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新学期は穏やかに
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長いはずの夏休みはあっという間に終わってしまった。夏休みの間は領地内を視察に行ったり、盗賊団を壊滅させたりしたりと忙しかったのは事実だ。でももうちょっと、あと一ヶ月くらいは休みが欲しい。
「イザベラ、いつまでもわがままを言うんじゃありませんよ。ほら、明日の準備をしなさい」
「はーい」
お母様に言われて、私はしぶしぶと学園に行く準備を始めた。え? 宿題はどうしたのか、だって? 大丈夫。この世界には宿題なんてものないから。夏休みは遊び尽くすものなのよ。
王立学園は前期と後期の二つの区分に分かれている。夏休みが終わったあとは、冬休みが来るまでノンストップだ。そして冬休みが終わると、新学年が始まるのだ。
そこはいよいよゲームの世界。私にとっては闇のゲームの始まりよ。やっぱりもっと夏休みが欲しいわね。冬休みはとても楽しめそうにないから。
「イザベラは学園に行きたくないのかな?」
「お兄様! そんなことはありませんけど……」
「もしかして、盗賊団がイザベラの命を狙っていたことを気にしているのかい?」
あれから私の命を狙った暗殺者などは現れなかった。もちろん今の段階で殺されるわけには行かないので、しっかりと魔法でガードはしていた。それでも、気にしなかったと言えばウソになるだろう。
「もし学園で襲われでもしたらと思うと気が気ではありませんわ。今度は友達まで巻き込んでしまうかも知れませんから……」
「そうかも知れないね。でも安心して。私がしっかりと学園には連絡を入れておいたから。私だけじゃない。お父様もお母様も色々と手を打っているみたいだからね」
ルークは私を安心させようとしたのか、口角を上げてウインクをしてきた。
あー、お兄様にも気を使わせてしまったな。本当は私たちの問題なのに。
ソフィアが奇怪な動きをしているのは、私がイレギュラーな行動を取ってしまったせいかも知れないのだ。
私がもっとゲームの通りに動いていれば――。
「ほら、イザベラ。そんな顔しないで」
優しく抱きしめられたお兄様の胸に、私は顔をうずめた。ポンポンと優しくお兄様が頭をなでてくれた。
久しぶりに足を踏み入れた教室は、ほんの二ヶ月くらいしかたっていないのに随分と懐かしく感じてしまった。そこにはいつものみんなの顔がある。
安心して自分の席に座ると、すぐにユリウスとローレンツがやってきた。
「師匠、聞きましたよ。盗賊団を壊滅させたそうですね。さすがは師匠! そこが憧れる!」
一人感動に打ちひしがれた様子のローレンツ。どうやら実家に帰っていた期間も修行は真面目にやっていたようであり、夏休み前よりもガタイが大きくなっていた。さすが脳筋。
それよりも、だ。
「何でそのことをローレンツが知っているのかしら?」
半眼でローレンツをにらむ。すると隣にいたユリウスがローレンツの代わりに答えてくれた。
「イザベラ様がランドール公爵領で盗賊に襲われたという話は、王城にも届いているのよ。それを聞いたフィル王子が血相を変えて情報を集めるように命令していたわ。あのときは大変だったよ。自分も行くって言い出してね」
そのときを思い出したのか、ユリウスが苦笑している。それでも何とか王子を思いとどまらせることができたらしい。
ローレンツいわく、「師匠なら盗賊くらい小指でチョイですよ」と言って説得したそうである。
ローレンツよ、私を何だと思っているんだ。さすがに小指でチョイはなかったぞ。人差し指でペチンはあったけど。なおそれをされた盗賊は木の葉のように宙を舞った。私は悪くないぞ、多分。
「それにしても、イザベラ様が無事で本当に良かったわ。盗賊団をイザベラ様が壊滅させたって話が入って来なかったら、私もフィル王子と一緒に向かっていたかも知れないわ」
本当に心配をかけてしまったようで、ユリウスは「笑い話で済んで良かった」と笑って言ってくれた。いやちょっと。
「……どうして私が盗賊団を壊滅させたことになっているのかしら? 確かルークお兄様が壊滅させたことになっているはずよ」
「それはフィル王子がイザベラ様が心配で心配で仕方がなくて、徹底的に調べさせたからですわ。愛されておりますね、イザベラ様」
くっ、王子め、余計なことを。そのままお兄様の手柄にしておけば良いものの。このままではお兄様も「イザベラが全てやりました」って言いそうだ。ありえるわ。
「イザベラ様、ご無事でしたか! イザベラ様が盗賊団に殴り込みをかけたと聞いて、心配していたんですよ」
私を探しに来たのだろう。レオナールがわざわざAクラスがある建物まで来てくれた。Aクラスがある建物は、本来ならばAクラスの生徒でなければ入れない。
しかし、あの課外活動に参加した生徒たちは「今後も関わることになるだろうから」と言う理由で、学生証を入り口の警備員に見せれば入られるようになっているのだ。
だがちょっと待て。私のことを心配してくれたのはありがたいが、何だか話が違う方向になっているぞ。
「レオ、どうして私が殴り込みをかけたことになっているのかしら?」
「え? 違うんですか? クラスのみんなも「さすがイザベラ様だ」って称賛して――」
「ちがーう! 全然違う! 私は無実よ。向こうが殴り込みをかけて来たから、返り討ちにしただけよ!」
