【完結R18】おまけ召還された不用品の私には、嫌われ者の夫たちがいます

にじくす まさしよ

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26 Goeie môre 誕生日プレゼント

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「カレン、今日はね、カレンのお義兄様がいいものを持って来てくれたんだって。カレンがとても好きだったらしいから、今日はそれで遊ぼうか」

「え~、スケートがいい。ゼクスの背中に乗って、水中のシビルと競争したいもん」

「はは、俺もそうしたいけど、それはいつでも出来るだろう? ほら、誕生日プレゼントを持って来てくれたんだ。見に行ってみよう」

「むぅ~、ゼクスとシビルがそういうなら仕方がないなぁ。今日はそのおにいさん遊んであげる」

 イワトビ国から帰った時に、カレンの痛ましい状況を聞いた。すぐにでも駆けつけて、カレンをなぐさめてあげたかった。
 だけど、カレンは彼女の家となった侯爵家に帰りたがらなかったらしい。ゼクス王子とシビル騎士団長の側から離れようとせず、今もゼクス王子の館に身を寄せている。

 カレンがふたりめの神託の乙女だったという事は、あっという間に広まった。神殿と王家に対しての糾弾はあったものの、一番大切なのはカレンのその身である。幸い、彼女を傷つけるような真似を敢えてしたいと思うものはいない。
 彼女の立場は即座にビィノと同様になり、残り一つの婚約者の空席についても、現在婚約中であるふたりに対しても、ショック状態の彼女が、回復してからの気持ち次第だとして全てが保留状態になった。

 聞くところによると、神託の内容を聞いたカレンは心が受け止められず幼児退行という現実逃避をして自分の心を守ったらしい。

 毎日のように王子たちに守られつつ、聖女様やビィノ様のカウンセリングを受けるうちに、徐々に空虚だった心に感情が戻り、少しずつ精神年齢も成長して来ているようだ。
 それは非常にゆっくりでもどかしい。だが焦った所で悪化しかねない。

 長い時間をかけて、ようやく、母や義姉、ゼクス王子の兄であるジスクール王子も会って話ができるようになった。

  義兄になり、短い間だが仲良く過ごせた俺という存在がカレンに会う事が出来るのかどうか、こうして館を訪れる運びとなったのである。
  カレンが少しでもおかしな様子を見せたら、俺はすぐに消える手筈である。

 今日はカレンの17才の誕生日だ。

  去年の誕生日に渡す事の出来なかった、カレンのために作った世界初の女性用バイクカレンを持って来た。

「わぁ! かわいい!」

 趣味嗜好は変わらないのか、食事も好きな物から始める事で摂れるようになったらしい。以前よりも痩せてしまったカレンの姿を見て目が潤み鼻の奥が痛くなった。
 彼女は俺に素顔を見られないようにベールをしているけれど、とても幸せそうにはしゃいでいるのがわかる。だが、それがより一層侘しさや物悲しさを誘った。

「これはバイクというんですよ。通常の大型バイクと違い、女性用にパワーを落したものなんです」

「バイク? 知ってる! わぁ、くれるの? ほんとに?」

「はい。カレンのために作ったカレンというバイクです。お誕生日おめでとうございます。乗ってみますか?」

「うん! あれ? キーがないよ?」

「これは魔石という魔法の充電器のようなもので動くんです。魔法が使えない君でも動かせるように改良しました。右手のハンドルの側にある小さいボタンで動きますよ。万が一転がっても大丈夫なように、トラブルがあればカレンを守る魔法が発動しますから、安心して動かしてみてください」

「うん!」

 カウルをピンクにして、物が乗せれるように籠を取り付けたバイクの白いシートにカレンが跨る。150センチほどしかないカレンのために、車高は低くした。

「うわぁ、うわぁ。嬉しい! おにいちゃんありがとう!」

「どういたしまして。右のハンドルを手前に回すと動き出します。最高速度は物足りないかもしれないけれど、15㎞/hです。慣れたらもっと速度が出せるように改良してあげますから、今はこれで我慢してください」

「はーい! あれ? ウインカーは?」

「ここには道路が整備されていませんし、バイク自体もそれほど数を出荷していません。乗用車などもありませんから、周囲に人がいない場所で安全に運転する事さえ守ってくれればウインカーなどは必要ありませんから装備はさせていないんです」

「へぇ~なんかへんなの~。ま、いっか。じゃあカレン、いっきまーす!」

 シールド部分にベールのような色を付けたヘルメットを被ったカレンが運転を始めると、真っ直ぐに走り出す。自転車よりもやや速い速度だが、安定しているし大丈夫そうだ。それに、彼女の左右を、まるで優雅な散歩のように守って走るゼクス王子とシビル騎士団長もいる。
 これ以上はないほどの安心安全なバイクを走らせて、カレンはとても楽しそうに笑っていた。

「ねぇ、ゼファーおにいちゃん。おにいちゃんは今度いつ来てくれるの? ハヤブサにまた乗りたいなぁ」

「え? カレン……」

 カレンには、この世界に来てからの、ゼクス王子たちと過ごした記憶以外、ほとんどを忘れているらしい。特にあの会議以降の辛い記憶を無くして、時々記憶がまばらに交じり合うけれど、こうして少しずつこの世界の生活をやり直している状況だ。
 だから、最初はふたりやビィノ様たちしか受け入れなかった。それなのに、俺とのツーリングを覚えてくれているのかと思うと胸が熱くなる。

「カレンもかわいいし、自分で運転できるから楽しいけど、やっぱりビューンって走りたいの! でも、私には無理だから、おにいちゃんが乗せてくれるんでしょう? ね? いつ来てくれる?」

「カレンが望むのなら、いつでもいいですよ」

「ほんと? じゃあね、じゃあねぇ。あ! ねぇ、ゼクス、シビルゥ。いつならいい?」

 カレンが、そんな風に俺におねだりをしてから、ゼクス王子たちを伺った。彼らの許可がないのにお願いした事でばつが悪そうだ。だが、カレンのそんな可愛いお願いを彼らが断わるはずもなく。

「はは、明日でもいいよ? ゼファーの都合も聞かないとね?」

「ゼファー殿が良ければ、俺もいつでもいいぞ」

「わあ! やったぁ。おにいちゃん、いつ来てくれる?」

「俺は、明日でもいいですよ?」

「私、楽しみに待ってるから必ず来てね?」

「はい、必ず来ます」

「ホントに?  約束だよ?  絶対、ぜーったいだよ?」

「わかった、わかったから。フラン(プリン)も持ってきますから明日まで待っていてくださいね?」

「はあい!」

 なんだか、こんなやり取りをした事もないはずなのに、しょっちゅうしていたかのようにとても懐かしく感じる。カレンの運転を、必ずゼクス王子たちと一緒じゃないとしてはいけないと注意したあと、家に帰ったのであった。

 家では、母がソワソワと待ち構えていた。無事にカレンと会う事が出来たし、明日は以前のようにタンデムツーリングをする約束をしたと伝えると、カレンを心配していた母が涙を流して喜んだ。

 母もまた、あの時に強引にここに連れて帰ったり、俺を婚約者にねじ込もうと進めた事で、カレンの心を痛めつけていたのかと気に病んでいたのだ。カレンほどではないが、母もかなりやせてしまっている。

「母上、カレンは芯の強い子だと思います。優しくて、気配りやで。それに、カレンは母上をこちらの国での本当の母のように慕っていたではないですか。必ず立ち直って母上の事をもう一度お義母様って呼んでくれると思いますよ」

 俺がそう言うと、母は涙を流しながら何度も頷き、安心したのか体がふらふら揺れる。義父が慌てて母を抱き上げて部屋に連れて行った。

 カレンは、ここ一年で数年分の精神的な成長を遂げているそうだ。そうする事で、この国に順応しつつ、やがて実年齢と精神年齢が交差する時が来ると聞かされている。

「カレン……」

 一年だ。ほぼ一年ぶりに会えた彼女の笑い声が耳に残っている。まだゼクス王子やシビル騎士団長ほどの信頼は得られていない。
 だけど、俺の事をおにいちゃんと呼んで慕ってくれる姿を思い出すと、体中の血液が歓喜で満ちる。

 やっとだ。ようやくまた会えた、俺のいもうと……

 俺の手で必ず幸せにしてみせる──

 そう心の奥底のどこかで、俺と同じように強い想いを抱えている何かの存在が、王子たちよりも不利な状況で落ち込んでしまう俺を叱咤激励する。

 まずは明日、ハヤブサでタンデムツーリングをして、カレンが喜んでくれるだけでいい。また笑って欲しいと願いながら、ハヤブサの整備をしたのであった。






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