【完結】【R18】初恋は甘く、手が届かない? ならば、その果実をもぎ取るだけだ~今宵、俺の上で美しく踊れ

にじくす まさしよ

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好きだからこそ、触れられない③

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「フラット、ヴァイス、わたくしの事を置いて、二人だけで話をして決めないでください!」


 フラットがいきなり話し出し、サヴァイヴが誓いを口にした。だが、自分の事なのに二人だけで決められていく事に対して憤りを感じて毅然とした態度で声をかける。

「イヴ」
「ヴィー」

 男二人は、肝心の愛する女性の気持ちを置きざりにして、またもや蔑ろにしている現状に気付いて押し黙る。

「フラット、ここ数か月の事は貴方の口から何も聞いていません……。ある程度の情報は得ていましたが、わたくしは貴方からの言葉をお待ちしていました。それに、ヴァイスも。いつだってわたくしの事なのに、お父様も、貴方たちも勝手に決めていく。でも、今回の事はこれまでのようにただ黙って承服する事は絶対に出来ないししません。このままお二人で話を進めると言うのであればわたくしにだって考えがあります……。お願いします。まずは、フラットと二人きりにしていただけませんか?」



 二人は戸惑い不安げにイヴォンヌを見つめていたが、彼女の瞳には固い決意が見える。二人の仲を取り持つと口に出したも同然の王子とサヴァイヴは、目を合わせた。

 沈黙が三人の間に訪れる。だが、程なくしてサヴァイヴは一礼し部屋から立ち去り、部屋にはイヴォンヌとフラットだけになった。


「……、フラット……、わたくし……、貴方の閨の出来事やあの女性がしでかした事を知っています……。この事が今回の騒動の根本原因なのでしょう?」

 驚愕するフラット。彼女にだけは知られたくなくて絶対に隠し通すよう命令もしていたのにも拘らずどうしてと目を見開いた。心臓の動きが熱く激しくなるのと反比例するかのように体が冷えていく。

「……ど、うし、て……」

 知っているんだと続く言葉を出せずに唇が開いたまま押し黙る。


 フラットに向き合い、背筋をピンと伸ばしたイヴォンヌの瞳はやや潤んでいた。

「父も知っていたはずです。特に父からは聞いた事はありませんが、やはり、完全に無かった事にはなかなかできません。王子妃として教育を受けるため王宮に出入りすると、希代の悪女たる彼女の事件で、公式に記されている内容とは違う、小さな声がどんどん集まり、やがて、貴方が辛い目にあった事を知りました……」

 眉を下げ、悲しそうにイヴォンヌがそう言うと、フラットは肩を落とし、視線を自らの膝に落として拳を握った。

「イヴ……。はは、君にだけは知られたくなかったのに……」

 時がすぎ、沈黙だけが二人の間を流れていく。顔を見合わせ、様々な感情を宿す視線を交差させた。

「いつからだ? いつから、気づいていたんだ?」
「学園に入る前です……。いつ貴方から打ち明けられてもいいように心構えはしていました。でも、言えない事情や、言いたくなかった気持ちも理解していたので、貴方を注意深く見ていました……。わたくしは、婚約してから、貴方だけをずっと見ていたんです……」

「そうか……」


「それに、数か月前、貴方が変わられる少し前に静養されていましたよね? 父もその時から、色々動いていたのでしょう? わたくしとてこれでも王子妃として教育されて来ていて懇意にしている人々もいます。守られているばかりの女性だと見くびっておられましたか?」

「……いや。君はとても優秀な女性だ。僕には勿体ないほど賢く芯が強く、そして行動力もある……」

「フラット……。偉そうにこんな事を言ってごめんなさい、誰よりも傷ついているのは貴方だというのに。貴方に寄り添い支えるべきなのに。そうしたいと思いながら、わたくしの一言で、貴方がこれ以上傷つくのが怖かった……。それに、婚約解消がなされなかったでしょう? ですから、いずれは貴方から説明され、予定通り結婚してくださるのかと信じていたのです……」

 二人の視線がそれぞれの膝に落ちる。テーブルにセットされたお茶は、一口も減っていない。

「イヴ……。ごめん。僕は、君に幸せになって欲しくて。こうする事が君のためになるかと思って。いや、違うな……。僕は、君にだけは知られたくなくて、怖くて。君に向き合う事から逃げていたんだ……」

「……。フラット、周囲は上手くあなたの演技に騙されていましたが……。とはいえ、少年を侍らせた時には流石に混乱したんですよ?  でも、カッサンドラ様にお決めになられたんですよね?  あの方も争いの絶えない両国の平和のため、貴方の信念やお人柄に触れて頷かれた。違いますか?」

 二人の視線は合わない。イヴォンヌは、少し顔を上げて、項垂れた彼のつむじをじっと見つめながら、今まで彼に言えなくて、伝えたかった事を少しずつ言葉にしていく。

「そうだ。カッサンドラは完全な政略結婚に頷いてくれた。それに、彼女には愛し合う人がいて、その男と一緒に来るよう伝えている。子は望めないし公に出来ないがそれでいいと。芯が強く、貴族としての理念も素晴らしい女性だ。それにしてもディシヴィアの事までお見通しだったのか」

「ええ。そうでなければ泣き暮らし、傷ついてとっくに修道院にでも入っていました。浮気心などといった馬鹿げた貴方の噂そのものよりも、貴方に打ち明けられないほど信じていただけない事が悲しかった。でも、貴方からの言葉を待ち続けたわたくしの判断ミスですわね……。わたくしも貴方と向き合う事から逃げていましたから……」

「そんな、イヴは悪くなんてない。誰よりも幸せにしたい君の気持ちを蔑ろにしていた僕が悪いんだ。僕が、一番大切にしたい物を見失ったから……。傷つけてごめん……」

「フラット……。わたくしがあの日から貴方だけを見てきたのは本当なのよ? 貴方と二人の未来を夢見てもいたんです……。いつか、貴方と、いずれ産まれて来る小さな命たちと幸せになる事を。でも、こうなるまで、知った事を打ち明ける事もできず、貴方の優しさと愛に甘えて、不甲斐ない自分を棚にあげていたんです。わたくしは卑怯で、小さくて……。それに、こんな事を言いながら、考えながらも、どうしても彼を忘れられなかった。貴方に愛される資格なんて、最初からこれっぽっちもなかったんです。ごめんなさい……」

 イヴォンヌは、誰よりも傷ついたはずのあなたに支えられて、愛をもらいながらぬるま湯にいた。これまで知っている事を隠して、心を隠して誤魔化して騙していた自分を処分してくれと呟くように伝えた。

「ここまで拗れてしまい、噂は真実になりつつある。婚約継続を願っていた陛下たちも父も、貴方とわたくしの婚約を解消する動きに転じている今、わたくしは、もう貴方との未来はないのでしょう? でしたら、わたくしは、彼の元にも行きません。修道院に行きますから、貴方の思うように解消なさってください」

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