51 / 58
今宵、俺の上で美しく踊れ①
しおりを挟む
サヴァイヴとイヴォンヌの昨日からの噂と、彼の求婚を受け入れて晴れて婚約状態になった二人の報を一番喜んだのは勿論フラットだった。
つきりと胸が痛みもするが、遠回りした彼らの恋の成就に目を細めた。
「カッサンドラ嬢、ありがとう」
「あら? わたくしは友人である彼女の背を押しただけでしてよ?」
「ははは、そうだね」
フラットとカッサンドラに与えられた小さな部屋からは、騎士の鍛錬場が一望できた。小さな影のような姿ではあったが、二人の様子を見守っていたのである。
「フラット様、これから忙しくなりますわね?」
「ああ。もう二度と、悲しみが両国で産まれないように……」
「わたくしたちの絆が強くなり、両国が強く結びますように……」
チンとグラスが小さく鳴る。
目の前に座るこれから一生を共にするパートナーと共に、小さな祝杯を飲み干した。
※※※※
早急に両家の話し合いがなされ、卒業前には正式に婚約をした二人。やがて、卒業の日になり、それぞれの歩む道の岐路に立たされた彼らは、思い思いに話し、時に笑い、時に泣いた。
「イヴォンヌ様……寂しいですわ……」
「どうか、お元気でお過ごしくださいませね」
ミレーヌとリリアーヌは、涙ぐみながら、恐ろしい男に嫁ぐ事になった親友を見送る。大切なイヴォンヌをかっさらっていく鬼のような大男は、現在騎士の男子たちに囲まれ賑やかに囃し立てられていた。
「イヴォンヌ様、またお会いしましょう」
「カッサンドラ様。是非とも……」
カッサンドラもまた、挨拶などで忙しい合間をぬってイヴォンヌと話す時間を設けた。そこにフラットの姿はない。彼は彼で様々な生徒や教師たちと談話している。
「もしも、彼に泣かされたらすぐにいらっしゃいね?」
「まあ、カッサンドラ様ったら……。そのような事は……ないと言いたいのですが前科がありますから、その時には是非に」
「ふふふ、こんな事言ってはいけないとは思いますがすぐに来てくださっても結構よ?」
「カッサンドラ様、ずるいです。それならわたくしの家にきてくださいませ!」
「そうですわ、皆様。イヴォンヌ様はわたくしの家に……!」
「まぁ、皆様ったら」
半分以上は本気に思える彼女たちと、悲しい思いをしたらすぐに彼女たちの所に行くことを約束させられた。やがて、カッサンドラが去り、ミレーヌとリリアーヌも婚約者と共に自らの場所へ歩いて行った。
「ヴィー」
ほどなくして、友人たちに信用されない、イヴォンヌのただ一人の人がやってくる。大きな体に頬に傷がある厳つい人だ。
昔、小さな頃に彼にプレゼントしたリボンは先日飛んで行ってしまいすでにない。新たに彼女に贈られた、それと同じ色をしたリボンで括られている髪も手入れがいきとどいていない彼女だけの野獣。
「ヴァイス」
皆から畏怖される彼は、イヴォンヌの呼び声に対して、すぐに子犬のようになる。
「ふふふ、わたくしだけの野獣様ね?」
「ヴィー? 何か言ったか?」
「素敵な騎士様だって言ったの」
「そうか……」
照れながら頭をかく姿すら、周囲の女性は恐れているようだ。周囲からはイヴォンヌが泣く泣く彼の元に行かねばならないという認識しかされていない。
サヴァイブは、かつて聞かされていた両親の馴れ初めを思い出していた。そして、二人の真実は二人だけが知っていればいいと言っていた事も。
サヴァイブは、周囲から何と言われているのかをよく知っていた。本当は違うのにと、父の言葉を思い出して苦笑すると、たった一つ何があっても守りたい宝物にそっとキスを落としたのであった。
つきりと胸が痛みもするが、遠回りした彼らの恋の成就に目を細めた。
「カッサンドラ嬢、ありがとう」
「あら? わたくしは友人である彼女の背を押しただけでしてよ?」
「ははは、そうだね」
フラットとカッサンドラに与えられた小さな部屋からは、騎士の鍛錬場が一望できた。小さな影のような姿ではあったが、二人の様子を見守っていたのである。
「フラット様、これから忙しくなりますわね?」
「ああ。もう二度と、悲しみが両国で産まれないように……」
「わたくしたちの絆が強くなり、両国が強く結びますように……」
チンとグラスが小さく鳴る。
目の前に座るこれから一生を共にするパートナーと共に、小さな祝杯を飲み干した。
※※※※
早急に両家の話し合いがなされ、卒業前には正式に婚約をした二人。やがて、卒業の日になり、それぞれの歩む道の岐路に立たされた彼らは、思い思いに話し、時に笑い、時に泣いた。
「イヴォンヌ様……寂しいですわ……」
「どうか、お元気でお過ごしくださいませね」
ミレーヌとリリアーヌは、涙ぐみながら、恐ろしい男に嫁ぐ事になった親友を見送る。大切なイヴォンヌをかっさらっていく鬼のような大男は、現在騎士の男子たちに囲まれ賑やかに囃し立てられていた。
「イヴォンヌ様、またお会いしましょう」
「カッサンドラ様。是非とも……」
カッサンドラもまた、挨拶などで忙しい合間をぬってイヴォンヌと話す時間を設けた。そこにフラットの姿はない。彼は彼で様々な生徒や教師たちと談話している。
「もしも、彼に泣かされたらすぐにいらっしゃいね?」
「まあ、カッサンドラ様ったら……。そのような事は……ないと言いたいのですが前科がありますから、その時には是非に」
「ふふふ、こんな事言ってはいけないとは思いますがすぐに来てくださっても結構よ?」
「カッサンドラ様、ずるいです。それならわたくしの家にきてくださいませ!」
「そうですわ、皆様。イヴォンヌ様はわたくしの家に……!」
「まぁ、皆様ったら」
半分以上は本気に思える彼女たちと、悲しい思いをしたらすぐに彼女たちの所に行くことを約束させられた。やがて、カッサンドラが去り、ミレーヌとリリアーヌも婚約者と共に自らの場所へ歩いて行った。
「ヴィー」
ほどなくして、友人たちに信用されない、イヴォンヌのただ一人の人がやってくる。大きな体に頬に傷がある厳つい人だ。
昔、小さな頃に彼にプレゼントしたリボンは先日飛んで行ってしまいすでにない。新たに彼女に贈られた、それと同じ色をしたリボンで括られている髪も手入れがいきとどいていない彼女だけの野獣。
「ヴァイス」
皆から畏怖される彼は、イヴォンヌの呼び声に対して、すぐに子犬のようになる。
「ふふふ、わたくしだけの野獣様ね?」
「ヴィー? 何か言ったか?」
「素敵な騎士様だって言ったの」
「そうか……」
照れながら頭をかく姿すら、周囲の女性は恐れているようだ。周囲からはイヴォンヌが泣く泣く彼の元に行かねばならないという認識しかされていない。
サヴァイブは、かつて聞かされていた両親の馴れ初めを思い出していた。そして、二人の真実は二人だけが知っていればいいと言っていた事も。
サヴァイブは、周囲から何と言われているのかをよく知っていた。本当は違うのにと、父の言葉を思い出して苦笑すると、たった一つ何があっても守りたい宝物にそっとキスを落としたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる