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辺境伯とは、あれから2度一緒に食事をした。忙しい彼は、日中に、まとまった自由な時間をほとんど取る事が出来ないらしい。仕事が山積みのため、食事は執務室で5分で終わらせているのだとか。
「僕は、君さえ嫌でなければ、いつでも会って話をしたい」
「辺境伯爵様……。嬉しいですわ。わたくしも、お会いしたいです」
彼と初めて会った日、エスコートをされた彼の逞しい腕を思い出す。別れ際に、触れた腕から手を離すのが惜しい気がして、そっと彼を見上げた。すると、彼もまた、わたくしを青い瞳で見つめてくれていて、少しの沈黙のあと言ってくれた言葉に喜んだ。
第一回めの昼食会が大成功を収めた事もあり、わたくしが開催するバーベキューの参加希望者がどんどん増えていった。
何が成功したかというと、侍女と騎士のカップリングだ。初回から、すでに4回開催している昼食会で、すでに5組が成立している。
この辺境では、女性がやや少ない。魔物を一撃で葬りさる強い騎士たちは、人気ではあるものの長期間不在になる事が多く、やはり危険を伴うので女性は身近にいる人を選ぶ傾向にあった。
ところが、普段は武骨で荒々しい騎士たちが、バーベキューで侍女たちに食事をとり分けたり、こまめに接する事で、遠巻きに見ていた侍女たちには新鮮に映ったようだった。もともと、自分たちを守っている騎士を尊敬していた彼女たちは、強く逞しいだけでなく、優しくて気配りが利く彼らに心を寄せるようになったのである。
人気急上昇中の騎士たちだけに美味しい所を持っていかれては堪らないと、様々な職種の男性も参加するようになる。すると、わたくしの手伝いをする侍女たちだけに、人気の男性たちを独り占めさせるなんてズルいと各所からクレームが入った。
今では、20倍の参加希望者の抽選に当たった30人規模の昼食会を、週に2回開いている。参加できない大多数に、毎日でも開催して欲しいという手紙が、離れの一室を埋め尽くす勢いで届けられていた。
決して、そのような目的で開いたわけでない。趣旨が若干違っている事に多少モヤるが、参加動機はともかく、結果的に、わたくしと彼らも話をするようになり、今では挨拶だけでなく、ちょっとした世間話が出来るようになったのは重畳。
男たちが、昼食会に持って来る食物や果物を意中の女性に渡して、それを女性が料理して仲良くふたりで食べるという謎のルールが、わたくしのあずかり知らぬところでいつの間にか出来上がっていた。
あぶれた者たちも、バーベーキュー参加を切っ掛けに、どこか一線を引いていた彼らの距離が縮まったのか、日常でも明るく話をする男女の姿が目につくようになったのである。
今日は、ウールスタとシュメージュと一緒にスイーツを作っている。やはりというか、味付けや粉の調合、混ぜ合わせなどは一切手伝わせて貰えず、苺のヘタを取り終ると暇になった。
「ふふふふふ、 ふ、ふ、ふふふふ。やだぁ、そんな……恥ずかしいですわ」
「お嬢様、少々、お顔が見てはならぬモノになっております。まるで若い女の子を狙う、イヤラシイ変態のおっさんのようですよ。全く、声まで出してはしたない。はぁ、妄想の中で辺境伯爵様とデートを楽しむのも結構ですが、火を熾しているのですからご注意ください」
「はっ。わたくしったら、つい! そうね、しっかりしなきゃ。ウールスタが2000層まで畳んで仕上げてくれたミルフィーユの生地が焦げてしまうわ」
火熾し係を地道にしているわたくしは、退屈過ぎて色んな想像をしてしまう。にやついただらしない顔を、彼に見られては大変だと、ぺちぺち顔を叩いては表情を元に戻す事を繰り返してた。
「あの、奥様。少々お聞きしても?」
「シュメージュ、改まってどうしたの? なんでも聞いていいけど」
カスタードクリームを鍋で作っているシュメージュが、火から鍋を降ろして作業を続けながら言葉を続けた。
「あの……旦那様のお姿をご覧になられても、奥様は普段通りなので、それは大変喜ばしく、私も夫も喜んでおります。勿論、旦那様も……。ですが、本当に、旦那様のお姿が気にならないのでございますか? その……差しでがましい事だとは思うのですが、やはり、旦那様も気になされていて……」
言いづらそうにそういうシュメージュの言葉を聞き、意味がよくわからず暫く考え込んだ。いくら考えても、質問の意図がわからないので、素直に答える事にした。
「シュメージュ、一体、何の話をしているの? 辺境伯爵様のお姿に、おかしな所なんてないわよね」
わたくしがそう言うと、今度は、ミルフィーユが出来たらつまみ食いをしようと虎視眈々と狙っているトーンカッソスが素っ頓狂な声をあげた。
「お嬢様、おかしな所が無いって……、いやいや、一番目立つ所にあるでしょう?」
重ねるように言われたので、火から目を離さないようにしつつ考え込んだ。すると、彼の姿を思い出し、ある事に気付いたのである。
(ははーん、シュメージュもトーンカッソスも。きっとアレの事ね。他の人にはないもの。でも、そんなに気にしなくても、わたくしは気にしないのに)
