完結  R18 転生したら、訳ありイケメン騎士様がプロポーズしてきたので、回避したいと思います

にじくす まさしよ

文字の大きさ
16 / 23

10 キヨクたんは当時の象徴と言うかあこがれというか。とにかく、ありがとうございましたぁ!

しおりを挟む
 今、私は死んだ魚の目をしている。と、思う。

「ボウウ、婚約おめでとう! 俺たちは早々に推しをあきらめて他の女の子に浮気してしまったけど、最後まで初恋を捨てずにいたお前が報われて、推しと結ばれるなんて。俺たちも自分のことのように嬉しいぞ!」
「ありがとう。脈がないからあきらめようとしたんだが、皆があきらめるなと卒業式に背中を押してくれたおかげだ」

 ボウウ様に、アースリケージへ連行、いや、デートするために連れて来られた瞬間、待ってましたとばかりに彼の同僚たちに囲まれた。どうやら、私を皆に紹介したかったらしい。

 はにかみながら、同僚の騎士様がたに「皆、俺の妻だ」と紹介した。

 ちょ、まだ、妻じゃないから! そう即時に訂正したい。でも、祝福のムード満載のここでそう言える人はいないと思う。その横顔もかっこいい。イケメンはどんな姿でもかっこいいのかよー。イケメンだからって、なんでも許されると思ったら大間違いなんだぞ。イケメンだからって!

「キヨクたん、僕のこと覚えてますか? 僕、あれから部隊長になったんです! あの時、キヨクたんが『がんばってね♡』って激励してくれたおかげです!」

 覚えてません。すみません。

「お前、抜け駆けやめろよ! キヨクたん、俺、あの時キヨクたんと握手してもらってから手を洗ってないんですよ!」

 冗談でもきちゃないことは言わないでよー。やだー。

「お前、キモいこと言うなよ! キヨクたんがドン引きじゃねーか。すんません、こいつのたちの悪い冗談は笑い飛ばしてください。真面目な話、あの頃は、皆ほんとキヨクたんのおかげで頑張れたんです。俺たちにとって、キヨクたんは当時の象徴と言うかあこがれというか。とにかく、ありがとうございましたぁ!」

 最後に、ファンクラブの会長みたいなポジにいる青年が頭を下げると、他の面々も「ありがとうございましたぁ!」と一斉に叫んで私を囲んだ。体育会系の熱気ごと。アチチチチ。ちょ、離れてー。ハウス、ステーイ!

 頼むから、そのキヨクたんはやめてー。見られてる、見られてるから。周囲の紳士淑女が、なんだなんだと見てるから! ああ、しばらく外を歩けないぃー。

 なんてこと、お祭り騒ぎのようになっている彼らを前にして言えるはずもない。ええ、ボウウ様との婚約といい、私はNoと言えない(元)日本人。

「え……と。あ、あの、皆さんがあの時にご協力していただいてからも、ずっと鍛錬を続けていたとボウウ様から聞きましたの。皆様の頑張りのお陰で、例年にない功績をあげられたとか。素晴らしいですわ」

 私が微笑んで社交辞令を伝えると、体育会系騎士様がたは全員照れて笑った。ボウウ様が言うには、毎年1/3は脱落するらしいのに、その年は全員騎士になったみたい。

 複雑だけど、私の存在が彼らの心の支えになったことは、素直に嬉しく思えた。黒歴史だけど。全員の記憶から、あの頃の私を消去したい。せめて、たん呼びは絶対にやめさせてやると心に誓った。

「妻の紹介も済んだし、もういいだろ? お前らもデートでもなんでも行ったらどうだ」

 私が人ごみに疲れたことを察知したのか、ボウウ様がうまく騎士様たちを散らしてくれた。

「キヨクは、何度も来たことがあるんだよな?」
「いいえ。いつも限定スイーツを、おじいちゃまやおじさまがたに買って貰っていただけです。なので、ここに男性とくるのは、初めてですわ。お父様の誕生日祝いに家族と来たっきりなんです」

 流石、王室御用達の老舗の高級スイーツ店。重厚感と清潔感、そして、きらびやかなのに心が落ち着く絶妙な店内の調和に、余計なことを言ってしまった。

 言ってから、しまったと思ったが、もう遅い。

 ここで、数名の男性と何度もデートしたことがあると言ったほうが、幻滅されてフラレるチャンスも生まれたというのに。嘘ではない。おじいちゃま、おじさまとは、テイクアウトだけど限定スイーツのきのこのアレを受け取ったことが何度もあるもの。

「そうか、俺とがはじめてなのか。光栄だな」

 ボウウ様は、それはもう嬉しそうに目を細めて微笑んだ。歯並びの良い白がキラっと光った気がする。

 案内された場所は、2階のテラス席。ここから店内や外の景色が一望できる。

 下からはかなり顔をあげて見上げないと見えない位置で、彼は護衛として、第三王子や聖女様を狙う犯罪者を警戒していたのだという。何度か、無理やり聖女様をさらおうとした悪漢を、王子とともに取り押さえたらしい。

「一般人では考えられないほど、大変なお仕事だったんですね」

 それは、ゲームの好感度アップのためのイベントだろう。ただ、この世界に生きる彼らにとっては、本当に命にかかわる出来事だったに違いない。
 
 私は、攻略キャラ全員が無傷でゲームのヌケドメルートのエンドを迎えることができた聖女様に感心した。このゲームは、ひとつ選択を誤ると、誰かが一生残ってしまう怪我を負う。
 事前情報も、攻略サイトの閲覧もできない彼女が、どうやって100%の達成を果たしたのか、少しだけ気になった。

 ふたりで、紅茶とショコラセカンド・サックサクマウンテンがおまけでついている、限定のスイカとメロンと社員マスカットの冷たいスイーツが運ばれてきた。

 半分に割ったスイカの皮を器にして、シャーベット状になったそれらが、一口大のボールになって入っていた。長時間シャーベットを維持できるように、器には魔法で氷魔法がかけられている。

 はて? なぜにひとつ……?

 そのスイーツは、私とボウウ様の前にでーんと置かれた。それはいい。こんなに大きいスイーツ、ひとりで食べる人なんてそうはいないだろうか。解せないのは、二股のフルーツフォークがひとつだということだ。

「ご注文いただいていたお帰りの際のスイーツは準備しておりますのでご安心ください。それでは、このスイーツよりも甘いひとときをおすごしください」

 洗練された礼と共にスタッフが出ていく。そして、対面に座っていたボウウ様が、ゆっくり私の隣に座り、ひとつしかないフルーツフォークでスイカを刺したと思ったら、私に向かってそれを差し出してきたのだった。




 サク山チョコ〇郎さん、美味しいですよね。どうしてあんなにも少なくなったのでしょうか( ノД`)シクシク…


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳 どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。 一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。 聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。 居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。 左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。 かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。 今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。 彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。 怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて ムーライトノベルでも先行掲載しています。 前半はあまりイチャイチャはありません。 イラストは青ちょびれさんに依頼しました 118話完結です。 ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。

りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~ 行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...