完結 R20 罪人(つみびと)の公爵令嬢と異形の辺境伯~呪われた絶品の契約結婚をお召し上がりくださいませ 改稿版

にじくす まさしよ

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「苦し紛れになんという嘘を吐くんだ! 証言が多数あると言っているだろう!」
「証言をされているのは、殿下やそこにいる方々だけでございますわよね? せめて、双方と無関係の者の証言が半数ないと信憑性に欠けると言わざるを得ません。あと、証拠は? ありませんよね? だって、しておりませんもの……グスッ……。それよりも以前からのヤーリ殿下の……ああ、このような事は言うつもりは……。うう……、取り乱してしまい、申し訳ございません。確かに、殿下が真に愛する彼女と愛し合うようになって、心が少々傷つきましたわ。あ……、今は、わたくしの気持ちなどどうでもいいですわね……大変失礼致しました」

 わたくしは、これまでの王子から受けた数々の屈辱的な日々を思い出す。辛かった。本当に、尻ぬぐいに毎日追われて大変だった。女性とのトラブルの解消もたいがい酷いものだったけれど、そんな事よりも、彼が気まぐれに公務に携わった事で起こった、外交トラブルの処理で毎日睡眠不足になっていたほど。

 そんなわたくしが、たかが、数多いる彼の女性関係の事で数分たりとも時間が避けるはずがない。なんなら、女性関係の不祥事が耳に入る度に、もっと上手くやれと、彼の女遊びのノウハウを認めたマニュアルや恋の達人を送り付けたくて仕方がなかった。
 そもそも、今も王子の周囲に控えている側近たちも、王子と似たり寄ったりのボンクラぞろい。まさに類は友を呼ぶとはこの事だ。この件を切っ掛けにして、彼らもそれぞれの婚約者の家から見放されるだろう。

「お、おい……。まさか、お前。私の事を……?(素直に好きだと言ってくれてたら激しく抱いてやったのに……胸はアレだが顔は可愛いし)」

 ヤーリが口にしていないというのに、盛大な勘違いをしているような気がしてぞっとした。やめてください。気持ち悪いから、そんな目で見てこないでいただきたい。あと、胸元をいやらしい目つきではなく、憐れみの目で見てくるなど、失礼すぎて万死に値する。

 背筋がぞぞーっとして血の気がひく。冗談ぬきで青ざめているかもしれない。

「コホン、とにかく、分かっていただけなかったわたくしの不徳と致すところ……どうか、お幸せになってくださいまし」
「キャロライン……。お前の気持ちはわかった。だが、お前のした事は許されない。それはわかるだろう?」

 
 わたくしの一世一代の大根演技に、勢いを無くして思わずわたくしに手を伸ばし始めたヤーリ。何やらセリフが、ぞわぞわするほど優しさが込められている気がする。いい加減、堪忍袋の緒をずたずたにして、小さな糸くずになったそれに火をつけて一片の灰すら出ないようにしてやりたい。

 彼の隣にいる彼女も、そんな心の小さな変化を見逃さなかったようだ。ぐいっと、ヤーリの腕を引き寄せて、ふわふわな大きな胸に包み込んだ。効果は抜群だったようで、たちまち彼の意識は180%彼女に向いた。
 
 衆目の中、はしたない言動ではあるものの、「とってもいい仕事をするじゃない」と、このような場面じゃなければ親指を立ててグッジョブと彼女を褒めたたえたくなる。

「殿下が、何をもってわたくしのその罪とやらを信じていらっしゃるのか……。わたくしたちの間に生じた行き違いは、いずれ明らかになるかと。それとも、殿下が無理やりわたくしを罪人にしたくて? わたくしは、それほどまで嫌われていたのでしょうか……」
「だから、証人が多数なのだと言ってるだろう! お前の、私に対する気持ちに気付かなかったのは、その、なんだ。悪かったとは思うが、それはそれ、これはこれだ。きちんと罪を認めろ!」
「ですから、やっていませんと何度も申し上げました。これ以上、無実のわたくしに好き放題言うのはおやめください……」

 我がバヨータージユ家を、あまり舐めないでいただきたいものですわね。王家からの監視もわたくしにはありましたし、証言だけでなく証拠を揃えてみせましょう! せいぜい、王と父たちの帰還を楽しみになさっていてくださいませね?

 こう言いたい。あああ、思いっきりデレっとして、わたくしを憐れみの目で見ているその整った顔を、触るのも嫌だけれどグーパンしながら叫びたい! 

 つくづく、ふたりっきりじゃなくて良かったと思う。これで周囲の目がなければ、ヤーリが立ちあがれないほど20000倍返しをしていただろう。

 そんな茶番を繰り広げている間に、わたくしが悪女になる事を喜ぶ周囲の人々の心に、王子への疑念が芽生え始めたようだ。わたくしに同情の視線が注がれざわつき始める。

 流れがこちらに向いた今、さらに、王子たちの信用を失わせる爆弾を仕込むとしよう。

「恐れながら、殿下……。先ほど仰られた辺境伯爵様への暴言。これについては、いくら殿下とはいえ看過できません。今後、殿下の命で正式に彼の妻となるわたくしから、お二人に対して抗議させていただきますから、そのおつもりで」

 会場中に響き渡るように、しっかりと言い放ったその言葉を聞いて、目の前のふたりは一瞬何を言われたのかわからなかったのか、ぽかんとしたのである。

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