし。大変だわ。

「うれしそうだね。やっぱり魔法が使えるようになるのがうれしいのかい?」

 馬車の中でルークが聞いてきた。ただいまお城へ移動中である。
 やはり、と言うべきか。「付いてこなくてもいい」と断ったのにルークは付いてきた。馬車の中には私とお母様、それにルークとフランツがいる。お父様の職場はお城だし、私の儀式の時間になれば、私とお母様を溺愛するお父様ならきっと現れるはず。

 つまりは、ランドール公爵家がお城に勢ぞろいすることになるのだ。これはかなり注目が集まりそうな気がする。
 ひょっとしたら、お父様とお母様が私を国王陛下に売り込むかも知れない。そうなれば、王子と言葉を交わす時間がたくさん取れるだろう。これは好感度を下げるチャンス。

「それもありますが、フィリップ王子に会えるのではないかと楽しみにしておりますわ」
「な、なんだってー!!」

 ルークが絶望に満ちた声をあげた。どうしたのかしら? 私がフィリップ王子に会うことがそんなに驚くべきことなのかしら? それとも別に何か理由が……。
 
「ルーク、そのように大きな声を出すものではありませんよ」
「し、しかしお母様、イザベラが僕以外の男の名前を……」

 知らんがな。これを期に、ぜひシスコンから卒業してもらいたいものである。フランツも残念な生徒を見るような目でルークを見ていた。

 フランツはルークに魔法を教えており師弟関係にあるのだ。自分の教え子が残念な性格であることに心を痛めている節がある。

 でも何でだろう。全然フランツがかわいそうに思えない。だって私が魔法を使ったことを暴いたのはフランツだし、私に魔法を教えないように徹底的に対策を採ってきたのもフランツだ。
 私にとっては敵よ、敵! いい気味だわ。そのままハゲろ!
 
 ちなみに余談だが、ルークとフランツが魔法の勉強をしている間は、私とお母様はお茶をする時間になっていた。別名、マナー講習。
 そこにも「イザベラには魔法を教えないぞ」という確たる意志が見えていた。何でじゃい。

 そんな風に思いながらフランツをギロリと見ていると、私がにらんでいることに気がついたらしい。おもむろに口を開いた。

「この日が無事にやってきてくれて、本当にホッとしてますよ」
「フランツにはいつも苦労をかけさせてしまったわね」

 お母様が眉をハの字に下げて済まなそうに言った。何でだ。魔法を覚えることができなくて苦労したのは私の方なのに。

「いえいえ、とんでもございません。無事にイザベラお嬢様がここまで育ってくれただけでも、頑張ったかいがありましたよ」
「頑張ったって……フランツはいつも私に何かをしていたの?」

 うーん、特に何かされていた様子はなかったんだけどな。一体何の話かしら?
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

処理中です...