シン……と辺りが静かになった。何だろう、このやっちまった感じ。どうやら、何も知らずに楽しい夏休みを過ごした人たちまで知れ渡ったようである。
レオ、あとで絞める。ついでにローレンツも絞める。
「イザベラ、いつまでもわがままを言うんじゃありませんよ。ほら、明日の準備をしなさい」
「はーい」
お母様に言われて、私はしぶしぶと学園に行く準備を始めた。え? 宿題はどうしたのか、だって? 大丈夫。この世界には宿題なんてものないから。夏休みは遊び尽くすものなのよ。
王立学園は前期と後期の二つの区分に分かれている。夏休みが終わったあとは、冬休みが来るまでノンストップだ。そして冬休みが終わると、新学年が始まるのだ。
そこはいよいよゲームの世界。私にとっては闇のゲームの始まりよ。やっぱりもっと夏休みが欲しいわね。冬休みはとても楽しめそうにないから。
「イザベラは学園に行きたくないのかな?」
「お兄様! そんなことはありませんけど……」
「もしかして、盗賊団がイザベラの命を狙っていたことを気にしているのかい?」
あれから私の命を狙った暗殺者などは現れなかった。もちろん今の段階で殺されるわけには行かないので、しっかりと魔法でガードはしていた。それでも、気にしなかったと言えばウソになるだろう。
「もし学園で襲われでもしたらと思うと気が気ではありませんわ。今度は友達まで巻き込んでしまうかも知れませんから……」
「そうかも知れないね。でも安心して。私がしっかりと学園には連絡を入れておいたから。私だけじゃない。お父様もお母様も色々と手を打っているみたいだからね」
ルークは私を安心させようとしたのか、口角を上げてウインクをしてきた。
あー、お兄様にも気を使わせてしまったな。本当は私たちの問題なのに。
ソフィアが奇怪な動きをしているのは、私がイレギュラーな行動を取ってしまったせいかも知れないのだ。
私がもっとゲームの通りに動いていれば――。
「ほら、イザベラ。そんな顔しないで」
優しく抱きしめられたお兄様の胸に、私は顔をうずめた。ポンポンと優しくお兄様が頭をなでてくれた。
久しぶりに足を踏み入れた教室は、ほんの二ヶ月くらいしかたっていないのに随分と懐かしく感じてしまった。そこにはいつものみんなの顔がある。
安心して自分の席に座ると、すぐにユリウスとローレンツがやってきた。
「師匠、聞きましたよ。盗賊団を壊滅させたそうですね。さすがは師匠! そこが憧れる!」
一人感動に打ちひしがれた様子のローレンツ。どうやら実家に帰っていた期間も修行は真面目にやっていたようであり、夏休み前よりもガタイが大きくなっていた。さすが脳筋。
それよりも、だ。
「何でそのことをローレンツが知っているのかしら?」
半眼でローレンツをにらむ。すると隣にいたユリウスがローレンツの代わりに答えてくれた。
「イザベラ様がランドール公爵領で盗賊に襲われたという話は、王城にも届いているのよ。それを聞いたフィル王子が血相を変えて情報を集めるように命令していたわ。あのときは大変だったよ。自分も行くって言い出してね」
そのときを思い出したのか、ユリウスが苦笑している。それでも何とか王子を思いとどまらせることができたらしい。
ローレンツいわく、「師匠なら盗賊くらい小指でチョイですよ」と言って説得したそうである。
ローレンツよ、私を何だと思っているんだ。さすがに小指でチョイはなかったぞ。人差し指でペチンはあったけど。なおそれをされた盗賊は木の葉のように宙を舞った。私は悪くないぞ、多分。
「それにしても、イザベラ様が無事で本当に良かったわ。盗賊団をイザベラ様が壊滅させたって話が入って来なかったら、私もフィル王子と一緒に向かっていたかも知れないわ」
本当に心配をかけてしまったようで、ユリウスは「笑い話で済んで良かった」と笑って言ってくれた。いやちょっと。
「……どうして私が盗賊団を壊滅させたことになっているのかしら? 確かルークお兄様が壊滅させたことになっているはずよ」
「それはフィル王子がイザベラ様が心配で心配で仕方がなくて、徹底的に調べさせたからですわ。愛されておりますね、イザベラ様」
くっ、王子め、余計なことを。そのままお兄様の手柄にしておけば良いものの。このままではお兄様も「イザベラが全てやりました」って言いそうだ。ありえるわ。
「イザベラ様、ご無事でしたか! イザベラ様が盗賊団に殴り込みをかけたと聞いて、心配していたんですよ」
私を探しに来たのだろう。レオナールがわざわざAクラスがある建物まで来てくれた。Aクラスがある建物は、本来ならばAクラスの生徒でなければ入れない。
しかし、あの課外活動に参加した生徒たちは「今後も関わることになるだろうから」と言う理由で、学生証を入り口の警備員に見せれば入られるようになっているのだ。
だがちょっと待て。私のことを心配してくれたのはありがたいが、何だか話が違う方向になっているぞ。
「レオ、どうして私が殴り込みをかけたことになっているのかしら?」
「え? 違うんですか? クラスのみんなも「さすがイザベラ様だ」って称賛して――」
「ちがーう! 全然違う! 私は無実よ。向こうが殴り込みをかけて来たから、返り討ちにしただけよ!」
シン……と辺りが静かになった。何だろう、このやっちまった感じ。どうやら、何も知らずに楽しい夏休みを過ごした人たちまで知れ渡ったようである。
レオ、あとで絞める。ついでにローレンツも絞める。
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