悪役令嬢役を頼まれたので頑張ってはいるものの、何だか雲行きが怪しいですわ

えながゆうき

文字の大きさ
35 / 48

大地の精霊

しおりを挟む
 一通り教えたあとはそれぞれが自主練を始めた。もちろん盆踊りの音楽はない。ゆえに手拍子でリズムをとることになる。あパパンがパン、ってね。やだ、何だか恥ずかしい。

 死ぬまでに盆踊りを一度みんなと一緒に踊ってみたいと願ったことはあったけど、多分こういうことじゃないと思う。

「よし、みんな盆踊りをマスターしたな。それではこれより、大地の精霊様に祈りをささげる儀式を始める」

 ルークが高らかに宣言した。有り体に言えば「みんなで盆踊りを踊ろうぜ!」ということである。こうなりゃやけだ。やってやらぁ! あパパンがパン。
 こうして謎の集団が、謎の石碑の周りで踊り出した。総勢百人くらいだろうか? 踊りの輪は二重になっている。

 初めは静かに踊り出したのだが、みんなの手拍子がそろってくるに連れて、どこからともなくあの音楽が流れてきた。盆踊りのテーマソングである。

「何だ、一体どこから音楽が!?」
「何かしら、この音楽。聞いたことがありませんわね。でもなんだか、盆踊りの動きに合っていますわ!」

 ざわざわと騒がしくなってきたが、音楽がある方が断然踊りやすかった。音楽のリズムに乗って軽やかに踊り出す私を見習ったのか何なのか、みんなも同じように踊り出した。
 そうして踊り出すとすぐに、石碑に変化があった。石碑が輝き始めたのだ。

「見ろ、石碑が光っているぞ! 祈りが大地の精霊様に届いたんだ」
「おおおお! 踊れ、みんな踊るんだ!」

 それからは謎のテンションで踊り続けた。そしてその踊りは、その日一日では終わらなかった。翌日はセバスティアンが領都の住民を大量に連れてきたのだ。これはもう祭りである。私は即座に屋台を出すことを提案した。

「ずっと踊ってばかりでは疲れ果ててしまいますわ。休憩のためにも、お店をこの近くで開くべきですわ」

 私の提案はすぐに採用された。大地の精霊の巫女が言うのだ。すぐに実行すべし。セバスティアンはそう言った。
 うん、何か違う。絶対に違う。そうじゃない。何でいつの間にか私が大地の精霊の巫女になっているのだ。

 聖女という肩書きはあったが、巫女という肩書きはなかったぞ。それに何でそこだけ和風なの? 他はバリバリの洋風なのに。
 間違いなく何かがズレて来ている。それが私のせいなのか、ソフィアのせいなのかは分からないが。

 こうして大地の精霊を祭る祈りの盆踊りが、毎年この時期に開催されることが決まった。そして精霊の怒りを静める巫女として、私がたてまつられることになった。
 もう好きにしてくれ。私は流れに身を任せるだけだ。ゲームが始まるまでは自由行動だ。


 そんな感じで課外活動は最終日を迎えた。町や村を視察に行ったり、馬や羊を見に行ったりと本当に色々な体験ができて面白かった。
 そしてその合間を縫って盆踊りをするのは、別の意味で面白かった。

「ここで踊るのもこれで最後になりますね」

 しみじみとフィル王子が言った。王子には申し訳ないが、イケメンが真剣な顔つきで盆踊りを踊る光景はシュール以外の何者でもなかった。笑い出さなかった自分をほめてあげたいくらいだ。

「そうですわね。もう二度と来ることはないかも知れませんから、しっかりと祈りをささげておきましょう」

 私がそう提案した直後、石碑がひときわ大きな輝きを放った。
 ちょうどこの場所には私たちしかいなかった。慌てて護衛が私たちの前にかばうように立つ。

『もう帰ってしまうのか。せめて、礼をさせてくれ』

 そこに現れたのは大地の精霊。
 その姿は何度も見たことがある。ゲームの中で。
 その場にいたフィル王子たちも、それが何なのか合点がいったようである。その場でひざまずいた。
 それを見た私も慌ててひざまずいた。

『そのようなことをする必要はない。私がこうして存在していられるのは、皆の信仰があったからだ』

 大地の精霊の呼びかけで全員が姿勢を正した。みんなの表情には安堵の色が見えた。それにしても、さっき礼をさせてくれって言っていたわよね。何か良いものでもくれるのかしら?

 私たちがひざまずくのをやめたことを確認した大地の精霊は私の方に向き直った。

『そなたのおかげで力を取り戻せたと言っても過言ではない。そなたには特別に私の加護を授けよう』

 精霊の加護! それは確か災害イベントをクリア後にヒロインがもらうヤツだ。これはまずい。今ここで私がもらうのは非常にまずいわ。これは悪役令嬢がもらったらいかんヤツだわ。

「お、お言葉ですが、わたくしに加護は必要ありませんわ! それよりも……そ、そうだわ! こちらのフィル王子に加護を授けていただけませんか? フィル王子は将来この国の王様になるお方ですわ。きっとこの土地も、あちらの土地も、この国中の土地も、みんなで祈りをささげる素晴らしい土地にして下さいますわ!」

 私はフィル王子を前に押し出した。ここは王子に身代わりになってもらおう。この世界のためだ。悪く思うなよ。

『ハッハッハッハ! そうか。自分よりも他人のことを思うか。ますます気に入ったぞ。分かった。その願い、聞き入れよう。さあ、私の加護を受け取るが良い』

 大地の精霊とフィル王子が光の線でつながった。それは一瞬の出来事で、すぐに大地の精霊とともに見えなくなってしまった。
 え? これで終わり? フィル王子には特に変化はなさそうなんだけど。

 確か精霊の加護をもらったら、精霊の持っている魔力が上乗せされるのよね。ということは、大地の精霊が祈りによって強くなればなるほど、フィル王子も強くなるということだ。

 何それチートじゃん。ま、すでに無限大の魔力を持ってるから、私には関係ないですけどね。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

処理中です...