ようやく合点がいき、わたくしはその答えをするために、わたくしを見ている彼らに微笑んだのであった。
「僕は、君さえ嫌でなければ、いつでも会って話をしたい」
「辺境伯爵様……。嬉しいですわ。わたくしも、お会いしたいです」
彼と初めて会った日、エスコートをされた彼の逞しい腕を思い出す。別れ際に、触れた腕から手を離すのが惜しい気がして、そっと彼を見上げた。すると、彼もまた、わたくしを青い瞳で見つめてくれていて、少しの沈黙のあと言ってくれた言葉に喜んだ。
第一回めの昼食会が大成功を収めた事もあり、わたくしが開催するバーベキューの参加希望者がどんどん増えていった。
何が成功したかというと、侍女と騎士のカップリングだ。初回から、すでに4回開催している昼食会で、すでに5組が成立している。
この辺境では、女性がやや少ない。魔物を一撃で葬りさる強い騎士たちは、人気ではあるものの長期間不在になる事が多く、やはり危険を伴うので女性は身近にいる人を選ぶ傾向にあった。
ところが、普段は武骨で荒々しい騎士たちが、バーベキューで侍女たちに食事をとり分けたり、こまめに接する事で、遠巻きに見ていた侍女たちには新鮮に映ったようだった。もともと、自分たちを守っている騎士を尊敬していた彼女たちは、強く逞しいだけでなく、優しくて気配りが利く彼らに心を寄せるようになったのである。
人気急上昇中の騎士たちだけに美味しい所を持っていかれては堪らないと、様々な職種の男性も参加するようになる。すると、わたくしの手伝いをする侍女たちだけに、人気の男性たちを独り占めさせるなんてズルいと各所からクレームが入った。
今では、20倍の参加希望者の抽選に当たった30人規模の昼食会を、週に2回開いている。参加できない大多数に、毎日でも開催して欲しいという手紙が、離れの一室を埋め尽くす勢いで届けられていた。
決して、そのような目的で開いたわけでない。趣旨が若干違っている事に多少モヤるが、参加動機はともかく、結果的に、わたくしと彼らも話をするようになり、今では挨拶だけでなく、ちょっとした世間話が出来るようになったのは重畳。
男たちが、昼食会に持って来る食物や果物を意中の女性に渡して、それを女性が料理して仲良くふたりで食べるという謎のルールが、わたくしのあずかり知らぬところでいつの間にか出来上がっていた。
あぶれた者たちも、バーベーキュー参加を切っ掛けに、どこか一線を引いていた彼らの距離が縮まったのか、日常でも明るく話をする男女の姿が目につくようになったのである。
今日は、ウールスタとシュメージュと一緒にスイーツを作っている。やはりというか、味付けや粉の調合、混ぜ合わせなどは一切手伝わせて貰えず、苺のヘタを取り終ると暇になった。
「ふふふふふ、 ふ、ふ、ふふふふ。やだぁ、そんな……恥ずかしいですわ」
「お嬢様、少々、お顔が見てはならぬモノになっております。まるで若い女の子を狙う、イヤラシイ変態のおっさんのようですよ。全く、声まで出してはしたない。はぁ、妄想の中で辺境伯爵様とデートを楽しむのも結構ですが、火を熾しているのですからご注意ください」
「はっ。わたくしったら、つい! そうね、しっかりしなきゃ。ウールスタが2000層まで畳んで仕上げてくれたミルフィーユの生地が焦げてしまうわ」
火熾し係を地道にしているわたくしは、退屈過ぎて色んな想像をしてしまう。にやついただらしない顔を、彼に見られては大変だと、ぺちぺち顔を叩いては表情を元に戻す事を繰り返してた。
「あの、奥様。少々お聞きしても?」
「シュメージュ、改まってどうしたの? なんでも聞いていいけど」
カスタードクリームを鍋で作っているシュメージュが、火から鍋を降ろして作業を続けながら言葉を続けた。
「あの……旦那様のお姿をご覧になられても、奥様は普段通りなので、それは大変喜ばしく、私も夫も喜んでおります。勿論、旦那様も……。ですが、本当に、旦那様のお姿が気にならないのでございますか? その……差しでがましい事だとは思うのですが、やはり、旦那様も気になされていて……」
言いづらそうにそういうシュメージュの言葉を聞き、意味がよくわからず暫く考え込んだ。いくら考えても、質問の意図がわからないので、素直に答える事にした。
「シュメージュ、一体、何の話をしているの? 辺境伯爵様のお姿に、おかしな所なんてないわよね」
わたくしがそう言うと、今度は、ミルフィーユが出来たらつまみ食いをしようと虎視眈々と狙っているトーンカッソスが素っ頓狂な声をあげた。
「お嬢様、おかしな所が無いって……、いやいや、一番目立つ所にあるでしょう?」
重ねるように言われたので、火から目を離さないようにしつつ考え込んだ。すると、彼の姿を思い出し、ある事に気付いたのである。
(ははーん、シュメージュもトーンカッソスも。きっとアレの事ね。他の人にはないもの。でも、そんなに気にしなくても、わたくしは気にしないのに)
ようやく合点がいき、わたくしはその答えをするために、わたくしを見ている彼らに微笑んだのであった。
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