悪役令嬢役を頼まれたので頑張ってはいるものの、何だか雲行きが怪しいですわ

えながゆうき

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黒い影

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 どうやらソフィアの言葉に困惑しているのは私だけではなかったようである。みんなも口々に「え? どういうこと?」とささやき合っている。
 そんな中、ユリウス、ローレンツ、ルーク、レオナールの四人は油断なくソフィアを見つめていた。その後ろには私とフィル王子。

 不穏な空気を感じたのか、先生たちが止めに入った。一部の先生は警備員を呼びに行ったようである。しかし、先生方が止める前にルークが叫ぶ。

「気をつけて下さい。彼女は強力な魔法を使うことができます。油断していると返り討ちに遭いますよ」
「まさか。こんな場所で魔法を使うわけグワー!」

 いきなりソフィアが魔法を放った。ルークの声のおかげで一応は警戒していたようであり、何とか回避は成功したようである。だが、無傷とはいかなかったようだ。顔をしかめながら同僚に引きずられて行った。

「まさか、魔法の杖を使わずに魔法を使うことができるとはね。才能だけはあるみたいだね」

 ルークは次の魔法を警戒しながら杖をソフィアの方へと向けた。
 王立学園では、安全のため、授業以外では魔法の杖の所有を認められていなかった。そのため、この場で魔法の杖を持っているのは先生方とこの国の王子のフィル王子だけである。

 つまり、生徒たちは自分を守るすべを持っていないのだ。これはまずい。下手に魔法を放つと周りに被害が出てしまう。もしかしてユリウスが帯剣しているのはこれを見越して……じゃないわよね。

 きっと魔法の杖の所有が認められないなら、剣を所有すれば良いじゃないと思っていたんじゃないかしら? うん、やりかねないな。脳筋ローレンツに影響されつつあるような気がする。これはこれで非常にまずいわ。

「どういうつもりかは知らないけど、退学になるのは間違いなさそうね」

 ユリウスがそう言い終わるのと同時に魔法が飛んできた。それをユリウスは剣で真っ二つに切り裂いた。どうやら剣は魔法の杖としても機能するようであり、ユリウスが得意な風魔法を組み合わせて切ったようである。あらやだ、かっこいい。

「レディに手を上げるのは気が引けるが、どうやら「か弱きレディ」ではなさそうだからな!」

 そう言ってローレンツがソフィアを止めようと近づいた。しかし、ソフィアが何か魔法を使ったのか、ローレンツは見えない壁に阻まれた。これは間違いなくバリア! ローレンツはそのバリアを破ろうと拳をたたきつけたが、ビクともしないようである。

「何っ!? 俺の拳で貫けないだと!」

 驚きの表情を浮かべるローレンツ。自分の拳には絶対の自信があったようである。とても悔しそうだ。これは帰ったら、今よりも厳しい筋トレを始めるな、きっと。両手、両足に重りとか付け始めたらどうしよう。止めるべきかしら。

「ローレンツ、下がれ!」

 ローレンツに向かって飛んできた火の玉をお兄様が氷の壁を作り出して防いだ。どうやらソフィアは普通にこちらを殺す気のようだ。ゲームバランスについては、この際、無視するようである。
 何とかこの場を穏便に納める方法はないかと考えていたのだが、一向に良い考えが浮かばない。

 間違いなく言えることは、私もソフィアも女神様に怒られるということだろう。ごめんなさいで済むかしら? いや、それよりも今は目の前に起きていることを何とかしないといけないわ。

「イザベラ、今、大地の精霊の声が聞こえた! 私がみんなを魔法でガードするから、イザベラはソフィア嬢を何とかしてくれ」

 大地の精霊の声? 何のことだかサッパリ分からないが、今はとにかくヨシ。フィル王子は魔法の杖を持っているので魔法は使える。きっと何か勝算があるのだろう。

 そんな困惑する私をソフィアが待ってくれるはずもなく、何やら大がかりな魔法を使い始めた。これはまずそうだ。あんな魔法が着弾したら、この辺りが一面瓦礫の山になってしまうわ。そうなればみんなが!
 ここは何としても私が食い止めなければ。

「お任せ下さい、フィル様!」

 ソフィアが使おうとしている魔法はゲーム内最強魔法ニュークリア・ブラスターだろう。ならば、同じ魔法を使って対消滅させる!

「役立たずが、こざかしい! まとめて消えろ!」

 ソフィアの魔法と、私の魔法がぶつかり合う。あとはこのままどっこいどっこいの状態を維持してソフィアの魔力をカラにするのだ。そうすればソフィアを無力化することができる。

 なあに、無限大の魔力量を持っている私なら問題ない。この魔法は魔力量のすべてを消費する究極の魔法なのだ。すぐにソフィアが力尽きるだろう。

「ぐうッ、バカな! な、なぜ!?」

 力比べを始めて十秒もたっていないが、早くもソフィアの顔がゆがみ出した。
 なぜって、ゲームの中のソフィアは強いと言っても、魔力量が設定されている。どんなに頑張っても上限値の壁を超えることはできないのだ。

 私は涼しい顔をして押し合いを続けた。ソフィアは止めるに止められない様子である。ソフィアの顔はどんどん険しくなって――。そのうちソフィアの体から黒い影のようなものがあふれ出した。

 何あれ? どう見ても邪悪な何かだわ! まさか邪悪な精霊がソフィアの体を乗っ取っていたのかしら!?
 ありえるわ。ソフィアは「邪悪な人間だけを操ることができる」みたいな発言をレオナールがしていたしね。きっとそうだわ。

 そうこうしているうちにも、ソフィアから黒い影が湧き出してゆく。そしてソフィアの魔法が途切れると同時に、その黒い影はあっという間にダンスホールの天井をすり抜けて天へと昇って行った。
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