悪役令嬢役を頼まれたので頑張ってはいるものの、何だか雲行きが怪しいですわ

えながゆうき

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視察団、現る!

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 今回視察することになっている町は、領主の館がある領都からそれほど離れた場所ではなかった。そのことも、その町が今回選ばれた理由の一つなのだろう。

 私と言えば、畑が広がる田舎の風景を初めて見て、一人で興奮していた。だって仕方がないじゃない。生まれてこの方、王都の外には行ったことがなかったのだから。
 昨日の馬車には分厚いカーテンがかかっていて、ほとんど外が見られなかったからね。

「みてみて! あれって畑よね?」
「ええ、そうですよ。あれは……小麦を育てているみたいですね」

 使用人見習い用にされた資料をパラパラとめくりながらレオナールが答えた。そしてそのまま、この辺りでは何が育てられているのか、どのような土地なのかも教えてくれた。

「うーん、今のところ特に問題はないように思えるんだけど」
「そうですね。確かに今のところは何の変哲もないですね」

 ユリウスも首をかしげている。のどかな畑のどこに問題が隠されているのか。我々視察団は現場へと急行した。
 たくさんの馬車がやってきたことで、田舎町はプチパニックになっていた。しかし、そんなことはお構いなしに、セバスティアンを先頭に私たち生徒は続いた。

「おっおっおっ、お待ちしておりました。私が町長です」

 小太りのおじさんが額に大粒の汗をかきながらやってきた。貴族の生徒の相手など、初めての経験なのだろう。随分と緊張している様子である。

 そんな町長から話を聞くと、どうやら最近、この辺りの土地が枯れ始めているという話だった。
 それならば肥料をまいたり、土の酸性度を調節したりなどして、土壌改良を行えば良いだけの話ではないだろうか? と思っていたのだが……。

 そこはさすがのゲームの世界。どうやら肥料などという代物は存在していないようである。そのようなことを口走ったら、すぐにツッコミが入って来た。

「イザベラ様、肥料って何ですか?」
「えっと、土地を豊かにするためのマストアイテムかなぁ?」
「うーん、さすがの私でも聞いたことありませんね」

 しまった、レオナールとフィル王子に挟まれてしまったぞ。これは逃げられない。どうしたものかと困っていると、町長が助け船を出してくれた。サンキュー、町長!

「土地が枯れ始めたことの原因はつかめています。どうやらこの一体を豊かにしてくれていた「大地の精霊」の力が、年々弱まっているようなのですよ」

 大地の精霊だって!? 何でその名前が今出てくるのか。
 精霊はゲームの中でも登場した。それも、ゲームの終盤での話である。
 王都ではこの精霊による災害イベントが発生する。その災害イベントはヒロインとの好感度が一番高い相手の得意属性によって変化する。

 土属性が得意なフィル王子ならば震災、火属性が得意なローレンツならば火災、風属性が得意なユリウスならば竜巻、氷属性が得意なルークならば水害、などである。
 それらの災害を抑えるために、ヒロインがそれぞれの属性に対応した精霊と戦って、勝利を収めるというイベントなのだ。

 これによってヒロインはガッツリとレベルアップすることができる。そのため、別の見方をすれば、ヒロインにとってはボーナスイベントだったりするのだ。
 市民にとってははた迷惑なイベントではあるのだが。

 王立学園一年目にこんなイベントが起こるだなんて、ゲームマニアの私でも知らなかった。ということは、ゲームの中では起こらなかったイベントである可能性が非常に高いだろう。一体どうなっているのか。
 でも、考えたところで答えは出ない。今は流れに任せるしかなさそうだ。そう、川の流れのように。

「どうすれば大地の精霊の力を取り戻せるんですか?」

 先ほどから真剣に話を聞いていたクラスメートが訪ねた。その表情は、どこか悲壮感を抱かせるものがあった。
 もしかして、彼の領地でもここと同じようなことが起こっているのかも知れない。ひょっとして、ギネス王国全土で同じようなことが起こっているのでは? もしかしてこれは、来年起こるイベントの予兆なのではなかろうか。

 そういえばソフィアの狙いはフィル王子みたいだったものね。土属性関係のイベントが起こる可能性は十分にあり得る話だわ。

「伝承によりますと、大地の精霊に祈りをささげれば良いと……」

 町長がしどろもどろに答える。年下のひよっことは言え、貴族の子供。無下に扱うわけにも行かず大変そうである。
 しかし、祈りをささげれば良いのか。その程度で何とかなるならばやってみる価値は十分にあると思う。

「それでは、今から大地の精霊に祈りをささげに行きませんか?」
「確かにそうだね。それで、どこに祈りをささげに行けばいいのかな?」

 私の提案にフィル王子が賛成してくれた。それにつられて他の生徒たちも一斉に賛成してくれた。この反応を見るに、やはり国内という大きな規模で土地が枯れ始めているようである。

「すぐに調べますので、今しばらくお待ち下さい。追って報告させていただきます」

 どうやら町長は、本気で大地の精霊に祈りをささげるつもりはなかったようである。それもそうか。昔の伝承で言われていることだものね。信憑性は極めて低いはず。
 それに乗っかってくるとは思わなかったのだろう。

 そこで私たちは一旦、領主の館に戻り、報告を待つことになった。
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