悪役令嬢役を頼まれたので頑張ってはいるものの、何だか雲行きが怪しいですわ

えながゆうき

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これってもしや……

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 そんな気まずい感じでフィリップ王子とのお茶会はスタートした。
 兄ルークは私の後ろにスタンドのごとく立っているつもりらしい。ゴゴゴゴ……ッ! という音が今にも聞こえそうである。これは早めに退散した方が私の心労的に良さそうだ。

 私はフィリップ王子が話を切り出すのを待った。

「自己紹介がまだだったね。すでに知っていると思うけど、フィリップ・コーリー・ギネスだよ。フィルって呼んでくれていいよ」

 素晴らしく良い笑顔をこちらに向ける王子様。どうでも良いけど、王族としては軽すぎるのではないだろうか。
 は? と不敬罪になりそうな言葉が出るのを、手に持っていた扇子で口元を隠すことで何とか防ぐことに成功した。
 
 何を言っているんだ、王子は。それはゲームの終盤でヒロインに言うセリフではないか。この悪役令嬢イザベラ・ランドールに言うべき言葉ではないぞ。

 どうやって愛称呼びを回避しようかとルークを見ると、笑顔の中に青筋が見えた。こちらはこちらでヤバそうだ。前にも、後ろにも挟まれた。危うし、イザベラ。
 前には天使、後ろには漆黒の堕天使である。まさにイザベラ危機一髪。グサリとやられれば飛んでいってしまいそうだ。

「それはありがたい申し出ですね、フィル王子。ところで、こんなところまでイザベラを呼び出して一体何の用なのでしょうか?」

 ちょっとルーク、お前が愛称呼びするんかい! 王子がルークに愛称呼びされて複雑な顔をしているじゃない。「違う、そうじゃない」って王子の顔に書いてあるわよ。
 あああ、これはまずいわ。これじゃ私も愛称呼びをしないと、おかしなことになってしまうわ。ガッデム。ルーク、何やってるのよ。

「な、何の用って、イザベラ嬢にお礼を言いたかっただけだよ」

 ルークのドス黒いオーラに当てられた王子は冷や汗をかきながらも答えた。長きに渡って身についた豆腐メンタルは、そうそうに消えてなくなることはないらしい。段々王子がオドオドした様子になってきた。
 せっかく強メンタルを手に入れるチャンスなのに、これはいかんな。

「フィル王子、そのようなお気遣いは不要ですわ。私のことはイザベラと呼び捨てをしてもらって構いませんわ」
「い、イザベラ……!」

 何でそこでルークが嫌そうな顔をするのよ。王子側だけ愛称呼びとかおかしいでしょうが。これでお互い対等な関係になったはずよ。上から王族を見るとか、傲慢にもほどがあるわ。

「ありがとうイザベラ。イザベラのお陰で、私の中にあった才能を見つけることができたよ。この黄金属性のお陰で、私のことをダメな王子だと思う人たちが少しは減るんじゃないかと思っているよ」
「ダメな王子だなんて! そんなことはありませんわ。フィル王子にはたくさんの良いところがありますわ」

 何を言っているのだろうか、私は。ここは「その程度のことで、うぬぼれるなよダメ王子!」とか言った方が良かったのかも知れない。でもそうしたら不敬罪がー。牢屋がー。

「そうかな? でも、イザベラにそう言ってもらえると、そんな気がしてきたよ。ありがとう、イザベラ」

 う、まぶしい! 目が、目がー! 王子様がまばゆい光を放つのは物語の言葉上の表現だと思っていたけど、本当だったのね。

「……フィル王子、黄金の魔法を使ってませんか?」
「おっと、そうかも知れないね。まだ全く使いこなせていなくてね」

 王子はハハハと笑った。
 ……何だろう。私の感動を返せ。まあいいか。とりあえず王子が自信を取り戻しつつあるようなので、取りあえずはヨシ。

 でもこれって……もしかして私、ヒロインポジションに近づきつつあるのではないかしら?
 考えたくない、考えたくないのよ? でも、王子に愛称呼びを許されるっていうのは、かなり好感度が高くないと起こらないイベントのはずなのよね。

 ああでも考えてもムダね。私にはヒロインと違って好感度が見えないのだから。なるようにしかならないわ。

 その後は無難な話を続けてお茶会は終了となった。ルークが終始、王子を牽制してくれたお陰で、それ以上の関係にならなくてすんだ。よくやった。ほめてやろう。
 今後お城に行く機会があるときには、ルークをお供に連れて行った方が良いのかも知れない。


「何だって!? フィリップ王子とお茶会をしただって!? そんな話、聞いてないぞ」

 ランドール公爵家での夕飯の席で王子とお茶会をした話をすると、お父様が驚いた。どうやら寝耳に水だったらしい。確かに国王陛下の親友ならば、話が耳に入ってもおかしくはないだろう。ガーンだな、お父様。

「フィリップ王子が急に思いついたようでしたものね。きっとイザベラのことが気に入ったのよ」
「な、なんだってー!!」

 お母様のおっとりとした言葉に、お父様とルークが同時に叫んだ。私は私で「やはりそうなのか」と絶望の淵に身を立たされていた。
 
 うーん、まずい。これはスリーアウトチェンジかも知れない。でもまだ、一回の裏が終わったばかりだから大丈夫よね? これ以上何かやらかさなければ大丈夫。
 大丈夫よ、イザベラ。あなたの力を信じなさい!
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